取材協力/パパコーポレーション  記事提供元/モト・メンテナンス編集部
※この記事は雑誌『モトメンテナンス』131号P14~15に掲載された内容を再編集したものです。記事の内容は雑誌掲載当時のものです(2017年4月15日発売)
掲載日/2017年9月6日

エンジン性能の向上やエンジンのライフアップ=寿命アップ、また、車体各摺動部の作動性に関して大きな鍵を握っているのが摩擦抵抗だ。部品が擦れ合う摺動部がバイクには数多くあるが、そんな部品の中でも、重要保安部品と呼べるのが前後ブレーキである。ドラムブレーキもディスクブレーキもいずれも天敵なのが「湿気」である。ここでは、レバータッチがヘンでブレーキが効かないディスクブレーキのメンテナンスを実践してみた。

久々にバイクを引っ張り出して乗ろうと思ったときや「乗らないバイクがあるから取りに来れば......」なんて嬉しいお話があっても、前後ブレーキが固着していたり引き摺っていると、バイクを引っ張り出すにも苦労してしまう。ドラムブレーキにとって湿気は大敵で、数年の露天放置で大きなダメージを受けてしまうことが多い。ホイールを取り外し、ハブからブレーキパネルを引っ張り出した衝撃で、シューの摩擦材部分が「パカッと外れて......」。そんな経験をしたことがあるポンコツいじり好きは数多いはずだ。ドラムブレーキのシューは摩擦材が接着剤で焼き付け固定されており、シュー本体のアルミ表面が腐食すると、摩擦材を白サビが持ち上げ、そのような結果になってしまうのだ。

ディスクブレーキの場合はどうだろう?露天放置だとドラムブレーキ以上にコンディションを崩すのは早い。しかし、倉庫や屋根の下で雨水を直接受けず、コンクリートや木材の地面なら、ダメージは受けにくい。

 

今回、メンテナンス実践したのはヤマハTT250Rレイド。オフロードモデルである。オフ車と言えば、悪路や林道、ときには沢の流れを横切る走りもあるため、水分や湿気に対する対応力は強い。さらには樹脂ピストンを採用しているため、ピストンがキャリパー本体にサビで固着することも少ない。しかし、さすがにピストンシールがダメージを受ければピストンは固着してしまう。今回は、長年に渡る湿気の影響で、キャリパー側はピストンシールとダストシール溝に結晶化したブレーキフルードが堆積。ピストンの動きを悪くしていた。この結晶化した不純物は、湿気を吸ったブレーキフルードが変質したものだ。マスターシリンダー側もレバーは作動するがブカブカだった。

そこで、マスターシリンダーのリザーブタンクキャップを取り外すと、なんとブレーキフルードがクラッシュゼリー? それとも寒天? みたいになっていたのだ。こんなフルード変質の原因もズバリ、湿気である。保管場所の温度と湿気のバランス状態によっては、このような現象になってしまうことがある。

ブレーキメンテの強い味方、スーパーゾイルのラバーグリース

倉庫の中で数年間放置されたことで、ブレーキフルードがクラッシュゼリーのような感じに変質。ブレーキホース内に残った僅かなブレーキフルードが、キャリパーピストンを何とか作動させていた。

このフロントブレーキ、完全固着していたわけではなくブレーキレバーもポンピング可能だったので(レバーを握ってもアタリが無い=ブカブカ状態)、今回は、分解洗浄で再起できるのではないか? と判断。早速、作業に取り掛かった。ブレーキと言えば、重要保安部品のひとつである。DIYメンテナンスを実践する際には、マシンオーナーの責任に於いて作業進行しなくてはいけない。とはいえ、完全固着していないキャリパーメンテナンスでは、決して大きな苦労は無いのが正直な印象である。重要なことは、徹底的にパーツを洗浄し、機能部分に不具合が無いか? しっかり目視点検し、確実に復元することである。マスターシリンダー本体の場合は、リザーブタンクの底にある2箇所のポートが詰まっていないか、確認しよう。特に、ブレーキホース側は極小さな穴なので、詰まるとエアー抜きできない原因になる。固着スラッジで穴詰まりしている場合は、極々細ニードルでつっ突いた後に、エアーブローすれば通気状態を得られることが多い。

ブレーキメンテの強い味方、スーパーゾイルのラバーグリース

ダストブーツに弾力があるなら、取り敢えずは再利用可能なので、ブーツを切らないように取り外してからインナーピストンを抜け止めしているサークリップを取り外そう。専用工具が必要だ

ブレーキメンテの強い味方、スーパーゾイルのラバーグリース

マスターシリンダー内部のブレーキフルードもゼリー化していた。オフロード車のマスターインナーは、キャリパーピストン径が小さいので実に細い。

ブレーキメンテの強い味方、スーパーゾイルのラバーグリース

マスターシリンダー本体で要注意なのは、覗き窓へクラックが入っていないか? マスターシリンダーのリザーブタンク底にある2箇所のポートのブレーキホース側(小さな穴)が詰まっていないか?

