KTM390/250CUPに参戦するライダーたちから見た新型RC 390

掲載日/2022年11月18日
取材協力/KTM JAPANKTM川崎中央
写真/秋森一哉、wild.gr.jp、横田和彦
文/横田和彦
構成/バイクブロス・マガジンズ
ミドル・フルカウルモデルクラスで注目度が高まっている・KTM RC 390。MotoGPにインスパイアされたレーシーなスタイルと熟成度を高めた高回転型単気筒エンジン、新たに搭載された先進の電子制御システムなどにより爽快な走行性能を誇っている。その新型RC 390について先代のRC 390や390 DUKEでレースをしているヘビーユーザーに話を聞いてみた。

KTMのミドルクラスのみで競われるワンメイクレース<KTM390/250CUP>

レースの日にはKTMのテントが並ぶ通称・オレンジ村が設置される。エントラントはここでレースの準備をする。和気あいあいとした雰囲気が良いという声もある。

参加台数は20〜30台程度。KTMの390クラスの車両であればエントリーできるが現在はRCシリーズが多い。過去にはハスクバーナ・モーターサイクルズ・Svartpilen 401がエントリーしたことも。(2021年4月17日)

KTM390/250CUPとは、茨城県の筑波サーキットで年3回開催されているサンデーレース・筑波ツーリスト・トロフィーの中の1カテゴリーとして開催されているレースだ。その名の通りKTMの390cc(正確には373cc)と250ccのエンジンを搭載したマシン(RC 390/250、390/250 DUKE、ハスクバーナ・モーターサイクルズのVitpilen 401、Svartpilen 401)のみで競われるレースだ。始まったのは2015年4月。その年は九州のオートポリスを皮切りにツインリンクもてぎ(現モビリティリゾートもてぎ)、岡山国際サーキット、筑波サーキット(2戦)と計5戦で行なわれた。2016年、2017年は同じく全国で5戦が行なわれたが、2018年からは筑波ツーリスト・トロフィーの1カテゴリーに組み込まれ、以来年3回開催されている。

パドックがアットホームな雰囲気なのもレース活動を継続しやすい理由のひとつ。モータースポーツの世界で自分の技術を切磋琢磨できる環境になっている。

クラスは改造がほぼ許されていないストッククラスと、大幅なモディファイが可能なカスタムクラスの2クラス。それぞれに表彰が行なわれる。エントリー台数が多いのはカスタムクラスだが、マシンのポテンシャルが高いことから、よりエントリーしやすいストッククラスでもハイペースでのバトルが楽しめると人気だ。

当初はフルカウルのRCシリーズとネイキッドのDUKEシリーズは半々くらいだったが、現在はRCシリーズの方が多い。やはりサーキットでは前傾ポジションの方がハイスピードでのコントロール性に優れているということだろうか。しかし少数派ではあるがDUKEシリーズでエントリーを続けているライダーもいる。

参戦者に聞くと、KTMのミドルクラスのマシンは価格がこなれているためベース車が入手しやすいという。また純正パーツや消耗パーツなども安価な部類なので、ランニングコストも低く抑えられる。そのためKTM390/250CUPは比較的参入しやすく、長く続けやすいレースだとも話してくれた。

エントリーした新型RC 390で記念写真。#1横田選手、#13渡辺選手がストッククラス。#2野崎選手がカスタムクラスだ。(2022年9月10日)

2022年9月10日(土)に行なわれた最終戦ではついに新型RC 390がデビューした。カスタムクラスに1台、ストッククラスに2台の計3台がエントリー。まだ専用のカスタムパーツが発売されていないため、みなレギュレーションをクリアするために他車用のパーツを加工したり、先代のRC/DUKE用のパーツを流用するなど工夫してマシンを造り上げた。結果、#2野崎選手(KTM川崎中央・新型RC 390)のマシンが予選2位に。決勝では6位でチェッカーをくぐった。ライダーが全日本経験者なので賞典外となったが、新型RC 390が持つ高いポテンシャルを証明する結果となった。

