掲載日:2025年12月25日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男

YAMAHA TRICITY155
LMW(リーン・マルチ・ホイール)というヤマハ独自の機構を備えたスリーホイーラー、トリシティ125が登場したのは2014年のこと。当時は人気アイドルを起用したCM効果も相まって、バイク業界に留まらず幅広い層から注目を集めた。
その後は、トリシティ155やトリシティ300を追加することでコミューターセグメントを拡充するだけでなく、MT-09に用いられるクロスプレーン3気筒エンジンを搭載した大排気量モデル「NIKEN」を生み出すなど、LMWは想像を超える進化を遂げていく。

こうした話題性もさることながら、人気を支える根源にあるのは、LMWを用いたスリーホイーラーとしての徹底した作り込み。その結果得られる、一般的な2輪モーターサイクルとは一線を画す安心感、“別次元”と形容できるスポーティなハンドリングである。
そして2026モデルのトリシティ155では、その卓越したハンドリングはそのままに、スタイリッシュさと利便性がさらに磨き込まれた。今回は実車にじっくり触れ、その使い勝手をあらためて探ることにした。

あなたは「スリーホイーラー」と聞いて、どのようなスタイルを思い浮かべるだろうか。デリバリービジネスで長年採用されてきたホンダ・ジャイロは、日常的に目にする代表格だろうし、サイドカーやハーレーダビッドソンのトライクを想像する人も少なくない。あるいは遊び要素の強いカンナムや、クラシカルな雰囲気をまとうモーガンなどを思い浮かべるかもしれない。それほどスリーホイーラーというカテゴリーは、形状も目的も幅広い乗り物を内包している。
ただし、トリシティに関して言えば、それらとは明確に一線を画す存在だ。というのも、LMWは一般的な2輪モーターサイクルと同様に、車体をリーン(傾ける)させることで3輪すべてにキャンバースラスト(内側に向かう力)が発生し、自然な旋回姿勢を実現するからである。「ホンダのジャイロもそうなのでは?」という声も聞こえてきそうだが、あのモデルは後輪が左右独立の扁平タイヤであり、独特のスイング機構を備えた車体構成のため、トリシティの持つ運動特性とは明確に異なる。

また、トリシティ以前にもピアジオのMP3という先駆的なスリーホイーラーが登場していたが、現行モデルは日本市場に導入されておらず、欧州で販売されている車両も400cc以上が中心。そのため125/155ccのコミューター領域を担うトリシティとは立ち位置が大きく異なる。プジョーやキムコのスリーホイーラーも状況としては同様だ。
つまり現時点で、日常的な排気量帯で量産展開を続け、世界的な市場を牽引しているのは、トリシティとNIKENに代表されるヤマハLMW勢だと言っていい。小手先のアイデアではなく、操作感──つまりハンドリングそのものに徹底してこだわり抜いた開発姿勢こそが、ここまで多くの支持を得た理由だと、他社モデルにも触れてきた身として強く感じている。
では、気になる操縦安定性の感触、そして実用面についてお伝えしていこう。

トリシティ155/125の2026モデルが発売されたのは、2025年9月25日のこと。同時期に別の車両を引き取りにヤマハの広報車両が保管されている倉庫へ足を運んだ際、偶然新型を目にした私は、思わず「かっこよくなったじゃん」と声に出してしまったことを覚えている。
SUVエッセンスを織り込んだという新デザインは、フロントマスクからテールエンドの造形に至るまで一貫した完成度を持ち、ひと目で“イマドキ感”が伝わってくる。グレー、ホワイト、グリーンが用意されたカラーバリエーションの中でも、今回テスト車両として借り受けたグリーンは写真映えも良く、街中で乗っていても自然と視線を集める。さらに、フロントカウルサイドに配された音叉マークはワンポイントながら上質感を演出し、所有欲を静かに刺激してくるからニクい。
スマートフォン専用アプリと連動可能な4.2インチTFTディスプレイや、フロントポケット内にUSB Type-C充電ソケットが装備された点も、ユーザーにとって嬉しいアップデートだ。

