
ライディングギアには安全性というキーワードが欠かせない。頭部を守るヘルメットはもちろん、胸部や脊椎を守るプロテクターはライダーの必需品だ。白バイ隊員も採用しているプロテクターの役割と重要性をしっかり学ぶとともに、各部位のプロテクターの役割を学ぼう!
バイクで転倒したり事故に遭遇する、ライダーは路面や相手の車などとの接触を逃れることができない。風を感じながら走ることができるバイクならではの解放感は、万一の時になると、ケガや骨折、さらには生死さえ脅かす大きなリスクに変貌するのだ。
そんなリスクを最小限に抑えてくれるのが、ライディング専用の各種プロテクターだ。特に胸部、腹部、脊椎はダメージを受けると致命傷になりやすい。仮に命をつなぐことができても、その後の人生を後遺症に悩まされることもあり得る部位でもある。しかし、多くのライダーがその必要性を理解していないのが実情だ。ここでは、そんなプロテクターの重要性について、神奈川県警察・第一交通機動隊の倉岡実芳子巡査長にお話を伺った。
白バイ隊員の制服の上に羽織るプロテクタージャケットは、エアーバッグを搭載している。腹部と脊椎にパッドを装備し、動きやすさを考慮したデザインが特徴だ。脇の部分が大きく開いているので動きやすく機動力が高い。フロントポケットにはエアーボンベが1本収納され、もしもの際はここからエアーが気室に送られて膨らむ。
「神奈川県は二輪車の関係する交通事故が多く、2014年に二輪車乗車中に交通事故で亡くなられた方は62人で、交通事故で亡くなられた方全体の33.5%を占めており、全国平均の約2倍という状況です。このため、神奈川県警察では二輪車事故防止対策を積極的に推進しており、特に胸部のプロテクター着用は、頭部に次いで致命傷となる割合が高いことから特に力を入れて呼びかけております。実際、プロテクターを着用していれば軽傷ですんでいたかもしれない事故も少なくないと思いますし、もちろん私も白バイに乗務するときはプロテクターを着用しています。現在は、プロテクターだけでなくエアーバックを装備したジャケットが導入されています。一般の方も、このような安全装備を必ず着用して自分の命を守るとともに安全運転をお願いします。また、プロテクターを選ぶ際は、サイズを確認して自分に合ったものを選ぶことが重要です。プロテクターやエアーバックジャケットを正しく着用して、万が一の事故の際の被害軽減に努めてください」
フロントポケットは左右に二つ用意されている。右ポケットにはエアーボンベが収納され、左ポケットにはペン差しを装備。
プロテクターとなるパッドは腹部と脊椎部分にセットされている。腹部はボタンでジャケットと接続できる。
背中には所属県警名が書かれた名札があるが、ベロクロストラップなので取り外しが可能だ。警察での使用が考慮されたデザインになっている。
本体にはリフレクター(反射材)が前後左右に貼られている。夜間でも極めて高い視認性を約束してくれる。
フロント右ポケットには、袋体に送られるエアーが入ったボンベが収納されている。このボンベとバイクが繋がっているので、事故などでライダーがバイクから放り投げられた際に、エアーバッグ起動装置が作動する。気室は一瞬で膨らみ、徐々に空気が抜けるようになっているのだ。
シンプルなインナープロテクタージャケット。制服の下に着るタイプでメッシュ仕様のベストタイプになっている。ストラップベルトでとめるデザインで、腹部と脊椎にパッド装備、しっかりとボディを守ってくれる。両脇は完全フリーなので、上に制服を着ても機動力は損なわれない。ちなみに、こちらにはエアーバッグ機能は付いていない。
腹部にはプロテクターパッドを装備し、ジッパーで開閉できるようになっている。パッド自体はジャケット本体にボタンどめされた状態だ。
背中には、脊椎部分にプロテクターパッドを装着。分割タイプなのでフレキシフブルに動いてくれる。
両脇部分にはストラップベルトがあるので、簡単に装着可能でサイズ調整もできる。
最も手軽なのが肩・肘・脊椎・胸部といった各部プロテクター付きのライディング用ジャケットを着ることだ。このジャケットを着ることでプロテクターを着用したのと同じ効果が得られるわけで、個別にプロテクターを付けていくわずらわしさもないのがいい。プロテクターが入ることを前提に設計・デザインされているので、動きやすさという点でも秀逸だ。
一方、いつもの服装でバイクに乗りたいというニーズも少なくない。そうした場合は、各部のプロテクターを別途購入して着用することを推奨する。腕や肘、肩といった部分も確かに重要ではあるが、「生きるか死ぬか」「事故後の人生」という意味では、胸部・腹部そして脊椎のプロテクターを優先して着用したい。
二輪車乗車中の死亡事故で、死亡原因となった損傷部位の中で頭部に次いで多いのが胸部だ。頭部が約50%。そして胸部が約30%を占めている。近年、こうした実態を受けて各メーカーは精力的に胸部プロテクターの開発を進めてきた。今では性別・体形・ライディングスタイルなど、目的に応じて胸部プロテクターが選べるようになっている。なお、胸部に次いで多い損傷主部位は腹部(約8%)なので、胸部と腹部の両方をカバーできるプロテクターを選ぶというのもひとつの方法だ。
このような胸部プロテクターはウエアを選ばず着用できるのが特徴だ。
最近は女性用の胸部プロテクターの種類も多くなってきている。
転倒や事故は予想外の事象であり、かつ一瞬の出来事だ。バイクから投げ出されて飛んでいる最中はもちろん、鈍い音と共に落下して路面を滑走している時なども、身体をかばう動作は一切とることができない。そんな状況の中では、背骨の骨折も十分にあり得ること。それにより脊髄が損傷した場合は、後遺障害が残る可能性も出てくる。予想外の事故で人生を大きく変えることになる脊柱・背骨の後遺障害を防ぐギアが脊椎プロテクターなのだ。
脊椎プロテクターはジャケットに内包される場合が多いが、上記のように個別に装着するプロテクターもある。
装着するだけで胸部と脊椎を両方守れるベストタイプも利便性が高い。装着のしやすさは装着率に関係するだけに重要な性能のひとつだ。