
1977 FXS ローライダーの系譜を今に受け継ぐFXLRS ローライダーSの派生モデルとして2022年に登場したFXLRST ローライダーST。ショベルヘッド時代にリリースされたFXRT スポーツグライドをオマージュした、カンパニーのセフルコピーとも言えるスポーツツーリングモデルである。FXRをベースとした近年のクラブスタイルカスタム人気を受け、満を持して登場したファクトリーカスタム、ローライダーST最大の特徴は、そのライディングフィールにある。
ハンドリングへの影響を最小限に抑えたフレームマウントの巨大なフェアリングは、ツーリングモデルのそれと比べても遜色のない防風性能を誇る。ただしローライダーSTはあくまでもソフテイルファミリーの一員であり、決してツーリングモデルではない。ゆえにウルトラやロードグライドのような豪華インフォテインメントシステムは装備されておらず、ローライダーSTのフェアリングは防風性能に特化した装備と言える。もちろんスタイリングの要ということについては異論の余地はない。そして53.8リットルもの大容量を誇る着脱式サドルバッグを装備したリアエンドも大きな見所となっている。1泊程度のツーリングの荷物なら、このサドルバッグに余裕で収納できるはずだ。
搭載されるエンジンは、CVOを除く現行ラインナップ中、最大排気量となる1,923ccのミルウォーキーエイト117。アイコニックなヘビーブリーザーインテークには「117」の数値が誇らしげに配されている。最高出力105PS@5,020rpm、最大トルク168Nm@3,500rpmを発揮するこのパワーユニットのテイストは強烈のひと言。最高出力105PSというスペックは、この2,000ccに迫る排気量を考えれば、あまりインパクトのある数値とは言えないが、わずか3,500rpmで発揮される168Nmという強大なトルクの恩恵により、まるで背中を蹴飛ばされたような強烈な加速感を味わうことができる。車両重量327kgという巨体が猛然とスピードに乗っていく。
ローライダーSTはソフテイルフレームを採用したスポーツツーリングモデルであるが、そのポジションは少し異質なものだ。ハンドルバーはプルバックライザーを介したスーパーバーでワイズは肩幅より拳二個分くらい広い印象だ。そのグリップ位置は若干遠く、体を丸め込むような前傾姿勢を強いられる。ソフテイルフレームにダイレクトマウントされたソロシートの着座位置は低く、リジッドフレームのマシンでよく言われる、いわゆる「バイクの中に乗る」ような感覚の着座位置である。まさにエンジンを抱え込むようなシートポジションだ。ステップはフォワードミッドのハイポジションでソールの厚いブーツを履いていることもあり、膝頭がフューエルタンクより上になり、さらに膝を90度近く曲げる必要がある。これら3点が作り出すポジションは紛れもなくチョッパーのそれである。ショベルリジッドのフリスコチョッパーにでも乗っているような感覚だ。
巨大なフェアリングとサドルバッグを装備したスポーツツーリングモデルでありながら、その乗り味とポジションは、めいっぱいエンジンチューニングを施したフリスコチョッパーというなんとも言えない違和感。この点に気づいてからスイッチが切り替わり、ライディングが俄然楽しくなってきた。まさに無二の乗り味である。このライディングフールこそがローライダーST最大の美点であり、カスタムやチョッパーカルチャーをリスペクトするカンパニーが手掛けたファクトリーカスタムの存在意義なのだと確信する。
ハーレー乗りを中心としたバイク乗りに熱烈なファンが多い世界最高峰のワークブーツメーカー「WESCO(ウエスコ)」。1918年、米国オレゴン州ポートランドで創業されたウエスコは100年を超える歴史を持つ老舗で、メイドインアメリカを貫き通す米国でも数少ないレジェンドメーカーである。豊富なカスタムメニューにより、世界でただ一足のカスタムブーツを製作することができるウエスコであるが、もちろん魅力はそれだけではない。プロの現場で愛用されるワークブーツの本質である質実剛健なウエスコブーツの機能性は、ライディングギアとしても高いレベルで機能し、百人百様のバイクライフを力強くサポートしてくれる。
今回紹介するモデルは、プルオンブーツの代表格、いわゆるエンジニアブーツの「BOSS(ボス)」である。1939年に登場した機械作業用の安全靴をルーツに持つボスは、その堅牢性と防水性の高さにより世界中のバイカーから支持されている。シンプルかつハードなフォルムはファッション要素も多分に含み、ロックを中心としたミュージックシーンでの需要も多い稀有なモデルだ。
適度な重さがあり、足首がホールドされるウエスコブーツは、踏ん張りが効くことによりバイクの取り回しや信号などでの停車時の安定感アップ、もちろんソールのチョイス次第で足つき性の大幅な向上も実現可能。さらに旧車などに見られるキックスタートのモデルではペダルの踏み込みスピードをアップさせることで、エンジン始動性の向上も見込めるはずだ。
ここで、今回撮影に使用したボスのカスタムポイントについて紹介させていただこう。レザーカラーはオールブラックのラフアウト(スエード面)。ハードな印象になりすぎないよう、定番のブラックレザーをラフアウトにて使用している。ハイトはボスのスタンダードである11インチから1インチショートとなる10インチ。つま先の形状はスタンダードなボス・トウ、ステッチもオールブラックとしている。ボスのアイポイントとなるバックルはウエスコジャパン限定のローラーバックルで、カラーはシンプルなニッケルメッキをチョイス。
ブーツの要であるソールは多くのバイク乗りから支持されるグリップ力に優れた#430 VIBRAMを選択。ミッドソールはダブル仕様とし、ヒールの積み革はダブルミッドソールに合わせて1枚追加されている。トップストラップのバックルもニッケルメッキのローラーバックルをチョイス。さらにブーツのフィット感にこだわり、履き口を1インチ分ナロード。少しマニアックなメニューであるがブルオンブーツのボスには非常に有効なカスタムと言える。
チョッパーライクなライディングフィールを持つ異形のスポーツツーリングモデル、ローライダーST。クロにこだわったオールラフアウトのソリッドなボスとのマッチングも申し分なし。2,000ccに迫る排気量を誇る弩級のハーレーダビッドソンを、タフなウエスコブーツで手懐けていく。これはちょっとした快感だ。