スポーツスクーター市場を牽引するパイオニア、完成の域に達した第5世代のTMAX

掲載日/2019年6月24日
取材協力/ヤマハ発動機販売
取材、文/中村友彦
写真/伊勢悟
構成/バイクブロス・マガジンズ
スポーツバイクがいつの間にかツアラーになったり、ネイキッドがクラシックに衣替えしたりと、ロングセラーモデルが途中で路線変更するのはよくある話。だが今年で誕生から18年目を迎えるTMAXのコンセプトは、初代からまったくブレていない。このモデルは、時代の変化に応じて各部に最先端技術を取り入れながらも、常にスポーツスクーターの理想を追求して来たのだ。

誕生から18年が経過した現在も
初代で掲げたコンセプトを堅守

2001年から発売が始まったTMAXに対して、僕は昔から漢気を感じている。何と言っても、スポーツスクーター界のパイオニアとして知られるこのモデルは、市場の動向やユーザーのわがままに安易に耳を傾けることなく、18年もの歳月に渡って、我が道を突き進んで来たのだから。

おそらく、これまでに行われた仕様変更の際は、ライバル勢に対抗する手段として、排気量/トランクスペースの拡大や、足着き性の向上、ギアチェンジ機能の追加などが、俎上に上がったことがあるはずだ。でもTMAXはそういった要素をほとんど取り入れることなく、当初のコンセプトを維持したまま、着実な進化を実現して来た。

もちろん、初代と現行モデルを比較したら、快適性や利便性は劇的に向上しているけれど、スポーツスクーターの理想を追求する姿勢は、初代からまったくブレていないのである。

構造的に一般的なニーグリップはできない。ただし、ヒザから下が接しているシート/フロアトンネルの側面を上手く使えば、車体のホールドと荷重&抜重を行うことが可能だ。

さて、冒頭から総論的なことを書いてしまったが、今回の試乗で久しぶりにTMAXを体感した僕は、2017年型で第5世代に進化したこのモデルが、すでに完成の域に達しているのではないか……?と感じたのだった。

まずTMAXにとっての最重要課題である、ワインディングロードでの運動性は、率直に言って文句のつけようがない。もっともTMAXは以前から、スーパースポーツを彷彿とさせる剛性感と旋回性を備えていたのだけれど、ハンドリングの軽快さに磨きをかける一方で、足まわりの動きがしっとり&しなやかになった第5世代は、歴代最高のコーナリングが満喫できるのだ。

そのあたりはパワーユニットにも通じる話で、絶対的な出力は驚くほどではないものの、電子制御式スロットルと後輪の滑りを制御するトラクションコントロールを導入した第5世代は、どんな場面でも臆することなく、思い切ってアクセルを開けられる。

本領を発揮するのはある程度のスピードで飛ばしたときだが、TMAXは巡航もなかなか快適。D-MODEをツーリング指向のTに設定すれば、スロットルレスポンスは穏やかになる。

パワーユニットに関しては、絶妙なエンブレも特筆すべき要素だ。エンジンブレーキがほとんど期待できない一般的なスクーターとは異なり、TMAXはコーナー目前でスロットルを閉じると、程よいエンブレがかかり、車体後半を路面に押し付ける挙動が発生する。

もちろんその挙動は、乗り手にとって大きな安心感につながるのだが、改めて考えるとこの車両でスポーツライディングしている最中は、路面の凹凸の吸収、車体の倒し込み、ブレーキング、スロットルの開閉など、すべての挙動と操作で、乗り手の自信につながる安心感が得られる。そういう特性を実現しているからこそTMAXは、楽しく、速く走れるのだろう。

一般的なスクーターと比較すると、腰高な印象ではあるけれど、TMAXのライディングポジションは至って真っ当で、長距離を走っても尻やヒザなどに妙な痛みは発生しない。

スポーツ性に特化したスクーターではあるものの、TMAXは市街地走行やツーリングも快適にこなすことができる。もっとも運動性能を重視した結果として、シート座面はかなり高めに設定されているので、小柄なライダーはとっつきづらさを感じるかもしれないし、場面を限定して考えるなら、TMAX以上の能力を備えるモデルは山ほど存在する。

とはいえ、TMAXで市街地走行やツーリングを行って、何らかのストレスを感じるかと言うと、少なくとも僕の場合はまったく感じなかった。その理由としては、身体のどこにも無理がかからない真っ当なライディングポジション、乗り手の操作に対する実直な反応、上質な乗り心地を実現する前後サスペンションなどが挙げられるものの、今回の試乗では、第5世代から導入された走行モード切り替えシステムのありがたさを実感。

ちょっと古い例えで恐縮だが、Sモードではレーシングキャブレターを思わせる鋭い吹け上がり、Tモードでは負圧式キャブレター的な優しさが味わるこの機構のおかげで、TMAXの守備範囲は大幅に広がったのだ。と言っても、前述したようにこのモデルのコンセプトは、第5世代でもまったくブレていない。

近年の2輪業界では、メガスクーター市場は徐々に縮小傾向……?という説があるけれど、おそらく、どんなに市場が縮小しようとも、TMAXの基本理念と市場における人気が揺らぐことはないだろう。

長きに渡って堅実な進化を続けて来た
アルミフレーム+並列2気筒車

2017年以降のTMAXは、SX(スタンダード)とDX(上級仕様)の2機種を併売。バックボーンタイプのフレームはアルミダイキャスト製で、215/218kgの車重は、近年の500cc以上のスクーターではダントツの軽さ。その一方で46psという最高出力は、ライバル勢にやや劣るものの、実際にTMAXを体験して、パワー不足を訴える人はほとんどいないだろう。

従来型に通じる雰囲気を維持しているものの、’17年型以降のフロントマスクは“小顔”。スクリーンの高さは、SX:ボルトの差し替えによる2段階(高さ55mm差)、DX:電動による無段階調整式(高さ135mm幅))。

コクピットは高級セダンをイメージしてデザイン。DXはグリップ/シートヒーターとクルーズコントロールを標準装備。エンジン特性を変更するD-MODEの切り替えボタンは、右スイッチボックスの中央に備わっている。

アナログ式の速度/回転計と3.5インチのモノクロームTFTモニターも、高級セダンを思わせる雰囲気。イグニッションキーは近年になって普及が進んでいるスマートタイプ。

座面がフラットなシートは着座位置の自由度が高く、状況に応じて前後左右にスムーズに移動できる。トランクスペースの容量はライバル勢より控えめで、フルフェイスヘルメット×2個という状況は想定していないようだ。

シリンダーがほぼ水平配置となる並列2気筒エンジンは、独創的なピストン式バランサーを採用。トラクションコントロールシステムは、走行状況に応じてオフが選択できる。

フロントフォークはφ41mm倒立式で、フレームとの締結には、一般的なモーターサイクルと同様のトップブリッジ/アンダーブラケットを使用。フロントブレーキキャリパーはラジアルマウント式4ピストン。

スポーツ性を強調するべく、マフラーはかなりのハイマウント。ブレーキディスクは、F:267mm/R:282mmで、リアにはパーキングブレーキ用のキャリパーが備わっている。

リアサスペンションはリンク式モノショックで、一般的なショックとは逆方向に動くユニットは地面と水平にマウント。DXはプリロードと伸び側減衰力を調整することが可能。

スイングアームはアルミ製。2次駆動にはカーボン系繊維のベルトを採用する。前後15インチのタイヤはラジアルが純正指定で、試乗車はダンロップ・ロードスマートⅢを装着。

INFORMATION

住所/静岡県磐田市新貝2500
電話/0120-090-819