誰もが楽しめる! 遊び心満載のレース
今、大注目のKTM 390 CUP

掲載日/2024年12月25日
取材協力/KTM Japan
写真、取材、文/淺倉恵介
構成/バイクブロス・マガジンズ
筑波サーキットで開催されている、KTM RC390/390 DUKEによるワンメイクレース“KTM 390 CUP”が爆発的な盛り上がりをみせている。さる11月16日に開催された2024年シーズン最終戦では、サーキットのキャパシティを埋める、ほとんどフルグリットといえる33台がエントリー。なぜ、それほどまでに人気のレースなのか? その理由を解き明かしていきたい。

低コストで高ホスピタリティ
思い切り楽しめるレースKTM 390 CUP

“レースに出てサーキットを走ってみたい。” スポーツライディング好きであれば、誰もが一度は夢にみるレース参戦だが、数あるバイク遊びの中でもかなり敷居が高いと感じる方も多いだろう。どれだけお金がかかるか、どのような段取りや準備で参戦すればいいか、という情報がなかなか手に入りにくいため、レースの世界に飛び込んでみたくても二の足を踏んでいるライダーがほとんどだと思う。そんな、悩めるレーサー予備群のデビューに最適なレースがある。それが“KTM 390 CUP”だ。

KTM 390 CUP 筑波ツーリストトロフィー in NOVEMBERのエントラントの皆さん。皆、楽しげな表情を浮かべている。「レース」という言葉から連想される、ピリピリとした空気とは無縁だ。

KTM 390 CUPは、KTMのピュアスポーツRC390と、スポーツネイキッドの390DUKEを使用して行われる、いわゆるワンメイクレース。開催地は関東のレースファンの聖地である筑波サーキットで、同サーキットのローカルシリーズ戦の"筑波ツーリストトロフィー"内の1カテゴリーとして開催されている。参加可能な車両は、2013年以降に生産されたRC390と390DUKE。390DUKEと基本コンポーネンツを共有する、Husqvarna SVARTPILEN401/VITPILEN401での参加も可能だ。参戦マシンが普通二輪クラスだから、まず車両コストが低いのが魅力だろう。

参加車両の大多数はRC390をチョイス。写真のマシンは、KTMのMotoGP™マシン、RC16をモチーフにしたカラーリングで注目を浴びていた。ライダーはTEAM FREEDOM7+Motorcycle CS2からエントリーの長尾秀隆さん。決勝レースは7位でゴールする力走をみせた。

初期型の390DUKEも現役の参戦車両。ツイスティな筑波サーキットで行われるレースだから、ネイキッドの軽快なハンドリンクは侮れない。ライダーは、415RIDER(S)+南町田の狼からエントリーの伴 裕一さん。

レースというと大掛かりなチューニングが必要なのでは?と考えがちだが、改造範囲やスキルに合わせた3クラスが設定されているので安心だ。一番改造範囲の狭い“ノーマルファン”クラスは、その名の示す通り基本的にノーマル車両で争われる。極端な話、参戦可能なバイクがあって、レースに対応した安全対策さえ行えば、誰でもエントリー可能なレースなのだ。なんとも手軽、かつローコスト。シリーズランキング制度も導入されていて、年間チャンピオンにはKTMから豪華賞品も贈られる。

KTM 390 CUPのレース中は、コースの至る所で大混戦のバトルが勃発。マシンのパフォーマンスに差がない、ワンメイクレースだからこその接近戦は見応えがある。エントラントも“競い合う実感があることが、KTM 390 CUPの楽しいところ”と語る人が多い。

参加しやすいのはわかっても、何をきっかけに参戦にこぎつければいいのかわからない人もいるだろう。KTM 390 CUPは多くのKTMディーラーがショップとして参加しているから、そうしたお店を訪ねればレースについてのアドバイスが受けられる。メカが苦手であっても、レース用のマシン製作からメンテナンスまで任せられるし、レース活動のサポートも行ってくれるのだ。”READY TO RACE”を標榜するKTMのディーラーだけある。

レース開催日にはパドックの一角が、KTM専用スペースとして確保される。レースは走るだけでなく、現場での整備や休憩スペースも欠かせない。そして、そのスペースの確保が悩みの種という面があるのだが、KTM 390 CUPではその点にも配慮されている。エントラントに向けたホスピタリティもレベルが高い。