シートにまたがって車体を起こしてみると、構成パーツの多いスリーホイーラーゆえ仕方のない部分ではあるが、同クラスのスクーターと比べると若干の重さを感じる。ただ、その印象はあくまで取り回し時の話。走り出してしまえば、フラットなステップボード形状や、やや大柄な体格でも窮屈になりにくい余裕あるライディングポジションによって、すぐに馴染むことができる。足つきや姿勢の自由度も高く、長時間走っても疲れにくい設計だ。

スロットルを開けると、155ccエンジンは一切のギクシャク感なくスッと車体を押し出す。静粛性が高く、駆動系のセットアップも良好。そのフィーリングは、NMAX155やX FORCEなど、同系エンジンを長年熟成させてきたヤマハだからこそ実現できたものだと思わせる仕上がりである。
最初は「加速感、ちょっとおとなしいかな?」とも感じたが、スピードメーターに目をやると想像以上に速度が乗っていることに気づく。つまり感覚的には穏やかでも、実際にはしっかり速い──それこそがトリシティ155の動力性能における特徴であり、街中で扱いやすく、なおかつ余裕を残した走りを楽しめるポイントだ。

ヤマハの倉庫から私のオフィスまでは、片道およそ70km。決して長距離ではないのだが、小型コミューターで走ろうとすると、途端に“少し長く感じる道のり”になることが多い。しかし、市街地に始まり、交通量の多い幹線道路、高速道路、さらには首都高まで、コミューターとして想定できるステージをひと通り走ることができることが利点でもある。
高速道路を小一時間走り続けるシーンも含まれていたため、当初は「ちょっとストレスを感じるかもしれない」と想像していたのだが、その予想はまったくの見当違いだった。どこを走っても終始快適で、肩の力が抜けるほど安楽なのだ。速度が乗るバイパスはもちろん、スピードメーター読みで110km/hを超えるクルマの流れと一緒となる高速道路であっても不満は皆無。むしろ、スリーホイーラーならではの安定感と独特のハンドリングが相まって、車線変更が楽しくなり、ついレーンチェンジの回数が増えてしまうほどだ。

ハンドリングについては、少し丁寧に触れておきたい。自動車が操舵によってタイヤの向きを変え曲がるのに対し、モーターサイクルは車体をリーンさせることで、タイヤのセンターとショルダー部の接地差が生まれ、キャンバースラストと呼ばれる内向きの力が発生して旋回する。さらに厳密にいえば、まずリアタイヤが寝て接地角度が変わり、それを追うようにフロントタイヤが内側へ向き始め、旋回モーションが成立する。スライド走行など特殊な状況は別だが、基本構造としてはこの理屈がベースにある。
トリシティ155の場合、フロント2輪を持つスリーホイーラーゆえ、一般的な2輪車よりも1輪分多くキャンバースラストが発生することになる。さらに重要なのは、独自のステアリング機構である「LMWアッカーマン・ジオメトリ」の存在だ。もしフロント2輪が単に平行にスイングするだけであれば、左右のタイヤが異なる弧を描き、スムーズな旋回は生まれない。そこでヤマハは、左右のスイング角を適正化し、旋回中も路面追従性と自然な挙動を保つためのリンク構造を与えている。しかもそのセッティングが絶妙で、思わず感嘆するほどの旋回性能を実現しているのである。

ワインディングロードにも持ち込んでみたが、そこらのスポーツモデル以上──いや、それらとは質の異なる優れたハンドリングに、気づけば夢中になっていた。特に下りのコーナーが秀逸で、フロント2輪がもたらす圧倒的な安心感と、オーバーステア気味にも感じられるほどグイグイと内側へ吸い込まれる旋回フィールは、まさにヤマハLMWならではのプレゼンスだ。
なお、新型ではトラクションコントロールも追加されたが、通常走行では作動する場面はほぼないと思えるほど3輪による接地感が強いため、電子制御で支えられている安心感だけを、さりげなく享受できる。

