アメリカンドラッガーズは、現在、国産アメリカンをベースとするカスタムを数多く手がけるブランドとして、パイオニア的存在である。その手法は、ワンオフ製作によるスペシャリズムを追及するのではなく、ショップ独特の個性を盛り込んだ商品群を揃えて、アメリカンバイクの世界を広げるというもの。つまり、様々なパーツ製作とアイデアで、独自のシルエットを量産できる体制を持っているのだ。そんな同店が開発したエアーサスペンションを装備したカスタムバイクに、今注目が集まっている。
流麗なフォルムを生みだすサスペンションカスタムに、新たな個性を追加するエアーサスペンションは、動的シルエットと静的シルエットを可変させることができるユニークで効果的なシステムである。四輪のアメリカンクルーザーやホットロッドカスタム。近年ではスクーターにも採用されているこの手法をアメリカンバイクにも応用させることが出来たのは、やはり長いカスタムショップとしての経験があるからだろう。今回は代表の渡辺健一氏と店長の西藤和弘氏に話を伺った。
アメリカンドラッガーズの母体である横浜ライニングは、操業が昭和34年。当初はクルマとバイクの両方を扱うモータースとして開業し、その後はバイク関係のパーツショップとして業績を伸ばしてきた。以前はオイルクーラーや集合マフラー等、パフォーマンス系のスペシャルパーツを販売するショップとして有名だった時代も長く、その間に蓄積されたパーツ製造ノウハウは、その後の様々なモデルをカスタムする上で、重要なポイントとなったという。
「見た目だけではなくて、質感や実行強度などのクオリティを重視していたので、パフォーマンスを追及していた時代のノウハウは、今でも我々の自信に繋がっていますね。オールステンレスのマフラーを量産したり、他ではあまりやらないようなパーツをたくさん提供してきました。ウチは拠点が横浜でしょ。当時、バイクパーツと言えば上野っていう時代にあって、みんなと同じことをしていては勝負にならなかったからね」
渡辺社長は、そんな風に当時を回想する。国産アメリカンバイクをカスタムするきっかけは、当時のお客さんから注文を受けたマフラー製作が始まりだった。
「スポーツバイクに飽きたお客さんが、ホンダのスティードを購入したんだが、マフラーを交換すると全然走らなくなったと言うんだ。それでウチで作ってくれないかということになってね。市販品の倍の料金を払うって言うんだけど、開発するならそんな金額でも合わないですよ。それなら一気に50セット作るかということになったら、すぐに全部売れちゃった。音も走行性能も抜群だったからね。それ以降ですよ。アメリカンカスタムに本腰を入れたのは」
1990年代の初頭から徐々にスポーツ系からアメリカンやビッグスクーターのカスタムにシフトしていったという。それは時代の流れでもあっただろう。そして次々に国産アメリカンモデル用のカスタムパーツを開発し、アメリカンドラッガーズの名前は、全国に轟くようになった。
「エアーサスペンションの開発は、今までのボルトオンパーツの量産とは少し違う観点で展開するアイテムです。装飾品ではありませんから、モデルごとに別々の仕事になりますからね。でも取り付けられる車種を増やしていこうと考えています。なぜなら、エアサスはスタイルと走行性能を完全に両立できるからです」
店長の西藤氏はそう力説する。アメリカンカスタムに求められるのは、低く長いシルエット。クルマであろうとバイクであろうと、それは時代の流れにも動じない基本的なアイデンティティだ。しかしバイクの場合は、そのままの姿勢ではコーナリング性能をスポイルしてしまう。街をゆっくり流すだけでも、やはりバンク角というのは必要なのだ。そこで、アメリカンドラッガーズでは、エアータンクとコンプレッサー、ソレノイドバルブを使用した本格的な可変エアサスユニットを開発。その動作時間は一瞬で、スイッチひとつの操作で任意の車高に設定できるという画期的なシステムを完成させた。
「一般的に、ローダウンされたカスタムはバンク角が浅くてコーナリングが不得意だし、乗り心地も悪い。それはサスペンションのストロークが短く設定されているので当然の結果です。そこを全部解決するのがAD-AIRなんです。スイッチ操作でどんな車高にもできますから、走りのシチュエーションで使い分ければよい。極端なローダウンだってできるし、山道も快適に走れます。乗り心地も抜群ですよ。これはもうドリームバイクって言ってもいい。今後はアメリカンバイクだけではなくて、大型クルーザーにもセットできるように考えています。バイクの楽しみ方にまた大きな夢が加わりますよ」
西藤氏が見せてくれたのは、国産ビッグクルージングモデルにAD-AIRを取り付け、ローダウンさせたシルエットの想定画像だった。現在、ユニットの開発は急ピッチで進んでいるという。ローダウンされたクルーザーはシルエットがスポーティになるだけでなく、足付き性が飛躍的に向上するという大きなメリットもある。そして走行中はスイッチ操作で元の姿勢
斬新なアイデアで、どの時代のカスタムシーンも先導してきたアメリカンドラッガーズ。独自のエアーサスペンションユニットは、さらに今後のカスタムシーンを牽引していくことになるだろう。
2011年、それまでの国産車では実現できなかった徹底的なカスタムマインドを身に付けたモデルが発表された。それがホンダVT1300CXである。ハイネッククルーザーと命名されたこのモデルのシルエットは、もうこれ以上カスタムの余地が残されていないとも思えるスタイリングで登場したが、アメリカンドラッガーズでは、オリジナルのデザインソースを生かしながら、エアサスを組み込むことで新たなるスタイリングと走行性能を実現させた。エアータンクやコンプレッサー等のユニットは、見事にそのシルエットの内部へ装着され、まったくそれと気付かないのも、このカスタムの大きな特徴である。
アメリカンドラッガーズが開発するパーツのコンセプトは、フルカスタムの車両でもライトカスタムの車両でも違和感なく装着できること。つまり、ノーマルのデザインを無視せず、そのデザインセンスをさらにスープアップさせるパーツとして開発されているのだ。だから部分的に使用しても違和感がなく、その後のカスタムワークにも夢を広げられるというメリットがある。