2022年KTM390CUPカスタムクラス・シリーズチャンピオンから見た新型RC 390



2022年に行なわれたKTM390/250CUPは4月、7月、9月の3戦。先代のRC 390でエントリーしてきた#79植村選手(KTM川崎中央と監督秋田RⅢS)は1位、1位、2位という好成績を収めシリーズチャンピオンに輝いた。植村選手はNS1クラスにもダブルエントリーしていて、そちらでも勝利を収めるというRC 390マイスター。

レース歴を聞くとレースをはじめたのは1989年。CBR400Rではじめ、1990年から2年間はCBR250RRを駆り、西仙台ハイランドを中心にレース活動を行っていた。その後しばらくバイクから離れるが2010年にCBR600RRで再開。しかし2011年に公道で交通事故に巻き込まれてしまい長期間療養生活をする羽目に。そのときに旧友の1997年に全日本ロードレース選手権GP125チャンピオンになった秋田さんとレースについてじっくりと話す機会を得た。そこで聞いた彼のレースに対する考え方や取り組み方、レース運びなどがのちの植村さんのレース活動に大いに役立つことになる。

植村さんがKTMに出会ったのは2015年のこと。当時KTM川崎中央の店舗工事をしているときに見た200 DUKEの日本車にはないデザインに惹かれたという。軽快な乗り味であることも気に入り、筑波サーキットに持ち込んでレースに復帰した。

「今までに乗ったバイクの中でもかなりバランスが良い部類。とても良い印象が残っています」と笑顔で話してくれた。

植村さんがKTM390CUPに参戦したのは2015年の第2戦から。

「鉄フレームと単気筒エンジンを組み合わせた外車でワンメイクレースをする。それがとてもオモシロそうだと思ったんです」

スチール製のトレリスフレームは適度にしなり、250ccよりも大きいが600ccほどではないエンジンパワーがサーキット走行に向いているとも。

「コーナーの進入などでミスをしても250ccほどシビアじゃないからリカバリーしやすい。扱いやすいパワー感ですね」

初期型はフロントフォークの動きにクセがあったがセットアップで解消。トップブリッジにハンドルが差し込まれている構造なので転倒すると修復が大変というデメリットはあるものの、それ以外は特に大きな問題はなく、楽しくレースに参戦しているという。

足まわりやエンジン、吸排気系など徹底的に手が入れられている植村さんのRC 390。戦闘力はかなり向上している。(2019年9月)

植村さんはRC 250(KTM川崎中央)で2015〜2016年に「もて耐」(モビリティリゾートもてぎで開催される耐久レース)にも参戦したことがあり、クラス3位になったことも。

そんなRC 390マイスターである植村さんに新型RC 390について聞いてみると「まだ乗ったことがないんですよ」と笑いながら「エンジンの搭載位置やキャスター角が変わっているなど、よりセットアップしやすそうなディメンションになっていることに興味があります。サスペンションの動きも良くなっているので、一度サーキットで乗ってみたいですよね」と話す。

KTM390CUPチャンピオンにとっても新型RC 390は気になるポイントが多いようだ。

「レースでは仲間に支えられています」という植村さん(中央)。特に国際A級ライセンスを持つKTM川崎中央のメカニック野崎さん(左)や元全日本ロードレース選手権125ccクラスチャンピオンの秋田さん(右)の力は大きいという。

来年以降もKTM390/250CUPに参戦したいという植村さん。より激戦といわれているJP250へのエントリーについて聞くと「変更しないといけないカスタムポイントが多すぎるので現時点ではちょっと……」との返事。個人的には他メーカーのバイクと競うレースでRC 390のポテンシャルを引き出し、好成績を収めて欲しいと考えるのだが。ともあれ植村さんの来年以降の活躍に期待したい。

KTM390/250CUPに参戦し続けているライターから見た新型RC 390

実は筆者もKTM390/250CUPにエントリーしている。しかも第1戦から全戦エントリーしてきている唯一のライダーだったりする。なので新型RC 390には興味深々。メディア試乗会では担当者に色々と質問しながら走ってきた。

