製作するすべての作品が主張する BOOTLEGの本音を探る

BOOTLEGは、海賊版のCDやDVDを総称する時に使われることが多いのだが、本来の意味は、密造酒にある。アメリカにかつて存在した悪しき法律「禁酒法」に対向した密造酒は、スキットルに入れブーツに隠して嗜まれた。つまり、言わばギャング用語なのだ。そして、その意味に隠されたものとは、本質をアンダーグラウンドから見つめ直すということでもあろう。禁酒法は、多くの悲劇を産んだ悪法だが、それに対向する勢力は密かに大きな力を持って、民衆に浸透した。今、菊原陽二が主宰するBOOTLEGの本質は、この名前にこそ息づいているのである。

「僕は何でもやってみたい。自分のスタイルだけに拘らない。もちろん好きなデザインとか乗り味とかはあるけど、画一的じゃないんです。だから徹底的にオールドスタイルのチョッパーも大好きだけど、現行ハーレーをシンプルにカスタムしたクラブ系のスタイルも好き。新しいとか古いとかじゃなくて、楽しさを追求したいって言うのかな。その中で、エッジの効いたイメージがあればカッコいいと思ってますから。もちろん、制作したバイクはすべて作品なんだけど、大御所のビルダーが主張するスタイルというものとはちょっと違う。もっと自由で奔放で良いという考え方です。でもウチで作ったって、わかるでしょ。それでいいんじゃないかなと」

菊原陽二は、澄んだ目をした人物である。何か質問すると、どこか照れくさそうに笑いながら、遠くを見つめるような表情で自分の考えを主張する。人当たりの良い朗らかな人である。しかしその奥には強い鋼のようなひとつのポリシーがあった。それはこの人の生き方にも現れていて、作り上げるすべての作品に込められているアイデンティティでもある。それは、「人を裏切らない」ということだと気付いた。

少年期を長野県の佐久市で過ごした彼は、伸び伸びと育ったという。幼い頃からバイク好きで、小学生時代から、家にあったバイクに乗ったりしたが、親も祖父も怒らなかった。隣の家まで1キロ近くあったという田舎ゆえの出来ごとだが、菊原少年の心に「やんちゃをしても周りを裏切らない」という信念が刻まれる第一歩になったはずである。法律として禁止されていることと、人としてやってはいけないことの区別。それは普段の生活の中で学び取っていくしかない。高校を卒業して上京し、大好きなバイクの世界に身を投じるべくメカニックの修行を続ける中で、その大きなアイデンティティは育っていったのだと思う。

ブートレグは2年前の8月にスタートした。北関東で空いた物件を探しながら、川口という場所にファクトリーを構えることになったのは良いことだったと彼は言う。
?
「ここは、周りに様々な町工場があるから、横の繋がりが作りやすいんですよ。金属加工の業者も多いので、細かいわがままな加工を頼んだりするのにも都合がいい。僕のショップは表通りに面してないから、そんな周りの工場と立ち位置は同じですよ。でもだからこそ仕事はしやすいし、わざわざウチに来てくれるお客さんとも絆は深まる。いろんなユーザーがウチには来るから楽しいですよ。みんな本当にバイクが好きだよなぁーって、常々思う」

修行時代から世話になっている人々への恩も忘れない。元来、集団で走ることをあまり好まないバイカーなのだが、仲間とつるんで走ることの楽しさは否定しないし、自身もその中に身を置くこともある。ただしバイカーとしての生き様は、ソロで判断するべきであることはどんな時でも変わらない。それがこの人の生き方である。

「ブートキャンプってやつを1年に1回松原湖でやっています。でも、あまり誘わないようにしてる。好きな人だけ来てもらえればいいですから。キャンプはニガテって人もいますし。でも来れば楽しいと思う。僕なりに、思い切りおもてなししますから。つまり感謝祭みたいなもんですね。バイク屋と楽しく付き合わないと自分のバイクライフなんてすぐ無くなっちゃうから、うまく付き合おうよ。そんな感じのキャンプミーティングにしているんです」

ブートレグに集うバイク乗りは、年齢も愛車も様々である。とはいえ、もちろんショップの名前に掲げられた「アンダーグラウンド性」に興味を持ったバイク乗りも少なからず集まってくるはずだ。若いバイカーはメカにも弱くて、旧車に悪戦苦闘する姿もよくある。しかしビルダーでもありメカニックでもある菊原陽二は、常に腕組みしながらそんな光景を笑顔で見つめている。そしてなかなか手を出さない。その理由は、「かけられないのと、かからないとは違う。納得して乗らなきゃ、その先なんて何もない」からだ。

BOOTLEG(ブートレグ)は、東京都と埼玉県の間にある。近くには川口オートレース場があり、その周辺は昔からモーター系の工房や金属加工工場が軒を連ねるエリアだ。町全体に油の匂いが立ち込める。そんな中に、このショップもある。代表は菊原陽二。生粋のバイカー、そしてビルダーとして注目を集める人物である。

取材協力/BOOTLEG  取材・写真・文/モリアン  構成/ストリートライド編集部

掲載日/2015年10月14日

SHOP INFORMATION

ショップというよりも工房
様々なスタイルを提案する店だ

首都高川口線の下り線、加賀出口からすぐの場所にある工房は、新芝川寄りに一本路地を入った所にある。表通りにショップを構えない理由は、あくまでショールームではなく工房であることを重要に考えているからだ。ファクトリーの中には、製作途中やメンテナンスされている新旧のハーレーがずらりと並ぶ。その奥には大型加工機械が置かれ、このショップの懐の深さを感じることができるのだ。

BOOTLEG(ブートレグ)

住所/〒332-0003 埼玉県川口市東領家4-19-4
電話/048-452-8328
定休日/月曜日
営業時間/10:00-20:00
WEB/ http://www.bootleg.jp/