飛躍的な成長を遂げたアメリカ最古の二輪メーカーが手がける、世界で唯一のフラットトラックレーサーレプリカ

掲載日/2021年3月30日
取材協力/PLAIN
インディアンモーターサイクル
取材・文/中村 友彦、写真/伊勢悟
構成/バイクブロス・マガジンズ
1901年に創業してからの数十年間は、世界のモーターサイクルシーンをリードするメーカーだったものの、さまざまな事情で、1950年代には市場から姿を消すこととなったインディアン。もっとも、1990年代後半に復活を遂げ、2011年にポラリス傘下に入った同社は、近年になって飛躍的な成長を遂げている。そんなインディアンが、既存のクルーザーとは一線を画するスポーツモデルとして、2019年から発売を開始したのが、AMAフラットトラック選手権のノウハウを随所に投入したFTR1200だ。

随所にカーボンパーツを導入した最高峰モデル

約60年ぶりにAMAフラットトラック選手権に復帰する。2016年にインディアンがそう公表したとき、同社の成功を予測できた人はほとんどいなかっただろう。とはいえ、ファクトリーマシンのFTR750を擁して、2017年からフル参戦を開始した同社は、宿敵のハーレーや日本車勢を打ち負かし、圧倒的な強さでシリーズチャンピオンを獲得。以後もインディアンの勢いは続き、2018~2020年も王座を堅守している。FTR1200はそこで得たノウハウを投入して生まれたモデルだが、いわゆるレーサーレプリカではなく、誰もがスポーツライディングが楽しめるストリートバイクとして、ほとんどすべての部品を専用設計している。

スタンダード/ラリーとS/カーボンの主な相違点は、電子制御と足まわり。S/カーボンが3段階のライディングモードやタッチパネル式の4.3インチTFTメーターなどを採用するのに対して、スタンダード/ラリーの電子制御はABSとクルーズコントロールのみで、ラウンドタイプの計器はシンプルなアナログ式。また、S/カーボンの前後ショックはフルアジャスタブル式だが、スタンダード/ラリーの調整機構はリアのプリロードと伸び側ダンパーのみだ。

現在のインディアンモーターサイクルジャパンは、FTR1200の魅力を高める特別仕様車として、最上級モデルのカーボンに“スタイルパッケージ”を設定。このパッケージに無償で付属するのは、RSD:ローランドサンズデザインのブレーキフルードリザーバーカバーやハンドガード、フレームスライダー、エンジンカバー、切削加工が施されたリゾマのアルミ製バックミラーで、キャンペーン期間は2021年6月末まで。なお当記事に登場するカーボンは、スタイルパッケージのパーツをすべて装着している。

常用域でスポーツライディングが楽しめる

類似車両が見当たらないバイク。カーボンに限った話ではないものの、それがFTR1200に対する僕の印象だ。あえて言うなら、KTMの1290スーパーデュークRやドゥカティ・モンスターシリーズを思わせる雰囲気があるけれど、それらと比較すると、FTRは格段にフレンドリーで、常用域から自分の意思で操っている感、スポーツライディングが満喫しやすい。おそらくこういった特性には、フラットトラックレースで得たノウハウが活かされているのだろう。

とはいえ高速域で飛ばしても、FTRは抜群の剛性感とパワフルさを披露してくれる。もちろんサーキットで競争するとなったら、前述した欧州製Vツインに立ち向かうのは容易ではないものの、乗り手の腕や条件によっては互角の勝負をすることが不可能ではない。いずれにしても初めて手がけたスポーツバイクで、よくぞここまで……と言いたくなるほど、FTRの包容力と動力性能は高いのである。

走行写真を見ていたければわかるように、今回の取材は雨に見舞われることとなった。そんな中でありがたさを感じたのが、カーボンとSが採用する電子制御のサポートだ。と言っても、どんな状況でも前後輪の接地感が濃厚なFTRは、もともと悪条件に強いのだけれど、3段階のライディングモードの中から、エンジン特性が穏やかでトラクションコントロールの利きが強くなるレインを選ぶと、やっぱり雨天走行は安心。過去に体験した他のモード、スポーツとスタンダードの爽快感が堪能できなかったのは残念だが、雨天走行が余裕で楽しめるFTRのオールラウンド性能を再認識できたことは、個人的には大きな収穫だった。

すでに多くの媒体が報じている通り、ラリーを除く2022年型FTRは、動力性能の強化と足つき性の向上を図るべく、前後17インチホイールとオンロード指向の前後ショックを採用することが決定している。逆に言うならスタンダード/S/カーボンで、フラットトラックレーサーに通じる資質を色濃く感じる、F:19/R:18インチホイール+長めの前後サスの乗り味が楽しめるのは、現行モデルが最後になりそうなので、初代モデルならではの資質を堪能したい人は、なるべく早めの決断をしたほうがいいのかもしれない。