大幅に軽量化されたホイールやフラットなトルクフィールになった高回転型単気筒エンジン、軽快さに磨きがかかったハンドリングなど進化した点も数多く、よりスポーツライディングが楽しめるようになっていることを体感した。

レーシーなスタイリングはMotoGPの血統を感じる。

ホイール&ディスクローターの肉抜きにより大幅な軽量化を実現。調整機能が追加された倒立フォークとも相まって、より軽快なハンドリングとなっている。

基本は大きく変わらない高回転型の単気筒エンジンだが、どの回転域からもスムーズにトルクが出る特性になっている。ツーリングなどでも使いやすいキャラクターだ。

ホイールはスポークの細さが目立つ。リヤのABSを解除できるスーパーモトモードも搭載されている。マフラーエンドの処理もMotoGPマシンのよう。

これだけのポテンシャルを持つマシンでKTM390CUPを走ったらどうなるんだろう?

試乗会で興味が増した筆者は2015年の第1戦から2022年7月までは2015年モデルの390 DUKEで走ってきたのだが、9月はなんとか新型RC 390でレースに出られないかと画策。するとKTM JAPANさんのご厚意で9月のレースのときにRC 390の広報車をお借りする事ができた。クラスはカスタムが許されていないストック。保安部品を外してオイルラインやブレーキ周辺にワイヤリングを施工。他車種用を加工したアンダーカウルの装着などによりレギュレーションをクリアした。

(上)アンダーカウルはFRP製の他車種用を加工して装着。(左下)保安部品を外してウインカー、ヘッドライトはラッピング処理。オイルラインにはワイヤリングを施す。

諸般の事情により事前練習ができず、ぶっつけ本番でレース当日を迎えた。保安部品を外しただけでレーシングマシンのようなスタイルになるのはさすがだ。見ているだけでテンションが上ってくる。

ノーマルでこのルックス。サーキットでも映える。

無事に車検クリア。準備がバタバタだったので、通っただけで笑顔になる。

といっても流石にレースの世界はキビシイ。というか単純に実力不足なのだが、予選ではクラス最後尾(20位)に。しかし感触は悪くなく、前車とのタイム差も思ったほどはつかなかったことにホッとした。

初めての最後列。それでもみんな笑顔なのはレースを楽しんでいるから。決してヤケになっているからではない!?

スタートで何台か抜くことに成功したが、ストレートですぐに抜き返される。その後数台でバトルしながら周回を重ねた。

規定の10周が終わりチェッカーをくぐったときは16位になっていた。借り物のバイクということもあって転倒やトラブルがなく終われたことに一安心。と同時に、ほぼフルノーマルでありながら持ち味である軽快なハンドリングやサスペンションの動きの良さなどによってレースが想像以上に楽しめたことに満足感を覚えた。

レース参戦によって、新型RC 390のスポーツ性能はストリートのみならずサーキット走行でも満足できる、かなり高いものだということが実感できた。しかもそのフィーリングをビギナーからベテランライダーまで、幅広いライダーが楽しむことができる扱いやすさも備えている。スポーツバイクに興味がある人は、ぜひ一度試乗してもらいたいと思う。

KTM
RC 390
¥830,000(税込)

SPECIFICATION
車名:RC 390
軸間距離:1,343mm
最低地上高:158mm
シート高:824mm
車両重量:約155kg(燃料除く)
エンジン型式:水冷・4サイクル・単気筒・DOHC・4バルブ
総排気量:373cc
内径×行程:89mm × 60mm
圧縮比:12.6
最高出力:32kW〈44PS〉/ 9,000rpm
最大トルク:37N・m/ 7,000rpm
燃料タンク容量:約13.7L
フレーム形式:スチール製トレリスフレーム
キャスター:66.5°
フロントブレーキ:4ピストンラジアルマウント
リヤブレーキ:1ピストンフローティングキャリパー
タイヤサイズ(前/後):110/70ZR17/150/60ZR17
乗車定員 2名
※ライドバイワイヤー/コーナリングABS(スーパーモトモード搭載)/コーナリングMTC