KUSHITANI PROSHOP 浜松本店が移転オープン! 規格外の店舗は行ってみる価値あり

掲載日/2021年12月3日
取材協力/株式会社クシタニ
写真/井上演 取材、文/佐賀山敏行(一間堂)
構成/バイクブロス・マガジンズ
2021年9月18日、静岡県浜松市にあるクシタニ本店が移転リニューアルオープンを果たした。店舗面積を以前の約6倍に拡大し、内装にも多くのこだわりが見られる。まるでテーマパークを思わせるような同店について、詳細にリポートしていく。

こだわりのデザインは、大人のライダーがゆっくりとくつろげる空間

高品質なライダーウェアやレーシングスーツで高い評価を得るクシタニの創業は1947年。まだ「バイク用品」なんてものがなかった時代から、革、そしてバイクとともに歩んできた同社は、今や全国に直営店を構える、まさに日本を代表するバイク用品ブランドである。

そんな同社が創業以来、本店を構えるのが静岡県浜松市。今回、移転リニューアルオープンを果たしたのも、もちろん浜松市内である。JR浜松駅から南へまっすぐ約2.5km。中田島街道沿いにある。

KUSHITANI PROSHOP 浜松本店
静岡県浜松市南区白羽町662-1
tel.053-488-8884
定休日:水・木
営業時間:10:00~19:00

一瞬、巨大な倉庫を思わせるが、すぐに一般的な物流倉庫とは明らかに異なるスタイリッシュな建物だと気づく。今回、取材に行くにあたって、浜松駅から車で中田島街道を南下していったのだが、圧倒的な存在感を放っていたのが印象的。巨大な『KUSHITANI』ロゴが圧巻だった。

店内にはクシタニの全ラインナップが揃うが、その広さのため圧迫感は皆無だ。

店内も外観同様にスタイリッシュなデザイン。商品棚同士の間隔が広く、ゆっくりと商品を見られるようになっている。

ちなみに以前の本店は約100平米。今回は600平米もの面積があるとのこと。クシタニの全ラインナップが揃うという点では以前と同じだが、その分、店内にはゆとりのある空間が広がる。

海外のレースシーンとみごとにオマージュしたデザイン。無骨なコンテナが高級感あふれる内装に昇華されている。

内装デザインはコンテナを思わせるような意匠でまとめられているが、それが顕著に表れているのが壁面に沿うエリア。

そのコンセプトについて、「海外のサーキットではレースがおこなわれる時にさまざまな業者がコンテナを使ってスタンドショップを開くのです。その雰囲気を再現したかったのです」と同社広報部・櫛谷信夫さんは言う。

クシタニといえばレースシーンは切っても切り離せないもの。ツーリングウェアだけでなく、レーシングスーツも全ラインナップが揃う。フルオーダーももちろん可能だ。

これはレーシングスーツを通して、世界のレースシーンを名ライダーとともに戦ってきたクシタニならではの世界観だといえよう。

当然、レーシングスーツも数多くが展示されてあり、フィッティングルームはもちろん、“フィッティングマシン”も常備。理想の1着を手に入れられる環境が整っている。

コンテナに見えるが、基礎と繋がっている。アイデアは信夫さんによるもので、設計を担当した建築士はそのアイデアを聞いて、唖然としていたという。

2階を見上げてみると、こちらにもコンテナが……しかし、じつはコレ、コンテナ風に仕上げた建造物。日本の建築基準法ではコンテナを積み上げて店舗にすることは認められていない。

そこで、コンテナに見える部分は柱を1階の基礎まで伸ばしており、建造物としての要件を満たしているのだ。

平日はスタッフが裾上げ、週末には職人さんがジャケットやパンツの修理を、2階のこのスペースでおこなうという。

1階の売り場は吹き抜けで、2階はコンテナ風の部屋を壁に沿った廊下で繋ぐ構造になっている。2階から1階の売り場を一望できるのも楽しい。

そんな2階廊下の一画は、休憩ができるコミュニティスペースになっている。

コロナ禍が収まり、コミュニティスペースとして本来の機能が発揮されることを楽しみにしたい。

現在はコロナ禍によって、最低脚数の椅子が置かれているだけだが、今後はソファやテーブルなどを置いて、お客さんがゆっくりくつろげるスペースにしたいとのこと。

1階奥にあるKUSHITANI CAFEでコーヒーやジェラート(クシタニオリジナル!)をオーダーし、そのまま階段を上がればコミュニティスペースにアクセスできるようになっている。

ちなみに取材当日、筆者もオリジナルジェラートをいただいたが、これが絶品! ウェアなどを買うだけでなく、カフェに立ち寄るだけでも十分に来店する動機になりうるだろう。

ヒストリーロードの先には櫛谷商店……タイムトリップを楽しむ

先に本店面積は約600平米と紹介したが、売り場面積はそのうちの約2/3。残りの1/3がKUSHITANI CAFEやコミュニティスペースになるのだが、じつはそれだけではない。