ブレーキメンテの強い味方、スーパーゾイルのラバーグリース

抜き取ったインナーピストンは新品ブレーキフルードでしっかり洗浄し、ルーペでカップシールリップにダメージや偏摩耗が無いかを確認しよう。再利用可能ならラバーグリースを塗布しよう。

ブレーキメンテの強い味方、スーパーゾイルのラバーグリース

マスターシリンダー本体にインナーキットを復元する前に、マスターシリンダー内部を点検しよう。ピストンが細く指先が入らないので、ルーペを使って内部を目視点検すると良い

抜き取ったインナーキットは新しいブレーキフルードで洗浄。カップシール部分は指先でもみ洗いだ。ルーペ(虫めがね)を使ってシール摺動外周に偏摩耗が無いか? 特に、注意深く点検しておこう。偏摩耗があると他の外周とは輝きに違いがあるはずだ。そんな復元作業時に使えるケミカルが、スーパーゾイル・ラバーグリースである。

SUPER ZOIL RUBBER GREASE 100g 税別価格◎2,200円

金属部品とゴム部品の接触面や摺動面に使用することで、フリクションロスの低減(摩擦抵抗の低減)として大きな効果を得られるのがスーパーゾイル・ラバーグリースだ。オイル感が不足するとゴム部品は抵抗を増やし、作動性を著しく低下させてしまうものだ。ラバーグリースはブレーキフルードなどのグリコール系潤滑油に溶けるので、ブレーキメンテナンス時に安心して使うことができる。

金属表面とラバーやゴム部品、樹脂部品が擦れ合う箇所で高い潤滑性を発揮するのがこの商品で、今回のように中古部品の再利用時にも、特に安心して使うことができる。潤滑性の向上と金属表面改質効果を持つゾイル成分が含有されているため、ラバーグリースとしての機能はもちろん、ピストン本体とシリンダー内壁の摺動部分は金属表面改質再生効果によって、極めて高い作動性を期待できるのだ。スーパーゾイル・ラバーグリースは、DOT4系列のブレーキフルードと相性が良く、溶けて馴染む性質があるため、分離などの心配は必要ない。キャリパー本体に関しても、抜き取ったピストンや各シールの洗浄後、それぞれの部品にスーパーゾイル・ラバーグリースを塗布しよう。

ブレーキメンテの強い味方、スーパーゾイルのラバーグリース
ブレーキメンテの強い味方、スーパーゾイルのラバーグリース

完全固着ではなく動いていたため、単体キャリパーのピストン部分にウエスを押し付け、ブレーキホース接続穴からエアーガンで圧縮空気を封入。ピストンが動いてほぼ完全に摺動面が露出した。目立つキズは無い!!

ブレーキメンテの強い味方、スーパーゾイルのラバーグリース

分解したキャリパー本体と抜き取った2個。そして、ピストン用のピストンシールとゴミ除去用のダストシール。固着は無くスムーズに抜けたので、こんな感じなら洗浄復元が可能だろう。

ブレーキメンテの強い味方、スーパーゾイルのラバーグリース

キャリパー本体をクリーンナップ。外側ではなくピストンが収まるシリンダーを徹底的に。しかし、キズを付けないように作業するのが鉄則。シール溝はピックツールや溝クリーン棒を使おう。

ブレーキメンテの強い味方、スーパーゾイルのラバーグリース

ダストシールとピストンシールは新しいブレーキフルードを塗布してから、爪先で汚れをしごくように取り除く。決して引っ張ったりしてはいけない。今回はバッチリ清掃できた。

ブレーキメンテの強い味方、スーパーゾイルのラバーグリース

キレイになった各シールにはスーパーゾイルのラバーグリースを適量塗布。塗りすぎても効果は変わらないので、あくまで適量で。ラバーグリースを塗布するとピストンが吸い付くようにスムーズに!!

ブレーキメンテの強い味方、スーパーゾイルのラバーグリース

同じようにピストン本体も爪先で清掃した。オフ車用のキャリパーピストンは樹脂ボディが多い。樹脂対ラバーでもラバーグリースの効果は大きく、それは復元時の作動性で理解できる。

今回のケースでも、まったく違和感無くスムーズな作動性を得ることができた。ちなみにリアブレーキに関しては、目立った引き摺りが無かったので(チェーン&スプロケットはダメでした)、ブレーキフルードの入れ換えとピストンの揉み出し&クリーニング、そして、ピストン側面にスーパーゾイル・ラバーグリースを適量塗布。ブレーキピストンの作動レスポンスは、これまで以上に良くなった。

ブレーキメンテの強い味方、スーパーゾイルのラバーグリース

キャリパー本体は、スライドガイドが付くキャリパーブラケットと組み合わせてボトムケースにマウントされる。ガイド棒や受け側も洗浄し、ここにはスーパーゾイルグリースを塗布した。

ブレーキメンテの強い味方、スーパーゾイルのラバーグリース

ブレーキパッドも洗浄し、エッジのバリは平ヤスリで削ろう。パッド残量が無かったので、この作業後にブレーキパッドを発注した。パッド背面には鳴き止めグリースを塗布した。