旧車や絶版車のレストアでは、古くなったペイントの剥離作業で大活躍!! 汚れたクランクケースのクリーニングやアルミの白サビが目立つ無惨なエンジンパーツでも、仕上がり時にはピカピカ光沢仕上げが可能!! そんな外装関連部品以外にも、使い方次第で様々な機能を発揮させることができるサンドブラスト。ここでは、国内で大きなシェアを誇る量産工場向けブラスト装置メーカーが開発した、一般ユーザー向けの「エアーブラスト装置」をリポートしよう。
サンドブラストやウエットブラストと出逢ってすでに30数年。あの驚き以来、いつかは「マイブラストキャビネットが欲しい!!」なんて思いつつ、ガレージを所有し最初に購入した機器がサンドブラストキャビネットだった。そんな縁もあり、本誌創刊後も様々なメーカー、様々なタイプのウエット&ドライブラストを実体験してきたが、サンメカ目線で見たときに、今回出逢った新東工業製「KENX-Ⅰ」は、これまで経験した他のブラスト装置には無い決定的な違いや特徴があり、それがもの凄く魅力に感じてしまった。
我々サンメカにとってサンドブラストと言えば、汚れた部品のクリーニングや古いペイント剥がしに重宝する機器なのだが、実は、高機能表面処理技術のひとつとしても広く知られている。鋳物部品は型合わせ部にバリが発生することで知られるが、素材が金属であろうと樹脂部品であろうと、メディアを使い分けて処理することで、発生したバリの除去を容易かつ効果的に実施できるようになる。
また、金属表面にメディアを高速でぶつけることで、金属表面に発生した残留応力を分散しつつ、表面硬度を高めることもできる。自動車やバイクのエンジン部品では、極めて細かい粒度のメディアを高速でショット(ブラスト)することで、部品同士の摺動性向上や表面硬度を高める技術も普及し始めている。さらにモリブデン粒子をショットすることで、摺動部分のカジリ防止や作動性&耐摩耗性を向上させる技術もある。エンジンチューニングで他人と差を出したいレーシングチームやエンジンいじりを趣味にするサンデーメカニックにとっては、実に魅力的な表面処理技術としても知られているのがブラスト処理なのだ。もちろん、我々が知らない世界でも、様々な用途で使われ、幅広く応用されている。
愛知県名古屋市の新東工業株式会社は、鋳造技術および鋳造周辺技術に関する国内屈指の大手メーカーだ。自動車産業や重工業の生産拠点が多い愛知県を中心に、日本全国に数多くの製作所や事業所を持つ。前述したように鋳造技術に関する周辺技術のひとつとして、新東工業にはブラスト事業部があり、同事業所で開発生産されているのが、今回ここにリポートするエアーブラスト装置「KENX-Ⅰ」である。
第一印象は、コンパクトなキャビネットの中に、様々な機能が詰め込まれているということだった。サンメカ向けの普及型市販キャビネットは、キャビネット本体のみの商品が多く、粉塵を処理する集塵機能は持たない例が圧倒的に多い。
一方、KENX-Ⅰは、作業スペースを含め、たたみ 一 畳ほどの設置面積があればすぐにでも利用可能な本体サイズだ。インフラとして必要なのは、集塵ブロアの電源となる三相200V。コンプレッサーからの圧縮空気。切れ間無く連続使用する場合の推奨コンプレッサー出力は5.5Kw(約7馬力相当)だ。コンプレッサーが大きいに越したことはないが、仮に、100リットルクラスのサージタンクを準備すれば、小型コンプレッサーでも必要十分な処理能力を得られそうだ。ちなみに、今回使わせて頂いたデモ機は三相電源仕様だったが、バイクショップやサンメカからの要望が数多くあり、近日中には家庭用電源=AC100Vコンセントから電源を引けるさらなる普及仕様がラインナップされる。
何より驚いたのが使用するメディアの少なさである!! メディアと空気の流れは、ブラスト処理後、集塵ブロアによって導かれたメディアと粉塵は、キャビネットのメインホッパー部(作業スペース直下)からサイクロンを通過し、粉塵と再利用するメディアに分けられる。そのメディアはキャビネット内ホッパーとは別の小型ホッパーに集められ、粉塵は専用の集塵引き出しに落下する。ブロアが引く空気は濾紙式の大型エアーフィルターを介して大気解放されるので、排気される空気はクリーンな状態だ。さらに別室のホッパーに落ちたメディアは再び圧縮空気の負圧によってブラストガンへと導かれてブラスト処理に使われる。この繰り返しが効率良く行われるため、従来の吸い上げ式サンドブラストキャビネットのように、4~5kg近くのメディアをホッパーに入れる必要無く、効率の良い連続処理が可能になるのだ。ブラスト処理に必要なメディアは、実に1kg未満!! 下処理のアルミナでも仕上げのガラスビーズでも800g程度しか利用しなかった。
この利用するメディアが少なくて良いため、メディアの切れ味が落ちたときに大雑把なメディア交換が無用になるのも嬉しい部分だろう。定期的に廃棄しなくてはいけない粉塵は、専用の引き出しに落ちるので掃除も楽々!!メディア交換を効率良く行えるので、頻繁に異種メディアに交換しても、作業(交換)手順さえ間違わなければ、ブレンドメディアになってしまうことも無く、メディアを作業エリア周辺に撒き散らしてしまうことも少ない!!
