モノづくりの現場で認められた
TONEのツールで愛車のメンテを万全に
取材協力/TONEドゥカティ大阪イースト  取材・撮影・文/木村 圭吾 構成/バイクブロス・マガジンズ編集部

1938年創業の総合工具メーカーのTONEは、ソケットレンチの国産化やステンレス製工具の製造・販売を他に先駆けて成し遂げてきたツールメーカーだ。TONEの工具は精度と耐久性の高さから建設現場や工場で高いシェアを誇っているが、近年、バイクやクルマの愛好者にも広まりつつある。そんなTONEの工具に迫ってみよう。

TONEの由来は利根川にあり
高い金属加工技術で生まれる工具たち

近年、モータースポーツに参戦しているチームへのサポートなど、バイクやクルマのユーザーにも裾野を広げようと活動領域を広げているのが、総合工具メーカーであるTONE(とね)株式会社だ。

前身的な存在である輸入工具を扱っていた前田軍治商店は、1925年に大阪市内に開設。1938年になると、工具製造業として前田金属工業株式会社となり、国産初のソケットレンチを生み出すことになる。戦後は民需用に転換し、現在に至るまで建設分野の工具では高いシェアを持っており、明石海峡大橋や東京スカイツリーを始めとした、さまざまな建築物の締結に使われている実績を持っている。

設立から75年、株式上場から50周年となった2013年に、社名をTONE株式会社に変更し、商品ブランド名との統一化が図られた。なお『TONE』の名称は関東を流れる利根川に由来している。発足当時に海外メーカーの工具に川の名前を使われていたことが多かったためだが、それだけではなく、河川が人々の生活にとって大切なインフラの一部であるように、工具も使われる現場において大切なインフラであるようにとの思いが込められている。

これまでは工具としての品質探求を重視し、質実剛健さや機能に徹していたが、ハンドルやスパナ類といった一般ユーザーが手にする製品のリニューアルを敢行しデザインを一新、2014年にはグッドデザイン賞を受賞した『魅せる』工具も生み出している。

日本国内のみならず、世界各国のユーザーからも高い評価と信頼性を得ているTONEの製品。そのバックボーンにあるのは、工具作りには必要不可欠な金属加工技術だ。同社の長い歴史の中で培われてきており、そのレベルの高さを現しているのが、業界初となったステンレスを素材とする工具類である。

ステンレスの特色は、錆の発生が起こり難いことにある。その一方で元々の鉄と比べて(ステンレスは鉄にニッケルやクロムを加えて作り、表面に酸化皮膜を形成することで錆の発生がし難くなる)硬度が高くなり、工具の製造に工程で必要な切削加工を施すことが、難しいのである。

それでも製品化を果たしたのは、それを求めるユーザーの声に応えるためだ。通常の工具では表面保護のためにメッキが施されているが、稀に剥離することがある。それは食品や医薬品の生産工場では『異物混入』の不安がつきまとうことになる。その点ステンレスならばメッキによる表面処理自体が不要のため、剥離とは無縁になるのだ。また海水など塩分の多い船舶などの整備でも、重宝されている。さらには、高所作業など軽量化を求める声にも応えて、チタン製の工具類もリリースされている。それらは決して特注品では無く、同社のカタログにも載っている製品である。

バイク整備には、高価なためステンレスやチタン製の工具までは必要ないが、普通のスチールベースの工具にもTONEの高い金属加工技術は惜しみなく注がれているのは、言うまでもない。工具に刻まれた、それぞれの『TONE』のロゴは、信頼の証でもあるのだ。

今回は、TONEの工具を使ってドゥカティ正規ディーラーであるドゥカティ大阪イーストで、整備や修理を行なっているサービス担当の田中祐介さんにフロントディスクローターの交換作業を実施していただいた。

「正規ディーラーなので、普段は基本的にはメーカー指定の工具を使っていますが、工場の自分のツールチェストの中には、メガネレンチの一部などにTONEの工具も入っていて、気になっているメーカーのひとつでもあります。

大きさの違う何種類かのトルクレンチを試させていただきましたが、グリップ部分がほどほどの太さで握りやすく、トルク値をセットする際にも目盛りが見易いのは良いですね。そして、普段使っている物よりも、重量が軽いことに驚かせられました。

個人的に興味が湧いたのは、ハンディデジトルクでした。ラチェットやスピンナハンドルなどが、トルクレンチとして使えるのですから。プレセット型に慣れているので、その点での戸惑いは若干ありましたが、指定したトルク値を得るのに光と音で解りやすいと思いますし、設定できる範囲も広いですし。

自分でメンテナンスされる方は、ちゃんとした工具を使って、トルク管理をキッチリとして欲しいと思っています。たまにオーバートルクで締めてボルトを破断して抜けなくなって、車両を持ち込まれる方もいます。場所や状態によっては抜くのが大変で、そのぶん余計な出費となってしまいます。ぜひ、トルクレンチや、ハンディデジトルクを使って、トルク管理をして欲しいですね」。

正確な工具と正しい整備手順の理解で
バイクメンテナンスはさらに安全快適に!

