大型ロードスポーツモデル、スポーツツアラーモデルが履くタイヤブランドとして人気の高いメッツラーから、スポーツツーリングのカテゴリに最適な新製品が登場する。
METZELER ROADTEC Z8 INTERACT がさらに進化した 『METZELER ROADTEC Z8M INTERACT』 だ。

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これなら雨でも怖くない?

そもそもグリップ性、耐久性、ウェットパフォーマンスや性能持続性など、高次元でバランスされていた Z8 だが、それからいったい何が進化したのかと言うと、路面に接地する部分であるコンパウンド、その成分配合と、タイヤ剛性を左右するベルト張力のコントロール、これらの調律によって、Z8M はこれまでの Z8 から、よりウェットパフォーマンスと耐久性を向上させたという。

 

まずコンパウンドだが、最新のインタラクトテクノロジーでは、ゴムに配合されるシリカ(微粒二酸化ケイ素)の含有率を部分的に変化させることに成功している。シリカを混ぜ合わせると、タイヤのゴムは低温時でも硬くなりにくく、タイヤ温度を奪う環境下でも荷重に応じて接地面を増し、とくにウェット路面でのグリップ性を向上させることができる。しかしそれは「柔らかい」ということなので、当然ながら摩耗も早くなる。そこでシリカの含有率(飽和度)をエッジの 100% に対し、センターは 70% にとどめることで、バンク時のグリップ性は高めつつ、センター部分の耐久性もアップさせている。さらに、センターのシリカ飽和度が 70% では、これまで Z8 に採用していた 80% 一定よりもグリップ性が「低い」ことになるため、センターのみベルト張力を弱くすることでコンパウンドがよく「動く」ようにし、深くバンクしていない走行時でも高いグリップ性を確保、耐久性も上げている。

 

という前口上もありつつ、このたびメッツラーブランドを保有するピレリの開発現場に取材訪問した。訪れたのはミラノ郊外、マルペンサ空港から西側へ数キロ移動した 『ヴィッツォーラ』 と呼ばれるテストコースだ。アスファルトやコンクリート、石畳など様々な路面テストが可能で、2輪、4輪、トラックなど、主にウェット走行テストが行われている。コース上の路面は両脇から噴出される大量の水で、まさに土砂降りの走行環境だ。

 

【左図】シリカ飽和度(含有率)を示したグラフ。これまでの80%一定に対してZ8Mではセンターとエッジで変化させている。シリカの粒子をナノレベルまで細かくすることで実現。

【右図】ベルトはセンターとエッジで巻き付けトルクに強弱をつけている。シリカ飽和度との相互作用(Interaction)により、さらなるハイパフォーマンスを実現したというわけだ。

【下】マルペンサ空港から程近いピレリのテストコース『ヴィッツオーラ』をコントロールタワーから望む。コースサイドから噴出される大量の水であっという間にドライからウェットとなり、川のように水が流れる。走行中は斜め下から顔面に水を受ける事になる。

シリカ飽和度(含有率)を示したグラフ。これまでの80%一定に対してZ8Mではセンターとエッジで変化させている。シリカの粒子をナノレベルまで細かくすることで実現。ベルトはセンターとエッジで巻き付けトルクに強弱をつけている。シリカ飽和度との相互作用(Interaction)により、さらなるハイパフォーマンスを実現したというわけだ。

現場ではピレリとメッツラーのモーターサイクルタイヤテスト部門総責任者が自らテスト走行の先導を務め、1コーナーでステップが接地するほどのバンクを目の前で披露してくれた。それだけ自分たちのタイヤに自信を持っているということは理解できたが、なかなか真似できるものではない。

 

当たり前の話だが、走行中、土砂降りの雨に見舞われたら誰もが「滑らないように…」と、いつも以上に注意深くなると思う。しかし Z8M を履いたテスト車両は、路面に大量の水が流れる環境でも「不安無く」走ることができた。コーナー手前のブレーキング、旋回中のグリップ感、荷重・抜重の切り替えし、コーナー立ち上がりなど、ブレーキングやスロットル操作、クラッチワークなど余計に気を遣う場面でも、普段ドライ路面を走っている感覚と同じでいいのだ。限界走行をテストする技量も度胸も無いが、一般的なバイク乗りとして、このウェット路面で気合のスポーツ走行にトライしたところ、車体にわずかな挙動も見せない快適性には正直驚いた。一部走行ライン上に深い水溜りがあり、どうしても避けられないところでリアタイヤが外側へ流れることもあったが、即座にグリップを取り戻し、力強く路面を掻きむしってくれる。また、時速 80km でのウェットブレーキングテスト(急制動)では、しっかりと ABS が働き、ハンドルも振れることなくジワリと停まる。グリップ性能もさることながら、操安性も高い。

 

 

2輪テスト部門総責任者であるSalvo Pennisi(サルヴォ・ペニーズィ)氏より、タイヤのテスト部門と開発体制について、詳しく解説していただいた。テスト走行の際は、プレゼンターから ライダーに変身。バイクをこよなく愛する人たちで構成されたテストライダーの1人。