気になるのは、どのぐらいの大きさのパーツを処理できるのか? おおむね4気筒エンジンの分解済みパーツなら通常ユースで利用できる。具体的にはカワサキZ1やホンダCB750Kシリーズのエンジンがそれだ。仮に、パンチングメッシュのプレート作業台を改造したり、取り外すことで、モンキークラスのフレームなら処理できるかも知れない? いじり好きやカスタム好きにとっても、いろいろ試したくなり、妄想を抱かせてくれるのが、新東工業のKENX-Ⅰである。
商品名/KENX-Ⅰ
標準本体価格(税抜き)/75万円(販売代理店経由)
幅800×奥行700×高さ1450mmのキャビネット本体。電源は3相200V仕様だが、近日中にサンメカ待望のAC100V仕様が登場する。作業者スペースも含めて、たたみ一畳のスペースで実働可能。加工可能な最大ワークサイズは空冷4 気筒のシリンダーヘッドやクランクケース片側サイズである。キャビネット下には驚きの集塵システムがある。
MYBLAST/MY-30型は、KENX-Ⅰが登場する以前の最小モデル。開発販売からすでに半世紀が経過した今現在でも、生産工場では第一線級の実力を持つエアーブラスト装置である。
ノーメンテナンスのまま走り続け、油汚れの上に粘土状のドロが堆積したホンダ横型エンジン用のシリンダーヘッドを持参し、KENX-Ⅰの実力の程を体感することにした。
身長179cmの本誌田口がブラスト装置の前に立つとこの感じ。本体が決して大きくないことは窺い知れるが、想像以上にキャビネット内スペースは広かった。改造でさらに楽しめそうだ!!
サンドブラスト経験があるサンメカなら、効率良くブラスト&クリーニングするための段取りで、作業前のパーツは徹底的に脱脂洗浄していると思う。ベットリ付着した油汚れは、事前に除去しておくのが鉄則である。汚れたままではブラスト処理と同時にメディアが汚れてしまい、キャビネット内部の脱脂洗浄も行わなくてはいけなくなってしまうからだ。今回持ち込んだホンダ横型エンジン用シリンダーヘッドは、油焼けした上にオフロードコースを走ったかのような粘土質のドロがビッシリ付着していた。それでも完全乾燥していたので、今回は意地悪テスト的にこのシリンダーヘッドを持ち込みブラスト処理してみた。
いつも下処理に使っているアルミナ100番をホッパーに流し入れて作業開始。少ないメディアながら切れ間無く安定的に作業を進めることができ、想像していたよりも短い時間で作業終了。今回は工場内のエアーを使ったので至極安定していたが、仮に、小型コンプレッサーを利用しても作業効率が明らかに良い分、これまでの普及型キャビネットでの作業とは明らかな違いが出ると思われる。
ブラスト装置の使い方は人それぞれだが、メインフレームのような大型部品の処理以外なら、かなり活躍しそうなのがKENX-Ⅰである。掛け値無しに魅力的な新製品だ。