約1週間のテスト期間中、他のモデルも同時に試していたのだが、気づけば毎日乗っていたのはトリシティ155だった。それは単に便利だからではなく、“走りたくなる理由”がこのバイクにはしっかりと備わっているからだ。
見た目の印象として車幅が広く感じられるものの、実際には同クラスのスクーターと大差なく、日常使用で不便に思うことはほぼない。それどころか、スリーホイーラーという独自のスタイルを所有するだけで、ほんの少し優越感が芽生えるのも事実だ。最初のきっかけは「人とは違う一台が欲しい」でいい。乗り続けるうちに、トリシティ155が持つLMWの奥深い世界、そして唯一無二の価値をきっと理解できるはずだ。


排気量155ccの水冷4バルブシングル(BLUE CORE)エンジンを搭載。最高出力15PSを8000回転で、最大トルク14Nmを6500回転で発生する。Smart Motor GeneratorやStop & Startを備え、静粛性と燃費性能を両立している。

フロントはLMWパラレログラム(平行四辺形)機構と左右独立ステアリングを備え、路面追従性と安定感を両立。13インチホイールにデュアルディスク+ABSを組み合わせ、制動力とコントロール性にも優れる構成となっている。

新型はSUVテイストを取り入れた精悍なフロントマスクへ進化。ワイド感を強調するLEDヘッドライトと存在感あるデイランプ、形状を見直したスクリーンが、より“現代的なトリシティ”を印象づける。

センターが盛り上がるアーチ型が多い中、トリシティ155はフラットなステップボードを採用。足元の自由度が高く、乗り降りしやすいだけでなく、買い物袋などちょっとした荷物も置きやすい。日常での扱いやすさに直結するポイントだ。

トリシティ155のシートは780mmで足つき性は悪くない。前後方向の広さも確保されており、どんな身長のライダーでも窮屈さを感じにくい。クッションにやや厚みを持たせて体重を受け止める設計で、長時間ライディングでも疲れにくい作りになっている。

キーレスエントリーシステムを採用。イグニッションスイッチを「OPEN」に合わせ、スイッチ下のシートボタンを押すとシートロックが解除されるため、物理キーを取り出さずに荷物収納などがスムーズに行える。安全性と利便性を両立した装備だ。

ハンドル周りは握りやすい形状で、スイッチボックスも操作性を重視して配置されている。左側にはパーキングロックレバーを装備し、停車時の安心感を確保。ウインカーやホーン、ライトスイッチも操作しやすい位置だ。

新型トリシティ155は4.2インチTFTメーターを採用し、スマートフォン専用アプリと連動可能。ナビや着信、燃費データを走行中でも確認でき、表示内容のカスタマイズもできる利便性の高いディスプレイだ。

テールセクションは、シャープなラインとLEDテールランプにより、後方から見ても力強く洗練された印象を与えるデザイン。サイドカウルは単なる外装ではなく、グラブバーとしても機能しており、後席の乗員がしっかり手をかけられる設計になっている。

リアは130/70-13サイズのタイヤを装着し、安定したグリップを確保。駆動系はCVTでスムーズな加速を実現する。リアサスペンションはツインショックで、街乗りから高速道路まで幅広い路面に対応し、乗り心地と操縦安定性を両立している。

フロントポケットは収納力に優れ、USB Type-C充電ソケットも内蔵されているため、走行中にスマートフォンなどを充電できる。また、ポケットとは別に設けられたコンビニフックにバッグや買い物袋を掛けることができ、日常での利便性を高めている。

シート下ラゲッジスペースは、前後長こそ短めだが深さがありヘルメット1個が余裕で収まる容量を確保。給油口もシート下にある。つまり給油時はいったん車両から降りる必要があるが、それに対し特に不便を感じることはない。








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