『TONEの工具を使った作業・実践編』として、ドゥカティ大阪イーストのサービス担当の田中祐介さんに行なっていただいたフロントディスクローターの交換作業の模様をダイジェストで見てみよう。その際は、フロント回りをメンテナンススタンドで持ち上げることが必要になるが、ブレーキキャリパーなどタイヤが接地した状態の方が力を入れやすい箇所は、その状態で取り付けボルトを緩めるなどをしておく。この作業に限らず、車体からパーツを取り外す際は『どこから、どのような状態で外すのが』を考えて行なう。今回の作業では、ディスクローターを始めとして、多くの部分で取り付けの際にはトルク管理が必要になった(※あくまでも作業例紹介あり、個人での作業を推奨するものではありません)。

フロント回りをメンテナンススタンドを使ってあげる前に、フロントタイヤが接地した状態の方が力を入れ易いキャリパーの取り付けボルトを緩めて取り外す。工具はラチェットハンドルにヘキサゴンのコマの組み合わせだ。

フォークから取り外したキャリパーは、接触による傷付きを防止するために、画像のようにウエスや軍手などでくるんで養生しておく。

フォーク下部にあるアクスルのクランプボルトを緩める。こちらもキャリパー同様に、ラチェットハンドルにヘキサゴンのコマの組み合わせ。

アクスルナットを緩める。高いトルクで締まっているので、柄の長いスピンナーハンドルに六角のソケットを組み合わせている。ハンドルが長い方が、てこの原理で作業者が掛ける力が少なくて済む。

使用する工具や外したボルト類などは、画像のようなバットやトレーなどに入れて保護や紛失を防止する。溶剤で冒されることがない場合には、プラスチック製でも良い。

ディスクローターの取り外し。取り付けボルトには緩み防止のロック剤が塗布されているが、緩まないからといってバーナーなどで加熱するのはNG。塗装やベアリングのシールを傷めてしまう。

ディスクローター取り付けの際には、ボルトにロック剤(画像で青くなっている物)を塗布する。ロック剤にも種類があり、指定された強度の物を使用すること。

取り付けボルトは指で回して軽く挿入した後に、取り外し時と同様にラチェットハンドル+トルクスソケットの組み合わせで仮締め。

最後にトルクレンチを使って、規定のトルク値で本締め。ここでは、カチッという音と、カクッとしたショックでトルクが達したことを知らせるプレセット型が用いられている。

10ボルトやナットを締め上げる際には、歪みを極力少なくするために対角線で行なのがセオリーだ。このディスクローターのように、5本のボルトが使用されている場合は、上→左下→右上→左上→右下と星を描くようにするのが基本(ただし、パイプハンドルのハンドルポストなど、例外も多数存在する)。

11ホイールやキャリパーを取り付けて、作業は完了。各ボルトの取り付けには、トルクの管理が行われた。アクスルシャフトのナットの本締めには、スピンナーハンドル+ハンディデジトルク+ソケットの組み合わせで実施。

12手前がハンディデジトルク、奥がプレセット型のトルクレンチだ。TONEのトルクレンチは数字が表示され、設定するトルク値が読み取り易い。

13ハンディデジトルクは、ハンドルとソケットの間に挟み込んで使用する。つまり、ラチェットハンドルやスピンナーハンドルなどが、トルクレンチとして使えるのだ。音と光でトルクの状態を知らせ、設定範囲が広いのも特色である。

14今回の作業で使った工具たち。向かって左から、トルクレンチ、ラチェットハンドルが2種、ハンディデジトルク、スピンナーハンドル、ソケットが4種類。

15外装が外せるようになると、普段は手の届かないカウルの内側などの清掃も可能になる。取り外しの際には「目に見えない箇所にボルトがある場合がありますので、それを外さないまま無理に外装を外そうとすると、爪を破損したりすることがありますから、注意してください」と田中さん。

16外装を始めとして、バイクでは頭部に六角形の凹部を持つボルトが使われていることが多い。画像のヘキサゴンソケットとラチェットハンドルの組み合わせは、1セット持っていると何かと重宝するツールだ。

17必要になったら、その都度購入するのも良いが、一揃いがツールボックスに収められたセット品も、TONEでは何種類か用意されている。

BRAND INFORMATION

住所/大阪府河内長野市寿町6-25
電話/0721-56-1850
営業時間/10:00-17:00
定休/土、日、祝日
工具の製造を目的に1938年に創業され、利根川を語源とする『TONE』のブランド名も1941年から展開。2013年に社名変更し、ブランド名と統一。創業以来から積み上げられた金属加工技術の高さで業界をリードし、ステンレス製の工具類も先駆けた。レースに参戦しているチームへのサポートなど、バイクやクルマのユーザーにも裾野を広げている。
取材協力
住所/大阪府東大阪市荒本北3丁目2番9号1
電話/06-6747-0087
営業時間/10:00~19:00
定休日/ 火曜日、第1・第3水曜日 (祝日は営業)
ドゥカティ正規ディーラーとして2014年に中環状沿いにオープン。現行モデルラインナップが見られる他、アパレルも充実。2008年からは鈴鹿8耐にも参戦しており、レースフィールドで得られたノウハウをベースにした高い技術力を一般ユーザーの車両にもフィードバックさせている。カスタムにも積極的に取り組んでおり、ペイントも得意分野だ。