MVアグスタの新境地を切り開く、スーパーベローチェ800

掲載日/2020年11月10日
取材協力/MV AGUSTA JAPAN
写真/井上演 取材、文/中村友彦
構成/バイクブロス・マガジンズ
一昔前は高額車というイメージが強かったMVアグスタ。とはいえ、スーパーベローチェ800の249万7000円/256万3000円という価格は、日本製リッタースポーツのベーシックモデルと同等なのである。そしてその価格で、MVアグスタならではの流麗なデザインと操る楽しさが手に入ることを考えれば、高いと感じる人はいないのではないだろうか?

レトロテイストを取り入れながらも
既存の常識には縛られない造形

こんなに美しいバイクだったのか……。日本に上陸したばかりのスーパーベローチェ800と、数日間を共にした僕は、しみじみそう思った。もちろん、美しさの基準は各人各様だし、そもそもの話をするなら、当初の僕はこのバイクに対して、“MVアグスタ初のレトロテイスト路線”くらいにしか思っていなかった。でも現車に対面したら、あまりの美しさに圧倒され、何時間だって眺めていられる気がしたのだ。中でも、日中とは光の加減が変わる、夕暮れ時や夜の街で感じた美しさは絶品だった。

スーパーベローチェ800のデザインで興味深いのは、レトロテイストを取り入れながらも、他メーカーが販売するネオクラシックモデルのような、“往年の名車の再現”というテーマに縛られていないことだろう。もっとも、前後に配置された丸型のヘッド&テールライトや座面がフラットなシートは、1970年代に販売された750SやSS、750Sアメリカを思わせるところがあるけれど、無理に往年の名車に似せようとした気配は皆無。それどころか、ゴールドにペイントされたフレームとホイール、シャープにしてシンプルなサイドカウル、ブルターレ1000と共通の5インチTFTモニター、低さと短さを強調した造形からは、既存のネオクラシックモデルの常識に捉われない、MVアグスタの気概が感じられる。

開発ベースのF3 800を比較対象とするなら、攻撃的な印象が抑えられ、柔和な雰囲気を獲得していることも、このモデル独自の特徴だ。改めて考えると、アグレッシブなルックスが普通になった近年のスポーツモデルの中で、思わずホッとするような、優しさを感じるスーパーベローチェ800のデザインは、かなり貴重だと思う。

ではそんなスーパーベローチェ800が、どんな場面に適したバイクなのかと言うと、並列3気筒エンジンやトリレスフレームの基本設計はF3 800と共通なのだから、やっぱり本領を発揮するのは、ワインディングロードやサーキットだろう。とはいえ、流麗なデザインと常用域でも意外に親しみやすい乗り味を考えると、仕事終わりのアフター5に、市街地や高速道路を流すのも悪くなさそう。事実、スーパーベローチェ800はそういう使い方でも、十分以上の高揚感と爽快感を味わわせてくれた。

ライポジや前後サスの刷新で
フレンドリーな乗り味を構築する

本題に入る前に、MVアグスタの概要を説明しておくと、1923年に創設され、1945年から2輪事業に進出した同社は、モーターサイクルレースの歴史を語るうえで欠かせないブランドである。1949年からMotoGPの前身となる世界GPへの参戦を開始したMVアグスタは、以後の四半世紀で270回の優勝を飾り、37個ものタイトルを手中にしているのだから。もっともそういった記録は、すでに後進の日本勢に破られているのだが、1958~1960年に達成した3年連続4クラス制覇と(125/250/350/500ccで、ライダーとマニュファクチャラーズの両タイトルを獲得)、1958~1974年の最高峰クラス17連覇は、他メーカーではなし得ない、MVアグスタならではの偉業として、今後も語り継がれていくに違いない。

そして近年の同社のラインアップで、レースをバックボーンとするMVアグスタのDNAが最も感じやすいのは、スーパースポーツのF4/F3シリーズである。ただし、戦闘的なライディングポジションと高荷重指向のサスペンションを採用するF4/F3シリーズは、走行環境とライダーの技量をある程度問うキャラクターだから、乗り味に敷居の高さを感じる人もいただろう。でもスーパーベローチェ800なら、そんな心配は不要である。いや、不要はちょっと言い過ぎかもしれないが、このモデルはデザインだけではなく、乗り味という面でも、F4/F3シリーズを含めた現代のスーパースポーツとは一線を画する、フレンドリーな特性を獲得していたのだ。

