
取材協力/Technix(テクニクス) 取材・撮影・文/田宮 徹 構成/バイクブロス・マガジンズ
掲載日/2012年4月20日
テクニクス代表の井上浩伸氏。「オイルは置いておいただけでも劣化するので、新車から初めてオーバーホールする際は、通常のサイクルよりも少し早めがお薦めです」とのこと。
埼玉県を拠点とするテクニクスは、オーバーホールやチューニングなど、バイクのサスペンションに関することすべてに対応してくれるサービスショップだ。その豊富な知識と確かな技術は、様々なレースカテゴリーに参戦する多くの国内レース関係者からも、絶大な信頼を得ている。ところで、高度な技術によるサスペンションのメンテナンスやチューニングは、何もレースシーンでのみ効果的なメニューというわけではない。
「たとえば、長年の使用でサスペンションがヘタることにより、簡単に言えば落ち着きがない乗り心地となり、ツーリングや街乗りでも楽しく走れなくなります。サスペンションは車体の姿勢を決める役割も担っているので、サスペンションが本来の力を発揮できなければ、どんなに良い新品タイヤを履いたとしても、うまく曲がれなくなります。」と、テクニクスの代表を務める井上浩伸氏。
左は 5,000km 以上走行したリアショックから抜いたサスペンションオイル。右の新品と比べて明らかに汚れたその見た目からも、サスペンションオイルの劣化が想像できるだろう。
最近の高性能サスペンションには数多くのパーツが使われていて、一般ライダーがサンデーメカニックでメンテナンスするのはかなり難しい。専門のショップにお任せしたい
また、タイヤとともに路面へとエンジンの力を伝えるのも、サスペンションの仕事。せっかく高いエンジン性能を誇るバイクに乗っていても、ヤレたサスペンションでは本来の性能を満喫しているとは言えないかもしれない。井上氏によると、「サスの中でまず劣化するのがオイル」だという。サスペンション内部のオイルは、ごく簡単に言うなら、バネが伸び縮みを繰り返そうとする動きを抑制するダンパーの働きをしている。サスペンションオイルは、狭い通路を通りながら高速でかく拌され、高温になることなどから、劣化してしまうのだ。
「オイルの劣化は、ある日突然やってくるのではなく、サスが組まれてから性能がカウントダウンされていきます。そして徐々に性能が落ちていくサスに対し、ライダーが慣れてしまうので、ベストからほど遠い状態になるまで愛車のサスが劣化していることに気がつかないこともたくさんあるのです。」
しかし、エンジンオイルを頻繁に交換する街乗りライダーは多くいるが、サスペンションのオーバーホールを定期的に行っている人は意外と少ない。そこでテクニクスでは、「通常のストリートユーザーには、1万kmまたは2年ごとのオーバーホールを推奨しています」とのこと。街乗りライダーの場合、サスペンション性能が大きく低下したままの愛車に乗っている可能性も大いにある。ぜひ定期的なオーバーホールで、足まわりのリフレッシュを図りたいところだ。
SHOP DATA
2002年1月創業。米国MX-TECH社にて本場の技術を習得し、欧州のサスペンションメーカーで理論を学んだ専門のスタッフが作業を行う、バイク用サスペンションのプロフェッショナルショップ。
住所/埼玉県春日部市永沼652-1
電話/048-745-0801
営業/09:00-19:00
定休/日曜、祭日
大切な愛車のサスペンションを、テクニクスにメンテナンスしてもらうメリットはいくつもある。たとえば、一般的なバイクショップでは受け付けてくれないリアショックのオーバーホールも、サスペンション専門ショップのテクニクスであれば、分解できるモノについてはオーバーホールが可能。長年の経験により、普通のバイクショップにはないサスペンションデータも蓄積。特性の変更や各種チューニングなどにも対応している。
フロントフォークのオーバーホールは、一般的なバイクショップでもできる。しかしテクニクスなら、専門ショップならではのきめ細やかでノウハウが詰まったメンテナンスが受けられる。さらに、たとえばスプリングのヘタりについては、通常ならばバネをフリーにしたときの長さ、つまり自由長で管理するが、テクニクスではバネレートのチェックも行える。バネレート数値は、一般的なメーカーは未公表だが、テクニクスでは新品時に計測したデータを多く持っているのだ。
リアショックのオーバーホールには特殊な工具や専用のパーツが必要で、一般的なバイクショップでは行えない場合も多い。しかしテクニクスなら、分解できるリアショックについてはすべてオーバーホールすることができる。ブッシュやシールなどは基本的に純正パーツを使用するが、これが入手できない場合、同等のクオリティを持つパーツを使う。作業では、従来の手作業ではほぼ不可能とされるオイル内の完璧なエア抜きが可能な、ショックバキュームポンプも使用する。
テクニクスでは、様々なサスペンションチューニングにも対応してくれる。各部の仕様変更によるローダウンや、減衰力特性を変更してワンランク上の走りを目指すリバルビングをはじめ、サスペンションに関することはすべて、相談や作業に応じてくれる。
チューニングメニューの中でもお薦めなのが『SKFフォークシール』だ。これは、フロントフォークに使われるオイルシールとダストシールを、純正品と比べて20%以上もフリクションが少なく、なおかつ耐久性にも優れるSKF製へと変更するもの。これにより、フロントフォークの作動性が大幅に向上。費用対効果に優れたチューニングメニューとなっている。
また、フロントフォークのインナーチューブをはじめとする、各部のコーティング加工も行ってくれる。ブラケット類のコーティングなど、ドレスアップ効果が期待できるメニューにも注目したい。リバウンドアジャストシステムやコンプレッションアジャスターなど、オリジナルパーツも豊富に用意されている。
ストリートユーザーの中には、「サスペンションをチューニングしたいけど、何をどうしたらよいのかわからない」と悩む人も多いだろう。そんな時、強い味方となってくれるのがテクニクスだ。「車両をそのまま持ち込んでもらえれば、確かなスキルを持つスタッフが試乗させてもらって、現在のコンディションやセッティングを確認してから、お客様が望む足まわりへとチューンを施していきます」と井上氏は自信を見せる。ちなみにテクニクスでは、車両預かりによる作業に完全対応している。
一方で、「家が遠くて愛車を持ち込めない」というライダーもいるだろう。もちろんテクニクスでは、サスペンション単体を宅配便で送れば、オーバーホールやチューニングを行ってくれる。しかしこれでは、一般的にオーナーの不満は分かりづらいはず。ところが「専門ショップとしての長年の経験から、お客様が不満に思っている点を、現状のデータからある程度割り出すことができます」と井上氏。遠方のユーザーにとっても、テクニクスはサスペンションに悩むライダーの駆け込み寺となってくれるのだ。
さて、気になるテクニクスのメンテナンス価格は、基本のオーバーホールであれば、フロントフォークが2本で3万円ほど、リアモノショックが2万円程度。価格は車種やサスペンションの状態によって異なるが、随所に専門ショップのノウハウが詰まった作業が受けられ、1万kmまたは2年ごとの依頼と考えれば、意外とリーズナブルである。
ハイクオリティなサスペンションサービスは、高嶺の花ではない。こだわりを持つ上級者ばかりでなく、エントリーライダーや公道ユーザーも、テクニクスの力を借りながら、ぜひ愛車と自分に合った気持ちのよい足まわりを追求してほしい。