日置洋子さんは、ハーレー乗りになってまだ数年というキャリアだ。身長は150cmと小柄なので、取り扱いの良さそうなスポーツスターを愛車に選んだ。ビッグツインという選択肢は元々無いのだが、ストックの乗り味には少し不満があったようだ。
今回インタビューを試みたのは、奥様の洋子さん。一般的に女性ライダーは、エンジンのパワーアップに直結するイメージのチューニングに、少々抵抗意識がある傾向が見られる。特にハーレーを好むライダーならなおさら、パワフルさよりも乗りやすく気持ちの良いフィーリングを求めているものだ。エンジンチューニングという言葉の響きには、まだまだ少し野蛮なイメージがあり、それはなかなか払拭されていないようにも思う。
「主人がバイク乗りになってから、なんだか取り残されてしまったような感覚になってしまい、自分も乗ろうと思いました。それで免許を取得してハーレーも購入したんです。私を置いて行かないでーって気持ちでね。なんだかダンナのストーカーみたいでしょ(笑)」
当時、ご主人の愛車はブレイクアウトで、そのバイクは現在も所有している。強烈なスタイリングが個性的なモデルをさらにカスタムしてエンジンも他店でチューニングしたが、どうにも気に入らず、イビサモトファクトリーで再度チューニングし直してもらった。その結果に満足し、奥様のスポーツスターアイアンもチューニングすることになったのだ。
「私の場合、とにかく乗りやすいことが大前提なわけです。だから最初は883でも良いかなぁって思っていたんですけど、ダンナが1200じゃないと付いて来られないぞって言うんですよ。それでこのモデルになりました。もちろん最初はノーマルだったのですが、ライディングポジションも合っていなくて、少し乗りにくかったですね」
スポーツスターの第一印象は「重い」ということ。それは車重という意味だけでなく乗り味全体が重かったという。アクセルを開けていくフィーリングにスムーズな加速感が伴わない印象や、一定速度で走っている時やアクセルを戻した時のぎくしゃく感も不満で、小柄な彼女には大雑把なライディングポジションにも違和感があったという。セミアップタイプのノーマルハンドルでは、かなりの前傾ポジションになってしまうと同時に、幅広なポジションゆえ、高速走行時の安定感にも不安があったのだ。
イビサモトファクトリー代表の今濱さんは、ユーザーの声を最重要視してカスタムやチューニングを実践する人。求められる乗り味にどれだけ答えられるかという視点でユーザーとディスカッションを重ねて、セッティングしていく。それはエンジンのチューニングから、カスタムパーツの選び方まで一貫しているチューナーとしての信条なのだ。料理で言えばシェフと同じ感覚を持ち、なおユーザーの好みにも的確に答えていくのが敏腕チューナーとしての素養である。彼女にとって、今濱さんは、お気に入り料亭の板前や、信頼する主治医のような存在なのだと思う。
チューニングという作業は、たとえベース車がノーマルであっても、その効果は体感できるもの。ハーレーは、その点とても懐の深い設定になっていることが特徴で、様々なカスタムパーツの選び方に応じたチューニングが実施できる。個性的なルックスに似合ったチューニングという作業は、必要不可欠なものだと言っても良いだろう。カスタムとエンジンチューニングを終えた洋子さんのスポーツスターは、スタイリングも彼女の好みにシェイプされ、ライディングポジションも改善された。そしてエンジンの印象もまた、とてもスムーズになったという。
「まず走り出しの瞬間から軽い印象になりましたね。バイクがスッと前に出る感じ。その後の巡航速度域でもギクシャクしなくてスムーズです。ライポジもアップライトになったから楽ですし、ハンドル幅も狭いので高速時に横風の影響も少なくて安定するようになりました。足つきも良くなって、本当に乗りやすいですよ」
チューニングの本質は、パワーアップだけではなくて総合的なセッティング。調整という意味合いで受け止めるべきでもあるだろう。求めるものがパワーならば、その方向性でもセッティングが可能だし、乗りやすさを追求するのも一つの方向性である。自分好みのカスタムバイクを製作する上で重要なポイントとなるのは、パーツ選びとチューニング。しかしそれは料理で言えばレシピであり、同じレシピを使っても、腕をふるう料理人次第でその結果は大きく左右されてしまう。つまり、自分にとって美味いと思うレストランを考えるのと同様に、カスタムショップの選びかたも考えるべきなのだ。
