
井上ボーリングによるICBM®アルミメッキシリンダー。スリーブにシリンダー、ピストンと構成部品をすべてアルミに統一することで、高い放熱性を実現。また、Z2/Z1の4気筒シリンダーでは純正比-2kgの軽量化も果たしている。
「Z2/Z1シリンダーヘッドリバイバル」とは、Z2/Z1用のシリンダーヘッドを当時の設計図をもとに、現代の技術者が金型を製作し、現代の製造技術によって再生産するというもの。川崎重工業による企画で、自社を代表するモデルであり、世界に誇るZ2/Z1を復活させられるものとして、高い注目を集めている。
しかも、当時の製造技術では不可能だった「理想のカタチ」……設計者が作りたかった本来のシリンダーヘッドが再現できているという。つまり大げさにいえば、このシリンダーヘッドを搭載してはじめて、Zは完全な姿になるということ……。うーん、それはやはり言い過ぎのような気もするが、ともあれ、第1弾の1000個は受注受付開始後、すぐに完売したという。
そして現在、購入できなかった多くのオーナーが、初夏に予定されている第2弾のリリースを待っている状況である。
しかし、それらZ2/Z1のオーナーは気づいているだろうか? エンジンを本当にいい状態で乗るには、シリンダーヘッドを交換しただけでは足りないということを……。
無垢のアルミスリーブ。ここから内壁にプラトーホーニングなど、耐久性を高める加工が施されていく。
Z2/Z1に採用されている鋳鉄スリーブは、当時とすれば最先端の技術を投入したものだが、そこはやはり50年前の技術。アルミ製シリンダーと鋳鉄製スリーブの熱膨張率の差によって、状態の悪いものではシリンダーとの密着が損なわれ、スリーブが抜けてしまうものもあるという。
そんな状態のエンジンであれば、いくらシリンダーヘッドを交換したとしても、Z本来の性能、そしてZ本来の魅力を引き出しているとは言い難い。
スリーブ内壁に施されたプラトーホーニングは十分なオイル溜まりを彫りつつも滑らかで、ピストン運動の邪魔をしない。井上ボーリングの高い技術力を見ることができるポイントだ。また、スリーブとシリンダーの美しい嵌合にも注目。精度の高さと均一化された熱膨張率が、エンジンに高い耐久性をもたらしているのだ。
そこでシリンダーヘッド交換と同時に、アルミメッキスリーブ「ICBM®」を導入することが、多くのZ乗りの間で話題になっているのだ。
手がけているのは創業67年を迎える(株)井上ボーリング。これまでZ2/Z1はもちろん、マッハIIIにNSR、SR400/500など、数多くの内燃機加工を手がけてきた。そんな同社が独自に開発したのが、多くの現行モデルに採用されているアルミメッキシリンダーをZ2/Z1のような旧車に装備する技術=ICBM®である。
純正の鋳鉄スリーブは嵌合が緩く、井上ボーリングに届いたときにはすでに抜けていることも少なくないという。
スリーブを鋳鉄からアルミに変更することで、シリンダー、スリーブ、ピストンのすべてがアルミで統一され、熱膨張率は均一となり、放熱効果を向上。鋳鉄スリーブのような隙間もなくなり、硬度も飛躍的にアップすることで、耐久性の高さはもはや比べるべくもないほどだ。
さらにZ2/Z1の4気筒であれば、アルミ化によってエンジン上部で約2kgの軽量化も果たせるという。
旧車に現代の内燃機技術を投入……ICBM®ならリバイバルヘッド同様、シリンダーでもそれができるのだ。これは名車に長く乗り続けるためのまたとない好機だといえるだろう。
アルミスリーブは当然、自社の工場で製作。アルミの塊をNC旋盤で削る。同社には他にもマシニングセンタや平面研磨機など、内燃機加工に必要な機械が揃っている。
今なお多くのライダーを魅了するZ2/Z1。これまでにさまざまなドレスアップパーツやチューニングパーツがリリースされてきた。それらを使って自分好みの1台に仕立てあげる「カスタム」もまた、Z2/Z1の魅力のひとつだと言えるだろう。
しかし、発売から50年近くが経った今、数年前に比べて純正らしさを残したZ2/Z1をよく見かけるようになったと感じる。すでにビンテージの域に達したといっていいZ2/Z1に対し、過激なドレスアップやパフォーマンスアップよりも、70年代当時のスタイリングに価値を見出すオーナーが増えたのだろう。
そう、Z2/Z1は紛れもなく、日本人が世界に誇る名車である。カスタムによって自分らしさを演出することを否定はしないが、やはり発売当時のオリジナルには、他のモデルにはない美しさが宿っている。
こちらはプラトーホーニングをおこなうための機械「ホーニングマシン」。何種類もある砥石のなかから、適切な粒度や幅を持つ砥石を選び、さらにホーニングする際のストローク量や拡張圧などを設定する。
だからこそZ2/Z1は、あの当時のスタイル・性能に戻すだけでも十分に価値がある。決して速くはないけれど、当時の性能を取り戻せば、現行モデルにはないエキゾーストノートの咆哮や荒々しい吹け上がりに、ライダーはきっと虜になるはずだ。
しかし、当時の内燃機技術では、残念ながら限界がある。やはり粗が目立ってしまう……。それを解決してくれるのが、「Z2/Z1シリンダーヘッドリバイバル」によるシリンダーヘッドであり、井上ボーリングによるICBM®だといえるのだ。
プラトーホーニングは機械精度ではなく、技師の技術や経験が重要。他にも内燃機加工にはクランクの芯出しなど、技師のスキルに頼るものが多い。井上ボーリングでは技術の継承のため、こうした技師の育成にも力をいれているのだ。
50年前のスタイリングと性能を維持しつつも、欠点は解消する。これらのパーツは装着しても、外見からはなかなか気づかれないけれど、名車としての価値は確実に向上する。そんな「価値観創造」の一翼を担うのが他でもない、内燃機加工を通じてバイクに真摯に向き合ってきた井上ボーリングなのである。