街道に面したショップ。以前はドラッグストアーだったというが今年の7月に国道4号線沿いにあった店舗を、ここに移設したのだ。床面積が広く、作業のし易い環境に移ったパワーズモーターサイクル。このお店を切り盛りするのは、代表の川崎勝彦たった一人である。以前は他にもスタッフがいたこともあるが、辞めたり独立したりで現在は一人。しかし、広い店内には、作業待ちの様々なベースモデルがひしめき合うように置かれていた。
カウンターの奥から現れた彼は、どこか凄みのある表情の中に微笑みを浮かべる不思議な男である。腕っ節は強そうだ。動きがゆるりとしていて背中に迫力がある。年齢を聞くと39歳とまだ若いが、バイク乗りとしてのキャリアは相当のものだろう。そしてその分厚い手のひらには、油が染みこんでいた。
「今度このナックルのチョッパーで九州まで走るんですよ。メンテナンスはしっかりしてあるから、全然問題ないね。まっすぐ行くとつまらないから、北に上がって日本海を走ろうかな。舞鶴あたりで南下してさ、山陽道を西に向かえば九州なんてすぐだよ」
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ガソリンタンクにサイケデリックなカスタムペイントを施したリアルチョッパー。エンジンは、S&S製のナックルで、リジットフレームに積む。虚飾はなくシンプルな外観である。チョッパーとしてのアイデンティティをすべて持っている魅力的な1台だった。その他、店内にあるモデルは、どれも製作途中なイメージである。スプリンガーのロングフォークを取り付けたものや、エボリューションエンジンを搭載した渋めのカスタム。奥には古い国産モデルも置かれていた。
父親は電気屋。とは言っても家電を扱うのではなく、大型機械の販売を手がけていた。そんな実家に育った3人兄弟の末っ子で、中学から高校まではサッカーに明け暮れる。ポジションはセンターハーフで、チームの要だった。学業も成績良く、自分で「神童だった」と笑う。その一方では親の血を引く機械好きで、バイクの魅力にも早くとりつかれた。高校2年の時にサッカーの練習で大怪我をして選手生活にはピリオドを打つ。その後はバイクに夢中になった。
一番上の兄もまたバイク好きで、ショップを始める。そんなことから最初に手にしたバイクは、兄のお下がりだったホンダのホーク250だった。これがなんともスタイルが気にいらず、ヤマハのSR400に乗り換える。すぐに改造に取り掛かり、SRはスクランブラースタイルで乗った。
「ホンダのCL72が好きだったから、スクランブラーになったのかな。旧車好きだよね。やっぱりシンプルでバイクらしいからさ。でも年式や国籍にかかわらず、クールなカスタムは全部きになってたな。4発の空冷カワサキとかも今だに好きだしね」
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19歳で最初のハーレーを購入。ショベルのFLTベースでパウコのリジットフレームだったが、分解した後組みあがらず、結局カワサキのZ750Dと交換してしまったという。金沢の大学に進学し、卒業後はスイスの工業デザイン会社に就職した。そこで4年間、開発部門で働く。
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「でも、設計よりも自分で物を生み出したい気持ちが強くなっていった。その後は町の工場で働きながら金属加工のイロハを学んだんだ。マシニングのノウハウも身につけたり、溶接の技術を学んだり、家業を手伝ったりしてがむしゃらに働いて、5年前に小山市で開業した」
国道4号線沿いにオープンしたパワーズモーターサイクル。名前はありそうなベタなイメージだが、深い意味はなく、軽いノリで付けたもの。しかし、その覚え易さと、生み出すカスタムの個性で、知名度が上がっていった。
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「最初から一人で始めた。好きなスタイルを自由にやりたかったからね。軽いノリで何処までも走ることができるシンプルなチョッパーが好きなのは、今でもずっと変わらないな」
パワーズモーターサイクルが扱うモデルはショベルモーター以前の搭載車がメインである。それはやはり、走行フィーリングが日本の速度域に合っていることと、扱いやすい構造にあるという。乗り込めるチョッパーベースにはやはり、ショベル以前のハーレーが最も適しているということなのだろう。
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パワーズモーターサイクルに集う客の年齢は、20代から40代。みな、手におみやげをぶら下げて気軽に訪れる。共通意識は、虚飾を排除したシンプルなチョッパーやボバー。カスタムハーレーが好きだということ。今後の展開を尋ねてみると、「商売上手な営業マンが欲しい」と笑った。バイク屋を営む人間は、時にバイク好きであることが商売の邪魔をする。仕上がりにこだわり、もう一手間を惜しまないことが貧乏バイクショップの欠点だと笑うのである。
北関東は、思い切りバイクを走らせる良い環境が整っている。それは、スポーツバイクをコーナリングさせるような醍醐味とは少し違ったダイレクトな刺激を求めるのに最適な場所でもある。シンプルにチョッパーを走らせる。そんな魅力にとりつかれた男が作る様々な作品は、どれもすべてロングライドを考えたものばかりだった。
SHOP INFORMATION
元ドラッグストアだった店舗は
街道に面していて分かりやすい
土浦と古河を結ぶ国道125号線沿い。国道4号バイパスとの交差点から古河方面に数百メートルの所にあるショップは、ハデなペイントが個性的な印象だ。ガラス張りの店舗ゆえに、店内は昼間でもよく見える。夕方になるとさらに目立ち度をアップして、カスタムショップとしての印象を上げるイメージだ。