低コストで楽しめて、サポート体制もハイレベル。とにかく“参加しやすさ”と“エントラントの負担軽減”が考え抜かれているのがKTM 390 CUPだ。レースの世界に足を踏み入れるのなら、これ以上の選択肢を見つけるのは難しいだろう。もっとも、KTM 390 CUPのエントラントは、レースビギナーばかりではない。様々なレースを経験してきたベテランも多く参戦している。その理由を聞けば、皆“楽しいから”と口を揃える。「イコールコンディションだから、思う存分バトルが楽しめる」、「ショップ単位での参加が多いから、仲間と協力し合う喜びが感じられる」。KTM 390 CUPの参加者は、レースを楽しもうという意識が感じられ、パドックの雰囲気はなんとも心地よい。そんなKTM 390 CUPは、2025年も開催される予定だ。レースは特別な世界ではない、全てのライダーに門が開かれている。その門をくぐるのなら、KTM 390 CUPはかなりオススメだ。きっと、知らなかった楽しい世界が待っている。

KTM 390 CUP 筑波ツーリストトロフィー in NOVEMBERの決勝レースでは、4台のマシンが激しいトップ争いを展開。周回ごとに順位を入れ替えるような激しいバトルに、筑波サーキットが沸いた。

最速クラスの“カスタムエキスパート”の優勝は390DUKEを駆る“D;REX + どんぐり村青年団”の阿部 洋太郎さん、2位は“チームケイズ”の滝田和樹さん、3位は“今野接骨院と斉藤商会”の植村哲也さん。

“カスタムチャレンジ”クラス優勝の“油そば春日亭 SUNNY MOTO”からエントリーの武田誠浩さんは総合でも2位。2位の“チーム ムン from KTM JAPAN”磯 雅幸さんは総合4位、3位の“MKMK RT&福福製作所&モトビルド神原”本宮広康さんは総合5位。カスタムチャレンジもレベルは高い。

“ノーマルファン”クラス優勝は“Wave Factory & Soken.inc”の原 順一さん。2位は”club Taira Promote”の佐々木颯汰さん。3位は“Wave Factory & 乙姫子 & KTM川崎中央”の中林茂喜さん。

KTM JAPANジェネラルマネージャー
シュトラスマイヤー・ケビンさんインタビュー

シュトラスマイヤー・ケビンさん 1986年ドイツ出身 2024年3月よりKTM JAPAN ジェネラルマネージャーを務める。所有するバイクはもちろん全てKTMで、日本でも300EXC HARDENDUROと350EXC-Fの2台のエンデューロレーサーとRC125でバイクを楽しんでいる。

KTM 390 CUP 筑波ツーリストトロフィー in NOVEMBERに、現在KTM JAPANでジェネラルマネージャーを務めるシュトラスマイヤー・ケビンさんが来場。それも視察ではなく、エントラントとしてレースに参加した。エグゼクティブがレースに参加するとは、さすが"READY TO RACE"な会社だ。そのケビンさんに、今回お話を伺うことができた。

--日本にいらした時期と、これまでについて教えてください。

「2024年の3月にKTM JAPANのジェネラルマネージャーに着任しました。モーターサイクル事業の全体を統括しています。日本に来る前はKTM CHINAのジェネラルマネージャーを務めていました。中国でもKTMとHusqvarnaのオンロードモデルとオフロードモデルをフルラインナップで販売しているんです。協力工場との提携の取りまとめなども行いましたね。MotoGP™のMoto3クラスでのCF MOTOとコラボレーションにも関わりました」

--日本のバイク文化について、どのような印象をお持ちですか?

「大変進んでいると思います。バイクに乗る歴史が長い国ですし、ユーザーも成熟しています。レースも盛んで、様々なカテゴリーのレースが開催されていると感じます」

--今回、KTM 390 CUPに参加された理由を教えてください。

「私自身、モータースポーツが大好きで、好きが高じて参加しました。KTMの経営陣はオフロードレース経験者が多くて、私も例に漏れずそのうちの1人です。学生時代から趣味で多くのオフロードレースを楽しんできました。中国でもたくさんオフロードレースに出場しましたし、日本に来てからもエンデューロレースに参加しています。もう10レースくらい出場しましたよ」

--日本に来て1年も経たないのにですか!? 本当にモータースポーツがお好きなんですね。

「はい。KTMの人間にとって、レースに参加することは自然なことです。"READY TO RACE"はセールスのためのスローガンではなく、KTMの心。パッションなのです」

--KTM 390 CUPは、KTMにとってどのような意味を持つレースなのでしょうか?