※写真提供:株式会社クシタニ

お店に入ってすぐ左側に、仕切られた通路がある。幅3mほどの細長いその通路に入ると、両壁にびっしりとレーシングスーツが飾られている。

これはクシタニがこれまでサポートしてきたライダーが着たレーシングスーツ。クシタニの歴史が見られる通路ということで、『ヒストリーロード』と名付けられた空間だ。

※写真提供:株式会社クシタニ

そして、同社の長きに渡るレースシーンをたっぷり堪能した先にあるのが……

櫛谷商店だ。

昭和風情たっぷりのこの建物は、株式会社クシタニの前身となる、創業当時の『櫛谷商店』を再現したというもの。そう、店舗の一番奥に、昭和の景色が配置されているのだ。

しかも建物だけでなく、当時、実際に街中を走っていたであろうYAMAHAやRABBITなどもレストアして展示されているのには驚きだ。

櫛谷商店2階はスタッフのミーティングルームとして活用。ちなみに当時はクシタニ創業者である櫛谷淑啓・稔子夫妻の住居だったそうだ。

コンテナをイメージした現代的な店舗内装から、一気に昭和20年代にタイムスリップ……バイクウェア販売店としては規格外ともいえるワクワク感は、さすが世界中にファンを持つクシタニならではといえるだろう。

KUSHITANI CAFEでくつろいで、櫛谷商店を見に来る……それだけでも十分価値がある。ツーリングの目的地にしてもいいのではないかと、個人的には思った。

また、1階では今後、革を使ったワークショップや、革小物の実演販売などのイベントを開催していく予定とのこと。ただ建物を見学するだけでなく、実際に革を使った体験ができるのも高ポイント。

ライダーだけでなく、地域の住民も楽しめるような店舗作りとなっている。

ショッピングバッグには櫛谷商店の写真が。

ちなみに、櫛谷商店を再現するにあたって、残っていた写真は1枚のみ。その写真がショッピングバッグに掲載されている。

ぜひ、本店で買い物をして、バッグのプリントと再現された櫛谷商店とを見比べていただきたい。

基本コンセプトは創業時と変わらず

大幅なリニューアルを遂げ、これまでにないような斬新かつスタイリッシュな店舗となったKUSHITANI PROSHOP 浜松本店。しかし、このリニューアルは決して奇をてらったわけではなく、あくまでも「キープコンセプト」だと信夫さんは言う。

「クシタニは、櫛谷商店の時代から路面店で、対面販売をおこなってきました。それこそバイク用品というものがなかった時代から、革をメインにして商売をおこなってきたのです。そういう意味では、新しくなった本店も路面店で、基本は対面販売。
コロナ禍やネット販売の隆盛などで、路面店は難しいと言われている状況にあっても、そこは忠実に守っているのです」

お話を伺ったのは株式会社クシタニ 広報部 櫛谷信夫さん。浜松本店だけでなく、同社のすべての店舗のデザイン・演出を取り仕切る。

さらに「浜松という地域へのこだわりも忘れてはいない」と続ける。

「1947年の創業時から、クシタニは浜松でやってきました。今回の移転リニューアルを考えたときに、その原点である櫛谷商店を再現したいと考えたのです。櫛谷商店時代に所縁のあった方々は、いま70代以上です。だけど、今回のリニューアルオープンでお声がけすると、わざわざ来てくれて、しかも懐かしんでくれるのです。
これこそが、クシタニが最も大切にしてきた、そしてこれからも大切にしなければならないものだと考えています」

今回インタビューをおこなった2階の1室は、商談ルームとして活用される。

今後は櫛谷商店に所縁のある方達を読んで、アーカイブ化を計画しているとのこと。その模様はYouTubeで公開していくそうだ。

リニューアルを遂げ、大きく変化したかのように見えるKUSHITANI PROSHOP 浜松本店だが、その根は変わらず。むしろ櫛谷商店を再現し、温故知新……これからも原点を忘れずに、ライダーのためのライフスタイルを提案し続けてくれるのだろう。

INFORMATION

住所/東京都世田谷区瀬田3-15-9
電話/03-3708-3551
営業時間/11:00~20:00
定休日/水曜日

富士山をあしらったロゴマークが象徴的なクシタニの本拠地は、昔も今も静岡県浜松市。そう、ホンダやスズキ、ヤマハといったバイクメーカーと、創業の地を同じくしているのです。
バイク用のレザーウェアを手がけるようになったきっかけも、もともと革製品の製造販売を行っていたところに、あるバイクメーカーから、自社ライダー用のウェア製造を依頼されたことにあります。革ツナギ(レザー製レーシングスーツ)メーカーとしてのクシタニの出発点は、そんな要望に応えることだったのです。
記念すべき第一号のレーシングスーツが完成したのは、1955年のこと。さっそく浅間高原レースで着用したライダーからは高い評価を受け、その後の発展は誰もが知るとおり。世界グランプリシーンだけをとってみても、ワイン・ガードナーなど多くのレジェンドが愛用してきており、クシタニのレザースーツが、ライダーのいわば第2の皮膚として認められていることを証明しています。なお、KUSHITANIの革つなぎは、いまも浜松の自社工場において、一着づつ縫製されています。
現在は、レザースーツのほか、レザージャケットなどの革製品、テキスタイル(布地・織物)のウェア類を中心に、プレミアムブランドとして多くのライダーに親しまれています。
また、しっかりとした製品を供給しながら、サーキットの走行会などのイベントや、KUSHITANIカフェの運営など、バイクライフを楽しんでいただくための働きかけも行っています。