4.3インチのTFTメーターは、2輪ではまだ珍しいタッチパネル対応式。スマホとの接続を前提としたBluetoothを搭載している。

水冷60度Vツインはスカウト用がベースだが、実質的な共通部品はほとんどナシ。吸気はダウンドラフト式で、最高出力は120hp/8500rpm。

タンクカバーはフラットトラックレーサースタイル。カーボンはその名が示す通り、外装部品のすべてをABS樹脂→カーボンに変更。

スタイルパッケージにはRSDのカスタムパーツが付属。緻密な切削加工が施されたレバーガードには、RSDならではのこだわりを感じる。

レトロテイストにしてツーリング指向のラリー

近年のフラットトラックレーサーはキャストホイールが定番になっていて、インディアンファクトリーのFTR750もその点は同様である。ただし、レトロテイストを意識したFTR1200ラリーは、昔ながらのスポークホイールを採用。そしてそのホイールとのバランスを取るためか、F:19/R:18インチのタイヤは、他モデルが履くUSダンロップのDT3Rではなく、デュアルパーパスの世界で支持を得ている、ピレリ・スコーピオンラリーSTRを選択している。

前後タイヤ+ホイール以外のラリーの特徴は、ヘッドライト上に備わるウインドスクリーン、チタンスモークにペイントされたボディ、ガソリンタンクカバー左右に描かれた伝統のインディアンヘッドドレス、他機種よりグリップ位置が2インチ高くなるハンドルバー、ブラウンのシートレザーなど。言ってみればラリーは、レトロテイストを強調しただけではなく、快適性を意識したモデルなのだ。

そんなラリーの資質を高めるべく、現在のインディアンモーターサイクルジャパンは、タンクバッグ、サイドバッグマウント、メッセンジャーバッグ、リヤラゲッジラック、スマートフォンマウントをセットにした、“ツアーパッケージ”を準備。2021年6月末までにラリーを成約すると、これらはすべて無償提供となる。なお当記事で紹介するラリーは、その実例となるツアーパッケージ仕様だ。

オールラウンダーとしての資質に磨きをかける

カーボンのインプレで述べたように、FTR1200はスポーツバイクであると同時に、オールランダーでもある。そして今回の試乗で2台を同条件で体験した僕は、ラリーは後者の割合が強い?という印象を抱くこととなった。もっとも、ラリーでスポーツライディングが楽しめないわけではまったくない。何と言っても、エンジンとシャシーの基本設計は全車共通なのだから、ワインディングロードに足を運べば、極上の爽快感が満喫できる。ただし……。

ライディングポジションがアップライトなラリーは、カーボンを含めた他機種より乗車時の視界が広いし、ピレリタイヤの特徴なのだろうか、ハンドリングはフレンドリーにして安定指向という印象。悪路に強いとい言われるスポークホイールの効果は、今回は体感できなかったものの、乗り心地に関しては、高価な前後ショックを採用するSやカーボンに負けていない。いずれにしても、ラリーに乗っていると心に余裕が生まれ、ツーリングに出かけたい!という欲望が湧いて来るのだ。

もちろんツーリングなら、インディアンにはさらに適した車両がたくさんある。とはいえ、フラットトラックレーサーの資質を満喫しながら、長旅を楽しみたいライダーにとって、ラリーは最善の選択肢になるだろう。

テーパータイプのアルミ製ハンドルは他機種とは異なるアップタイプ。メーターはシンプルなアナログ式で、下部左にUSBポートが備わる。

ツアーパッケージに含まれるタンクバッグとメッセンジャーバッグはレトロな雰囲気。もちろん、スタンダードやカーボンにも装着可能だ。

リヤラゲッジラックはタンデムライダー用のアシストグリップとしても機能。ブラウンのシートレザーはラリーならではの特徴。

スポークホイールのサイズはキャストと同じF:3.00×19/R:4.25×18。ブレーキキャリパーは前後ブレンボで、ディスクはF:φ320/R:260mm。

プレインの三浦さんに聞く、インディアンの魅力

当記事ではFTR1200の魅力をさまざまな角度から紹介して来たものの、実際に販売を担当するディーラーは、この車両のどんな部分に惹かれているのだろうか。今回の取材に協力してくれたプレインの三浦辰則さんに、FTR1200を筆頭とするインディアンの魅力を聞いてみたい。

プレインの代表を務める三浦辰則さんは、1957年生まれの63歳。自身のショップを立ち上げたのは1980年代中盤で、当初は多種多様なメーカーを扱っていたものの、1990年代からはハーレー・ダビッドソン/ビューエルに注力。インディアンのディーラーになったのは2015年から。