ハーレー乗りにとって、愛車がパワフル&トルクフルでスムーズであることは、どのレベルのユーザーでも歓迎すべきことのはず。それこそがカスタムワークの真髄である。イビサモトファクトリーではビギナーでもベテランでも求めるイメージをディスカッションの中で見出し、それを実現させていく。ハーレーは、そのように自分にとって唯一無二の相棒となっていくのである。
チューニングやカスタムを実施する上で、最も重要なポイントは、ユーザーとのコミュニケーションであると考えるイビサモトファクトリー代表の今濱さん。ディスカッションを重ねて求められているイメージを引き出すことがまず基本であるという。
洋子さんの愛車、ベースモデルはスポーツスター1200アイアン。2019モデルである。883アイアンの人気から後に追加されたスポーツスターのベーシックモデルで、スリムなスタイリングから人気は衰えない。基本的なシルエットは、ノーマルテイストなカスタムを施してある。
エンジンは1200ccのノーマルで、チューニングデバイスはフラッシュチューナーを使用してセッティング。エアークリーナーは、パフォーマンスマシンのMAX HPエアークリーナーコントラストカットを装備する。
マフラーは、アーレンネス製のマグナフローを装着。ストックエンジンにマフラーとエアークリーナー交換というパターンは多いが、そのままだと吸排気のバランスが大いに崩れるので、チューニングは不可欠だ。リヤサスはオーリンズ製HD207で、全長は280mm。
相対的に低く幅広かったノーマルハンドルは、身長150cmの洋子さんには無理があり、サンダーバイク製のロボットハンドルに変更された。残念ながら、これはすでに廃版モデルだという。
最近、初香(ういか)ちゃんが生まれて、絶賛子育て中の洋子さん。さすがにしばらくはハーレーに乗れないらしく、このスポーツスターはご主人のサードバイクとなっていると笑う。その乗りやすさはご主人の政郁さんも認めるところ。
ご主人の政郁さんは現在、ロードグライドの他にブレイクアウトも所有する。元々はブレイクアウトが愛車で、カスタムやチューニングを他店で実施したが思うようなイメージにならず、ネット検索で気になったこのイビサモトファクトリーを訪れたという。そしてブレイクアウトは再チューニング。以来、2台のハーレー持ちとなった。
政郁さんの愛車、ベースモデルは2020年のロードグライド。購入のきっかけは、イビサのデモバイクだったツーリングモデルのインパクトがとても強かったからだという。アメリカ本土でのバガーレースのイメージも好みだったことから、外装を徹底的にカーボンパーツで軽量化している。
エンジンは、シリンダーにリーディングエッジ製ビレットシリンダーボアアップキットを使用し、排気量は2114ccだ。カムはT-MAN226を採用。かなりの高回転高出力型となっている。最高出力はなんと130psだという。マフラーはトラスク製のビッグセクシー2in1を採用。スーパーパワフルでも乗りやすいということがコンセプトなのだ。
足回りは徹底的に軽量化&ブラッシュアップされている。ホイールはブロックスツイン製のカーボン素材。フロントフォークはオーリンズ製の倒立タイプ。ブレーキキャリパーにはベルリンガー製の対抗4ポッドを採用して強化されている。
リヤサスもオーリンズ製HD044を使用。ノーマルよりも1インチ車高を上げている。そしてホイールはやはりカーボンで軽量化。スイングアームはトラックデザイン製のアルミダイキャストで、剛性アップと軽量化が成されている。
空調と防音設備も完璧なイビサモトファクトリーのシャーシダイナモルーム。リターダーと呼ばれる走行抵抗を任意に設定できる装置も装備している優れた擬似走行マシンで、様々な走行データーをチェックし、調整することが可能である。
代表の今濱雅史さんは、綿密なデーター取りと共に、実際に走行してみての感覚も重要視するチューナーで、常にユーザーに寄り添う姿勢でのチューニングが評判だ。人当たりの柔らかさもまた、多くのハーレーユーザーに信頼されている要素でもあるだろう。
イビサモトファクトリーは、阪急電鉄の西宮北口駅から徒歩5分。国道171号線に面した好立地である。パーキングもあり、クルマでの来訪も可能。ショールームには、チューニング待ち納車待ちのハーレーが整然と並ぶ。IBIZAとは、スペイン語で楽園という意味がある。
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