「ユーザーの皆さんに、KTMのコアであるレースに触れてもらうことがテーマのひとつです。なので、KTM 390 CUPは世界中の様々な国で開催していますし、レギュレーションは参加しやすいものにしています。パドックの快適性も重視していますね」

--日本のライダーと競い合った感想はいかがですか?

「実は、ロードレースに出場したのは初めてなんです。皆さん経験豊富ですね。ライディングテクニックに長けていて、速いです。筑波サーキットは1度練習のために走ったのですが、コースレイアウトを憶えるだけで精一杯でした(笑)。でも、スゴく楽しかったので、興味がある方はぜひ一度参加して欲しいですね。KTM 390 CUPはこれからも続けていく予定ですので、より多くの人に参加して欲しいです。臆することはありません、何しろオフロードばかり走っていた私でも参加できて、思い切り楽しめるロードレースですから」

「ロードレースは初めて」と語るケビンさんだが、果敢に攻めた走りを披露。レース中にどんどん速くなり、決勝レース中のベストラップを、予選から2.5秒も縮めるという驚異のジャンプアップをみせた。

参加ショップに聞く
KTM 390 CUPへの取り組み

KTM 390 CUPの特徴のひとつが、ディーラーとしての参加が多いこと。ショップワークスというより、スタッフとユーザーが一緒に楽しんでいる姿が印象的だった。ここでは、ユーザーサポートを行うだけでなく、スタッフも参戦しているショップにも話を聞いてみた。

フリーダムナナ 長尾宏之さん

「弊社はKTMの正規ディーラーです。KTM 390 CUPが始まると聞いて、ユーザーに提供するサービスはスタッフの自分が理解するためにも、まず自分で体験してみようと考えたんです。。まあ、今ではすっかり自分が楽しませてもらっていますが(笑)。結果より、楽しむというスタンスで参加しています。もう6年くらい参加し続けていますが、だんだんお客様の参加も増えてきて、フルメンバーだと10台以上になります。レースに興味があるなら、ぜひ参加してみて欲しいですね。ハードルの高さを感じなくていい、仲間と一緒に遊びに行く感じで大丈夫です。KTM 390 CUPに参加するきっかけとして、ウチを利用してもらってもかまいません」

S字コーナーを攻める長尾さん。ノーマルファンクラスにエントリーし、決勝レースは見事クラス5位でゴール。チーム名は"TEAM FREEDOM7+Motorcycle CS2"だ。

KTM 390 CUP 筑波ツーリストトロフィー in NOVEMBERでは、フリーダムナナからは8台と大勢エントリー。ライダーはもちろん、ヘルパーの皆さんも実に楽しそうだった。

KTM川崎中央 吉井俊忠さん

「もともとレース好きで、もて耐(※もてぎ7時間耐久ロードレース)などのイベントレースを中心に参戦していました。弊社はKTM正規ディーラーです。KTMはオフロードのイメージが強く、オフロード中心のショップが多いので、それならウチがロードレースをやろうかと考えて、KTM 390 CUPが始まった当初から参加しています。チームの参加台数は多い方ですね、なにしろ長く取り組んできているので、年数を重ねる内に輪が広がっていきました。KTM 390 CUPの良いところは、まず参戦コストが安いこと。それだけで気軽に参加できますよね。興味があったら、ぜひ参加して欲しい。KTM川崎中央ではできる限りのお手伝いをします。オリジナルのレース用パーツも製作していますし、今後はビギナー向けのサーキットイベントの開催も考えていますので、気軽に問い合わせてくれたらと思います。個人の目標としては、1分7秒台のラップタイムを出すこと。今回、予選で1分8秒046が出たのですが、その先が難しいですね(笑)」

吉井さんはカスタムチャレンジクラスにエントリーし、クラス6位の好成績を残した。KTM川崎中央は、KTMに加えてHusqvarnaとGASGASの3ブランドを展開。マシンのカラーリングはMoto3マシンをイメージしたHusqvarnaカラー。チーム名も"Husqvarna川崎中央"だ。

チーム名に"川崎中央"とつくエントラントだけでも4台。関連エントラントも合わせると10台という大所帯。"カワチュウ軍団"は、KTM 390 CUPの一大勢力なのだ。

どんなチューニングが施されているのか?
エントラントのマシンをチェック

KTM 390 CUPでは、実際のところどんなマシンが走っているのか? は気になるところ。そこで、改造範囲の異なるカスタムチャレンジクラスとノーマルファンクラスに参戦中の、2台のマシンを見せてもらった。

