

掲載日:2012年07月10日 試乗インプレ・レビュー
取材・写真・文/河合宏介
カブシリーズに搭載されている自動遠心クラッチを簡単に言うと、クルマのセミATトランスミッションのような「変速の必要はあるけど、エンストはしないギア」だ。オートマチックではないので、アクセルを開けただけ、きっちりと前へ進む印象がある。またエンブレを有効に使って、ブレーキの消耗も少ないエコノミーな運転もできる。試乗車は走行84キロという新車だったので慣らしも済んでおらず、まだ変速ギアは固かった。しかし、その感触は「ガチャリ」ではなく「コクリ」という小気味良さで、ショックの少ない軽快なギアだった。
一速は大量の荷物を積んでいても坂道発進できるような低いギア比なので、荷物を積んでいないとすぐに吹け上がってしまう。つまりスタート専用なので、タイヤがごろりと動いたら素早く2速に入れるのが正解。排気量が50ccなので交通の流れに乗せるために、2速で少しだけ引っぱるのがコツだ。そして定速走行では、3速か4速のどちらかを使う。この4速あるギアが、低燃費を実現している。カタログ値ではリッターあたり110キロだが、都市部を151キロ走って、満タン法で測った燃費はリッターおよそ72キロだった。交通の流れに乗ることを優先して走っても、オートマチックのスクーターでは出せない優れた低燃費だ。慣らしが終了して各部が馴染めば、さらに燃費が伸びる余地は充分にある。この世界に誇れる日本生まれのエコロジー&エコノミーなモビリティに、何の優遇措置もないことが不思議でならないが、とにかく、ガソリン代が気になる通勤やデリバリー業務には最適だろう。
その反面、50ccのスクーターと比べると、動力性能は大きく差をつけられている。出足は遅い。ある条件では60キロのメーターを振り切る速度を出せる実力は持っているのだが、そこに至るまで長くて平らな直線を必要とするのだ。しかし、特記したいのは、最高速度に近いスピードで走っていても振動は少なく、車体が実に安定していることだ。17インチという大径ホイールなので直進安定性が高く、タイヤが細いので接地状態が感じられるしなやかさもある。積極的にコーナーを攻めたり、切り返しを繰り返すような運動は苦手だが、普通に走っている限りトータルバランスは秀逸。未舗装路でも不安なく安定して走ることができるメリットを感じた。突出した性能はないがオールマイティ。それこそがカブの真骨頂だと思う。
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