スーパーベローチェ800のフレンドリーさを語るうえで、最も重要な要素は、開発ベースのF3 800と比較すると、18mm高く、6mm後方に移動したハンドルだ。数値ではわずかな差と思えるけれど、この寸法変更の効果は相当に大きく、乗り手の上半身の前傾度は外観から想像するより控えめ。F3 800と同じ830mmという数値を公表しながらも、座面を前傾→水平に変更することで、足つき性が良好になったシート、初期の作動性が良好になったリアサスペンションも、フレンドリーさに貢献する要素で、このバイクを走らせていると、過度の緊張や飛ばせないストレスはほとんど感じない。だからこそスーパーベローチェ800は、フルカウルのスポーツモデルでありながら、既存のF4/F3シリーズでは難しかった、市街地や高速道路での流すような走りが楽しめるのだ。

ちなみに実際に流すような走り、低中回転域を多用して市街地や高速道路を走った僕が、今さらながらにして感心したのが、MVアグスタ製ミドルトリプルの懐の深さである。もっともその片鱗は、過去に試乗したF3シリーズでも感じていたのだけれど、このエンジンは官能的な吹け上がりが満喫できる高回転域だけではなく、一発一発の爆発力が明確に感じられる低回転域も、徐々に排気音がまとまって回転上昇の勢いが増していく中回転域も、とにかくどの領域を使っていても楽しい。しかも逆回転クランクを採用しているおかげで、減速時の車体姿勢が極端な前下がりになりづらいから、ブレーキングは余裕を持って行える。いずれにしてもスーパーベローチェ800は、MVアグスタ製ミドリトリプルの魅力が実感しやすい特性で、フレンドリーさではアップハンドルのブルターレやツーリズモベローチェなどに軍配が上がるかもしれないが、レースをバックボーンとする同社のDNAを誰もが気軽に感じられるという面では、このモデルが一番だろう。

なおスーパーベローチェは、既存のF3 800と同様に多種多様な電子制御、ライディングモードやトラクションコントロール、スロットルレスポンスやエンブレのレベル調整機構、アップとダウンの両方に対応するクイックシフターなどを導入しているのだが、それらの恩恵が常用域で体感できたことも、僕にとっては意外な収穫だった。中でもスロットルレスポンスとエンブレの調整は効果が絶大で、ルックスがネオクラシック路線であっても、走りに直結する要素で手を抜かないところには、MVアグスタのこだわりが表れていると思う。

リッタースーパースポーツと同等の価格と
スーパーベローチェならではの存在意義

さて、当原稿では一般的なインプレとは異なる視点で、スーパーベローチェ800の魅力を述べて来たが、世の中には、“MVアグスタはセレブの乗り物で、自分のバイクライフには関係ない”と感じている人がいるらしい。とはいえ、スーパーベローチェ800の249万7000円/256万3000円という価格は、日本の4メーカーが販売するリッタースーパースポーツのベーシックモデルと同等なのだ。もちろん、現代のリッタースーパースポーツの最高出力が200ps以上に到達しているのに対して、スーパーベローチェ800は148psなのだが、ストリートでそのパワーに物足りなさを感じる場面はほとんどないし、エンジンとシャシーのオイシイ部分が使いやすいという見方をするなら、スーパーベローチェ800はリッタースーパースポーツを上回る資質を備えているのである。

ただし、スーパーベローチェ800で最も特筆するべき要素は、今後どれだけの年月が経過しても、存在意義が変わらないことかもしれない。逆に言うなら、レース参戦を前提としたスーパースポーツは、新型が登場すると、先代には古さを感じるのが通例なのだが、絶対的な速さではなく、現代の技術と往年の手法を巧みに融合したデザインと、常用域での操る楽しさを重視したスーパーベローチェ800なら、そういった心配は不要だろう。

もっとも当初の僕は、このモデルのターゲットはどんなライダーなのかと疑問を持っていた(他メーカーのネオクラシックモデルは、エントリーユーザーやカムバックライダーを意識することが多い)。でも今現在は、イタリア車初心者から数々のスポーツバイクを乗り継いで来たベテランまで、スーパーベローチェ800には多くのライダーを虜にする魅力がある、と感じているのだった。

MV AGUSTAでは2020年12月25日(金)まで、SUPERVELOCE 800の予約キャンペーンを開催中。この期間内に全国のMV AGUSTAディーラーでSUPERVELOCE 800を予約すると、予約特典としてストリートリーガル2 in 1サイレンサーがもらえる!

MV AGUSTAのSUPERVEROCE 800を動画でチェック!

INFORMATION

住所/静岡県袋井市西同笠387
電話/0538-23-0861
営業/10:00-17:00
定休/日、月、祝