"ノーマルファン"クラス
横田和彦さん RC390

横田さんは、知る人ぞ知るKTM 390 CUPの生き字引。実は、KTM 390 CUPが始まってから、唯一全戦にエントリーしてきたという人物なのだ。モーターサイクルジャーナリストとして活躍中なので、各バイクメディアで横田さんの姿を目にした人も多いだろう。

「KTM 390 CUPに参加したきっかけは、ある雑誌での企画でした。ワンメイクレースが始まるとのことで、参戦記を連載したんです。楽しいレースですから、その後も走り続けて……。気付けば、唯一の全戦エントリーライダーになっていました(笑)。2015年から走り始めて、欠席はゼロ。2回マシントラブルでリタイアしましたけど、それ以外は全て完走しています。以前は390DUKEでカスタムクラスに参加していたんですが、現行のRC390が出た時に、どれだけ進化しているか興味があって乗り換えました。RC390はあえてノーマルファン、交換が許されているマフラーすらノーマルです。お金もかかりませんしね(笑)。ランニングコストが低いことも、KTM 390 CUPの魅力だと思います。パワーもちょうどいいんですよね。リッタークラスだと持て余すし、250だと物足りない。ホント、アマチュアが楽しむのにピッタリなレースなんです」

決勝レースではクラス4位、惜しくも表彰台を逃した横田さん。チーム名は"GASGAS川崎中央 with はいから猫"、カラーリングはGASGASカラーで、ゼッケンもMotoGP™のRed Bull GASGAS Tech3チームのエースであるペドロ・アコスタの#31をチョイス。

カウリングはノーマルを使用し、ライトカバーを装着。もちろん、レギュレーションに定められている通り、保安部品は撤去されている。

アンダーカウルもレギュレーションで装着が義務付けられている、オイルトレー形状のパーツを選択。

唯一スペシャルパーツといえるのが、KTM純正パワーパーツのステップ。ノーマルステップではフルバンク時に擦ってしまうため変更したという。ノーマルファンクラスでは、タイヤとスプロケット、チェーンの変更は可能だが、それ以外では全てKTM純正パワーパーツのステップ、スリップオンマフラー、レバー類など限られたパーツしか交換できない。

"カスタムチャレンジ"クラス
山崎 武さん RC390

KTM 390 CUP以外にも、テイスト・オブ・ツクバなど筑波サーキットで開催されるレースに参加している山崎さん。マシンは、KTMの純レーシングマシンRC250Rを駆り全日本J-GP3クラスで活躍した小室 旭選手が代表を務めるSUNNY MOTO PLANNINGが手がけた。

「最初にKTMのバイクでレースをしたのは、以前筑波サーキットで開催された"OVER 60 BOYS"というレースでした。いつもお世話になっている小室選手がKTMでレースをしていることが理由のひとつでしたね。RC390は単気筒なのでトルクがあって乗りやすいところが気に入りました。歳も歳なので、ラクに走れるバイクがいいんですよ(笑)。KTM 390 CUPは2023年から参加しています。カテゴリー分けがしっかりしていて、参加しやすいところがいいですよね。マシンのチューニングについては、小室選手にお任せです。国内でRC390が走れるレースの最高峰、MFJカップJP250で優勝したライダーですから、全幅の信頼を置いています。レベルの高いJP250で戦うためのマシン作りを、KTM 390 CUPのレギュレーションに落とし込んで、バランスを取っているそうです。身体が続く限りは、このバイクでレースを走りたいと考えています」

大集団での抜きつ抜かれつを戦い抜いた山崎さんは、クラス7位でゴール。チーム名は"たいしゅう寿 & サニーモト + 基蔵"。ベストラップは予選で記録した1分8秒台。ご本人は"歳だから……"と謙遜するが、堂々たるタイムだ。

マフラーはSUNNY MOTO PLANNINGのオリジナル。レース専用フルカウルは、SUNNY MOTO PLANNING製だ。

リアショックユニットはYSSをチョイス。フロントフォークのダンパーもYSSのカートリッジキットに交換されている。

フロントのブレーキローターは、アドバンテージのダイレクトドライブレーシングディスク。ホイールは前後共にアドバンテージの鍛造ホイールのEXACT。

ステップはタイガパフォーマンス。カスタムチャレンジとカスタムエキスパートのマシンレギュレーションは共通で、改造範囲はかなり広く、チューニングの楽しさも味わえる。