
巨匠、ウィリー・Gがデザインを手掛けたファクトリーカスタムの金字塔、1977 FXSローライダー。その名の通り、ローダウンが施された革新的なスタイリングにより、瞬く間にスターダムにのし上がったウィリー・Gの紛れもない最高傑作だ。初代ローライダーと言えば、ブラックアウトされたショベルモーター&通称 ”ダイコンマフラー”、4速フレームに2本サス、少しヤボったい肉厚のダブルシート、プルバックライザー&ドラッグバー、メーターダッシュに配された2連メーター、ヘッドライトバイザー、そしてグッドイヤーのホワイトレタータイヤも外せないポイントであろう。ショベルヘッド時代からエボリューション、ツインカム、そしてミルウォーキーエイトではソフテイルフレームとなり、その系譜は50年近く経った今でも今回紹介するローライダーSに受け継がれている。
ローライダーSのスタイリングは紛れもなくローライダー、というものではなく、どちらかと言えばスポーツ系に振ったアメリカンクルーザーといった印象を受ける。例えるなら2005年を最後にラインナップから姿を消したダイナフレームのFXDXスーパーグライドスポーツを思い起こさせるスタイリングだ。前出した初代ローライダー特有のディテイルも、ローライダーSには見当たらない。特にヘッドライトバイザーがスピードスクリーンに変更されている点が象徴的と言える。ブラックアウトされたエンジンとフューエルタンクのH-Dロゴは初代と共通か……。
搭載されるエンジンは最高出力105PS@5,020rpm、最大トルク168Nm@3,500rpmを発揮する排気量1,923ccのミルウォーキーエイト117。排気量2,000ccに迫るこのエンジンの破壊力は抜群で、車両重量308kgという重量級のローライダーSを、どの回転域からも猛然と加速させていく。スロットルをラフに扱おうものなら、乗り手を振り落とさんばかりの強烈な加速にキモを冷やすことになる。まさしく巨大なハンマーで後ろから殴り飛ばされたような衝撃を全身で受け止めることになる。
ポジションもローライダーらしからぬ攻撃的なものだ。ハイバックタイプのソロシートにストレートライザーを介したスーパーバー、ステップはフォワードミッド、かつ若干ハイポジション気味に設置されている。ソフテイルフレームゆえ着座位置は低く(シート高710mm)、加えてステップ位置が高いため膝を90度以上曲げる必要がある。さらにストレートライザーのためグリップ位置は遠く、前傾姿勢を強いられる。クルーザー特有のゆったりとしたポジションとは対極の、まるでパフォーマンスチョッパーのようなポジションなのだ。以前、フェアリングと着脱式サドルバッグを装備した兄弟モデルのローライダーSTを試乗した際にも感じたことなのだが、現行ローライダーシリーズのポジションは完全にチョッパーのそれである。
スポーツ系に振ったアメリカンクルーザー、つまりカンパニーが考えるパフォーマンスクルーザーの乗り味とは、すなわちチョッパーであるべき、との解答なのだ。カスタムやチョッパーカルチャーをリスペクトするカンパニーらしい解釈だと言える。そのマインドが現代のローライダーSに投影されているのだと考えればすんなりと合点がいく。
今を生きるローライダーはかくあるべき。過去に囚われず、次の100年に向けて進化を続けるハーレーダビッドソンにタブーはない。
百年を超える歴史を持つ世界最高峰のワークブーツメーカー「WESCO(ウエスコ)」。1918年、米国オレゴン州ポートランドで創業されたウエスコは頑なにメイドインアメリカに拘る、アメリカでも稀有なメーカーだ。本国では消防士やラインマン(送電線工事従事者)、林業従事者などのハードワーカーから絶大な支持を得ているウエスコブーツの高い機能性は、ライディングギアとして求められる機能にも直結し、事実、感度の高いバイク乗りからも高評価を得ている。さらに豊富なカスタムメニューにより、それぞれの用途に合ったカスタムブーツを製作できる点も大きな魅力と言える。数多くのモデルをラインナップするウエスコだが、不定期ではあるが特別な限定モデルがリリースされることもあり、これらのモデルも人気を博している。
今回取り上げるウエスコブーツはアメリカ本国の限定モデル、「MISTER LOU(ミスター・ルー)」である。プルオンブーツ、いわゆるエンジニアブーツのカスタムモデルとなっている。アメリカ本国の限定モデルではあるが、もちろんウエスコジャパンを通して日本でも手に入れることができる。限定のカスタムモデルゆえ、レザーカラーの変更などカスタムの追加は不可となるが、ストック状態でも十分スタイリッシュに仕上げられている。
ハイト(踵から履き口までの高さ)はスタンダードの11インチから1インチショートとなる10インチ。使用されるレザーはカウハイドのクロムエクセルレザーで、カラーは革本来の風味を生かしたナチュラルを採用。このレザーは1905年に米国シカゴで創業された「Horween(ホーウィン)」社製で、その特徴はオリジナルブレンドされた油脂をじっくり浸透させた独自のしっとりとした質感にある。柔軟性に優れ、初めて足を入れた時から吸い付くような高いフィット感を実現している。表面のみに染色をしているため、履き込むにつれて、いわゆる「茶芯」が出てくることでエイジングを楽しむこともできる。
つま先の形状はナロー・トウを採用。足の甲からつま先にかけて薄く、シャープな形状なので、50年代のオールドエンジニアブーツのような印象を受ける。バックルはアメリカの限定モデルにのみ使用されるソリッドブラスのローラーバックルを装備。ストラップの剣先は通常のものに比べ尖った形状で、アッパーレザーのステッチはトリプルステッチが採用されている。
ソールはビンテージテイスト溢れるスーパーグリップ・ハーフソールのブラックを装着。非常にグリップ力に優れたソールなのでバイクライドにも最適だ。またフィット感にこだわり、ブーツの履き口が1インチ分ナロードされている点も大きなポイントとなっている。トップストラップのバックルもソリッドブラスのローラーバックルが取り付けられている。
また今回はバイクライドを考慮して別売りの「Welder's False Tongue(ウェルダーズ・フォルスタン)」を装着。つま先から甲の部分をすっぽりと覆うことで、シフトチェンジ時にどうしてもついてしまうキズからつま先をしっかりとガードすることができる。ウェルダーズ・フォルスタンはその名の通り、本来は溶接工が熱や火花などからブーツを守るために、レースアップブーツ用のオプションパーツとしてラインナップされていたものであるが、キズを防ぐ効果もあり、近年はバイクライド時のシフトガードとしての活用が注目されはじめているという。
チョッパー然とした乗り味を持つローライダーSとアメリカの限定モデル、ミスター・ルー。50年代テイストを持つオールドルックのミスター・ルーだが、現代のワークブーツとしてのその高い機能性に一切の妥協はなく、重量級の車体に排気量2,000ccに迫る超弩級のミルウォーキーエイト117を搭載したローライダーSに対しても、決して見劣りすることはない。キングオブモーターサイクルと称されるアメリカのハーレーダビッドソンと、世界最高峰のカスタムブーツを指針にメイドインアメリカを貫き通すウエスコ。百年を超える歴史を従えるこの両社は、強いアメリカを象徴する紛れもないレジェンドだ。