
バイクの登場から今日まで、ライダーの頭を守ってきたヘルメット。私たちの生活する日本では、バイクを運転する際に装着義務が課されているので、切っても切れない関係となっている。ヘルメットの歴史を振り返ると、ハーフタイプのものからはじまり、側頭部まで守るオープンフェイス、あごまですべてカバーするフルフェイスと進化を遂げ、その先にあったのは、チン(あご)ガードパートが、大きく開閉するギミックを備えたシステムヘルメットだった。
SCOPEの魅力は何といっても高いデザイン性にある。前方から後方にかけて、伸びやかな折り込みラインを用いることで、躍動的でスポーティなスタイリングとしている。
システムヘルメットは80年代に登場し、欧州のツーリングライダーを中心に人気を博していった。走行時にはチンガードを下げたフルフェイスヘルメット同様のスタイルで使用することで、頭部全体を守るという安心感を得られるほか、高速道路使用時の走行風を防ぎ、静粛性も向上する。一方、バイクを降りた際は、チンガードを上げることでオープンフェイスヘルメットのような開放的なスタイルとなる。会話をするにもストレスが少なく、コンビニやパーキングエリアなどでコーヒーブレイク時であったり、スマートフォンの操作をする際なども、視界を遮るものがないことがとても利点となる。実際に使ってみたライダーはその利便性に驚き、瞬く間にシェアは拡大していった。というのが大まかなシステムヘルメットの話である。本題はここからだ。バイク用ヘルメット業界において世界ナンバーワンの販売数を誇るスペインのブランド『LS2』から、最新のシステムヘルメット『SCOPE(スコープ)』が登場したので、実際に使用し、その魅力を紹介したいと思う。
インナーバイザーが内蔵されており、あごの脇に備わるスイッチを操作することで、ワンタッチで出し入れすることができる。チンガードを上げた状態でのデザインも良い。
まずスタイリングから見てゆこう。システムヘルメットはその特殊なギミックから、横方向にフォルムが広がってしまいがちなのだが、SCOPEは細身のシェイプを上手くデザインで表現している。これは前方左右に設けられた折り込みラインや、カラーパターンなどからくるものだろう。手に取ってみると、想像以上に軽いことに驚かされる。ただでさえ首に重量物が乗った状態でバイクを走らせるということはストレスであり、ヘルメットは軽い方が優れていると私は考えている(もちろん十分な安全性を確保した上でだ)。普段の私のヘルメットは、国内ブランドの59-60サイズであり、おおよそLサイズとして区分される大きさのものを使用している。ただ何度かヘルメット製造のプロフェッショナルに頭の形を見てもらったのだが、前後方向が短く横幅が広いという典型的なアジアンスタイルである。ヘルメットのモデルや内装の形状の違いによって差はあるはずだが、SCOPEではXLサイズを選んだところちょうどよかった。
加筆しておくならば、システムヘルメットは通常チンガードを開けた状態で被り(外すときも)、その後チンガードを下ろしてフルフェイスタイプにしたうえで使用する。この、チンガードが上がっている状態と下がっている(ロックしている)状態では、横方向から支えられる力が異なるので、試着する際には、チンガードの状態にかかわらずストレスがないサイズを選びたい。そのチンガードだが、あごの先に備わるスイッチ操作でロックが外れ、左右のこめかみあたりを支点に開閉する機構となっているのだが、スムーズかつガッチリと固定されるロックにより安心感も高いものとなっている。
内装は高級感がありクッション性も高い。さらに着脱可能で洗濯もできる。ネックパッドからチークパッドまで一体とされ3Dレーザーカット技術で成形されており、高いフィット感を持つ。
実際にSCOPEを着用してショートツーリングに出てみた。フルフェイスヘルメット同様の安心感は、スポーツバイクを好む私には嬉しい。それにSCOPEは視界が広く、シールドの歪みも少ない。思っていた以上に風切り音も少なく、これならばライディングに集中することができる。個人的にはこの風切り音の大小はいつもヘルメットを選ぶ際に気になるところであり(試着ではこの点はわからないため、いつも博打になってしまう)、静粛性の高さは疲労度を軽減し、最終的にはセーフティーライドにもつながると思っている。
寒い時期での使用ということで、基本的にはベンチレーションは閉じていたのだが、テストのためにあごの部分と頭部前方に備わる吸気ポートを開いてみたところ、かなり高いベンチレーション性能を備えていることが分かった。それぞれのポートはグローブをしたままでも操作がしやすく、しかも微調整が可能なので、曇り止めのために少しだけ開いておくという使い方も容易だ。
さらにはインナーバイザーも装備しており、シチュエーションに合わせてワンタッチで使用することができるのも、とても快適だった。日中走行の際、通常時はインナーバイザーを使用し、トンネルなどに差し掛かったら格納する。冬の季節は朝夕の斜光がきついので日常的に使用する際にもとても助かった。
頭部前方に備わる吸気ポート(インテーク)の開閉はグローブ装着時でも容易に操作ができた。排気ポート(アウトプット)は後頭部上方と左右襟足部分に設けられており、その効果は高い。
チンガードの下に備わるフラップが、高速走行時にかなり効いている印象だった。風切り音を大きく軽減しているほか、ヘルメット内部への風の巻き込みを防いでおり、走行風でヘルメットが持ち上がったり、変な方向に引っ張られるようなことを抑え込んでいる。
あごの左側の縁に備わるスイッチを前後に操作することで、インナーバイザーの開閉をすることができる。ネックストラップ(あご紐)にはクイックリリースバックルが採用されており、これも快適に使うことができた。
日々のバイクライフで使用した後、この原稿を書く際に参考資料を手に取り、私は驚きを隠せなかった。なんと税込みの定価が2万5080円、つまり税抜きでは2万2000円ほど、という驚愕ともいえる安価で販売されているのだ。運よくちょっとでもディスカウントしてくれるようなショップに巡り合えば、さらにお買い得な金額で手に入れることができるだろう。
実際に使ってみて感じた質感や性能から考えると、この価格というのはにわかに信じられないものがあるのだが、それ以上に良いヘルメットを多くのライダーに手に取り知ってもらいたいと言うメーカーの努力があってこそ実現できたものなのかもしれない。普段はフルフェイス、またはオープンフェイスのどちらかをメインヘルメットとして使っているライダーは、これをセカンドヘルメットとして用意しても重宝することだろうし、一度使えば使い勝手の良さにメインヘルメットに昇格させてしまうことだろう。これから教習所に通い免許を取ろうとしているビギナーライダーも、SCOPEであれば価格的にも手を出しやすく、長く使える相棒になってくれるはずだ。システムヘルメットの価格破壊とも言えるSCOPEだが、その内容は確かなものなので、是非一度手に取って高いコストパフォーマンス性を確かめて欲しい。
このデザイン、機能、品質で税込み定価2万5080円というのは、にわかに信じがたい。既存システムヘルメットユーザーには是非ともコストパフォーマンスを感じ取ってほしいと思うし、システムヘルメット未経験者にも、これを機会に実用性の高さを実感して頂きたい。