 

旧い建物が並ぶ郊外の狭い道をグイグイ進む。とてもこんな場所にピレリ専用テストコースがあるとは思えない光景。

狭い急カーブをいくつも通り抜けて見えてきたのは、旧い遺跡のような、監獄の塀のような建造物。ミニバスでさえ狭いのに、クルマを積んだトレーラーが通れるのだろうか…。

これまた狭いゲートをくぐると一面ピレリカラーが広がる。テストトラックのタイヤバリアもピレリ色。

プレスカンファレンスが行われたのはコントロールタワーの最上階。そこからテストコースを一望できる

ピアジオApe(アペ)がホイールを運搬中。小さな3輪自動車に大柄な男性が2人も乗っている、ちょっと笑える光景。

その距離1kmはあろうかという直線コースでは、ウェット路面での制動テストを体験。同じアスファルトでもグリップの異なる路面やコンクリートなど、数本の直線がある。

バンディット1250 ABSで80km/hからのフルブレーキ。しっかりとABSを働かせるためのグリップ力と、挙動を見せない操安性が確認できた。

こんな路面ではまずやらない気合と度胸のスポーツ走行で、タイヤのパフォーマンスを探ってみる。腕に覚えの無いライダーがCB1000Rで走ってみても、滑る気配は無く安定。

コーナー立ち上がりからストレートへ向けて徐々にアクセル開度を大きくしてみる。グルーブは少ないが効率的に水を掻き分けてグリップしている印象。

コーナーの切り返しでは足長モデルのヴェルシスでも不安な挙動は示さない。むしろ避けることができない目の前の水鉄砲がツライ…。

ピレリの開発体制と、新たな市場展開

今回の取材では新製品テストのほか、ピレリ本社への訪問もパッケージングされていた。2輪各部門トップとの会談の場が設けられたのだが、まずその場所に驚いた。厳重なセキュリティをパスして本社敷地内に足を踏み入れると、緑色の芝生がきれいな中庭が広がり、ガラス張りの近代的なビルが建つ。しかし案内されたのは、大きな樹木に包まれるようにひっそりとたたずむ、石造りの旧い館だった。

 

同行したピレリジャパンのスタッフも中に入るのは初めてと言うこの建物は、かつてピレリ一族の別荘として建てられ、現在は重要な会議の場として、また特別な客人を迎えるためのゲストハウスとして使われている。その通称 “キャッスル” の中は、まるでイタリアンマフィアの映画を見ているような光景だ。会談はその建物の一室で行われた。

 

ピレリの歴史や実績、開発・管理体制、モノヅクリへのスタンス、今後のアジア・パシフィック市場における展開など、非常に興味深い内容が多く語られたが、そのなかでも最大のトピックスは、ドイツ、ブラジルに加え、中国でも2輪ラジアルタイヤの生産が開始された、という報告だった。2012年3月以降、工場は稼動状況にあり、メッツラーでは SPORTEC M3 、ピレリでは DIABRO がすでに生産ラインに載っている。

 

「中国製」と聞くとあまり良いイメージを持たない人も多いと思うが、そこは率直に聞いてみた。回答としては「どこで造られようが品質は均一になるようシステムは構築済です。仮にブラインド(目隠し)テストを行ったとしたら、生産国による品質の違いは無いことがご理解いただけるでしょう」とのこと。

 

メーカーとして、製品開発にかける膨大なコストと時間は計り知れないが、なかでもピレリは、実走テストを特に重視している。テストコースは今回訪れたヴィッツオーラ以外にも、イタリアをはじめスペイン、アメリカ、ブラジルなど世界中に展開しており、オンロードのみならず、オフロードのテスト環境も整っている。

 

テストメニューを挙げると、4,500 回の操安性テスト、700 回のウェット操安性テスト、50 回のウェットブレーキングテスト、平均時速 240km のハイスピードテストを 100 回、年間 1,000,000km のマイレージ耐久テストなどだ。気が遠くなる内容だが、これらのメニューは製品によってすべて共通ということではなく、それぞれの “テスト基準を決めるためのテスト” だと言う。また、テスト用バイクはおよそ 110 台(スクーターも)保有しており、そのほとんどが18ヶ月のサイクルで入れ替えられている。

 

さすが、2輪ラジアルタイヤでは世界トップシェアを誇るグローバルブランド。話を聞くほどにその開発体制と規模の大きさには驚かされる。そしてそれらの管理はすべてイタリア本社が統括している。ということは、先の中国工場の話も、開発からテスト、量産までの流れをイタリア本社がコントロールするわけだから「生産国による品質の違いは無い」という言葉はうなずける。むしろ同じアジア圏の日本にとっては、ドイツやブラジルよりもずっと近くで生産されるので、物流面でメリットと言えるだろう。コストではなく製造キャパシティの向上という目的があっての中国進出、いやアジア・パシフィックへの進出は、むしろ歓迎すべきかもしれない。

 

イタリア ミラノ市内のピレリ本社。広大な敷地内には “キャッスル”やミュージアム、かつての工場の巨大冷却塔(本社ビルよりも高い)をガラスで覆った近代建築物などがある。