「私が考えるインディアンの魅力は、アメリカ車ならではのこだわりを随所に感じる一方で、最新技術を惜しみなく投入していることです。そもそも私がインディアンに興味を持ったきっかけは、2013年頃にネットでサンダーストロークのエンジン単体を見たことで、最初に感心したのは昔ながらの造形美ですが、後に公開された内部のパーツを見て、現代ならではの技術を積極的に取り入れていることに驚いたんです。もっともそのときは、面白そうな素材が出て来たな……くらいの印象だったのですが、2014年にたまたまチーフテンに乗る機会があって、走り出して数分でノックアウトされました(笑)。これこそが、私が求めていたフィーリングじゃないかって」

三浦さんがそう感じた背景には、1990年代初頭からほぼ四半世紀に渡って付き合いを続けて来た、ハーレー・ダビッドソン/ビューエルとの対比があったようだ。

「もっとも私は、伝統を守り続けるハーレーを否定するつもりはまったくないんです。2013年で販売店の看板は下ろしましたが、ハーレーは今でも大好きですから。とはいえ、さまざまなハーレーをカスタムする中で、こうだったらいいな……と私が感じていたことを、インディアンは構造的にも乗り味でも具現化していたんです。そのあたりを理解した段階で、じっくり付き合ってみたくなって、2015年からインディアンのディーラーになりました」

当記事の主役であるFTR1200に対して、当初の三浦さんはあまり大きな期待はしていなかったと言う。

「フラットトラックレーサーのレプリカを作るという話を、2017年に初めて聞いたときは、おそらく、スカウトのエンジンとシャシーを使って、それっぽい雰囲気のモデルを作るのだろうと思っていました。だから2018年秋のモーターショーでFTR1200が公開されたときは、ビックリしましたね。ここまで本気のスポーツバイクだったとは。もっとも、ファクトリーレーサーのFTR750とは、エンジンもシャシーも構造が異なるのですが、スカウト用をベースにして大幅なチューンアップが行われたエンジンと専用設計のシャシーからは、アメリカならではのスポーツバイクを作ろうというインディアンの意気込みを感じました」

2019年から市販が始まったFTR1200のライディングフィールは、三浦さんの予想通りだったのだろうか。

「予想以上でしたね(笑)。もっとも先ほど話題にしたチーフテンも含めて、インディアンのバイクは大前提となるキャラクターがクルーザーでも、各車各様のスポーツライディングが楽しめるのですが、FTR1200はイッキに世界のスポーツバイクの基準に追いついた感があるし、それでいてフラットトラックレーサーに通じるシャシーのしなやかさやトラクションが感じられる。誤解を恐れずに言うなら、かつてスポーツスターやビューエルをチューニングした際に私が追求した理想を、FTR1200はノーマル状態でほとんど実現していたんです」

ここまでの文章を読んでいただければわかるように、三浦さんはインディアンに惚れ込んでいる。もちろんお客さんに対しても、三浦さんは各車の懇切丁寧に説明してくれるので、FTR1200を含めたインディアンに興味のある方は、試乗を兼ねてプレインに足を運んでみてはどうだろうか。

アメリカンな雰囲気の店内には、インディアンの新車と中古車がズラリと並ぶ。試乗を希望する際は事前予約が必要。

店内の一角には、キャップやブーツ、ヘルメット、ジャケットなど、多種多様なインディアン純正アパレルを展示。

お得なキャンペーン情報


2020年モデルのFTRカーボンまたは、FTRラリーを2021年6月末までに成約すると、ブレーキフルードリザーブカバーやRAM®C-Grip®スマートフォンマウントなどのオプションパーツが無償で全て付くお得なキャンペーンを開催中。どのアイテムもインディアンのロゴがデザインされており、ファンにはたまらないラインナップとなっている。※キャンペーンアイテムは変更になることもあります。詳細は正規ディーラーへお問い合わせください。

INFORMATION

住所/神奈川県横浜市都筑区長坂1-20 ナテュール平台
電話/045-944-0933
営業時間/10:00~19:00
定休日/水曜日、第二火曜日

アメリカ車ならではの魅力に惹かれ、2015年からインディアンの正規ディーラーとなったPLAIN。代表の三浦さんは、1980年代に自身のショップを立ち上げ、現在のインディアンディーラーになるまでにハーレー・ダビッドソン、ビューエルなど様々なメーカーを扱ってきただけに、、ノウハウの多さは折り紙付き。ショップを訪れれば三浦さんが心奪われたインディアンの魅力をきっと感じ取れるだろう。