ミラノ本社の敷地内にある、築およそ600年という創業者の別宅。メンテナンスを加えながら、現在は“特別な場”として使われている。取材時も階段のカーペット張替え作業が行われていた。

ゲストハウスで行われた2輪トップ陣との会談。左からR&D部門総責任者のPierangelo Misani (ピエランジェロ・ミザーニ)氏、2輪部門総責任者のUberto Thun (ウベルト・トゥーン)氏、中国工場管理部長のMasciullo Stefania (マシューロ・ステファニア)さん。

高い天井の縦横に組まれた梁、色あせてしまった壁画、クロスではなく左官による幾何学的な模様、大きな暖炉など、どこを見ても歴史を感じずにはいられないゲストハウス。キッチンやトイレなどは現代風にリフォームされている。

『ピレリブランドの、深くて濃い歴史』

“キャッスル” での会談を終え、次に案内されたのは、同じく本社敷地内にある 『 FONDAZIONE PIRELLI 』 (通称 “ピレリミュージアム”、資料博物館)だ。2010年に完成した新しい建物だが、ベースとなっているのは1930年代の建築物を移設したもの。中には歴史的な資料が厳重に保管されており、当時の広告物や製品のほか会社資料など、ピレリがタイヤメーカーとなる以前からの歩みがわかる。

 

ピレリは1872年創業、金属性のコード(電線など)やゴム製品の製造からはじまり、やがて乗用車、トラック、モーターサイクルのタイヤメーカーへと発展してきた。そして 160ヵ国以上の活動拠点と、およそ 34,000 人のスタッフ、世界 22 ヵ所に工場を持つグローバル企業へと成長した。クルマやトラック、モーターサイクルタイヤにももちろん注力しており、多くの車両メーカーに OEM 供給している。現在では2輪ラジアルタイヤで世界トップシェアを誇り(4輪も含むと世界第5位)、4輪では F1 のタイヤサプライヤーとして、2輪では 2004 年以降 WSBK への単一タイヤサプライヤーとして、ハイパフォーマンスタイヤを大量に、且つあらゆる車両メーカー、レーシングトラックに対応した “勝つ” ためのタイヤ造りを可能としている。その技術やノウハウはすべて「ストリートにフィードバックするため」と言うから、いかにレーシングフィールドが “実践の場” として重要なのかが伺える。

 

また、ピレリとメッツラー、この両ブランドの関係は社内でも「競合他社である」と言う。実践の場で蓄積されたデータやテクノロジーは共有しつつ、それらを異なるコンセプトで展開しているのだ。たとえるなら、ピレリは「セクシー」や「レーシング」のイメージ、メッツラーは「旅・冒険」や「安全性・耐久性」のイメージがあり、それぞれの「らしさ」を明確に製品へ落とし込んでいる。

 

1世紀以上も続く2つのタイヤブランドが融合し、その歴史と実績、技術は相当ぶ厚いものとなっている。ピレリ傘下となったメッツラーは、いまなお進化し続けている。今後もこの2ブランド体制で、あらゆるモーターサイクルファンの足元を支え続けていくことだろう。

 

エントランスにはピレリが様々なレースで勝ってきたことを象徴するように、年代ごとにタイヤが飾られている。古くは1907年、北京からパリを走るラリーで優勝したタイヤで、ホイールは木製。新しいものでは F1 のスリックタイヤだ。数百点以上ものグラフィックデザインやスケッチは気温・湿度が管理された室内で保管されている。もちろん素手で触れるのはN.G.だ。ゴム製の女性用シューズカバーや長靴、水枕なども、かつてピレリが作ってきた商品として展示。いつのころからかピレリの“セクシーカレンダー”は有名なものに。

今回ウェットテストのみ体験した、さらにパフォーマンスが向上したスポーツツーリングタイヤ、『METZELER ROADTEC Z8M INTERACT』 は、2013年2月発売予定。Z8 の後継タイヤとして一部のサイズを残し、モデルチェンジとなる(オープン価格)。最新の情報はメッツラーの公式ウェブサイトをチェック。

Front Rear
ROADTEC Z8M INTERACT
120/70 ZR 17 M/C (58W) TL (M) 180/55 ZR 17 M/C (73W) TL (M)
180/55 ZR 17 M/C (73W) TL (O)
190/50 ZR 17 M/C (73W) TL (M)
190/50 ZR 17 M/C (73W) TL (O)
190/55 ZR 17 M/C (75W) TL (M)
(モデルチェンジ)
Z8→Z8M
190/55 ZR 17 M/C (75W) TL (O) ※2013年夏頃発売予定
ROADTEC Z8 INTERACT
110/70 ZR 17 M/C 54W TL
120/60 ZR 17 M/C (55W) TL
110/80 ZR 18 M/C (58W) TL
120/70 ZR 18 M/C (59W) TL
150/70 ZR 17 M/C (69W) TL
160/60 ZR 17 M/C (69W) TL
170/60 ZR 17 M/C (72W) TL
160/60 ZR 18 M/C (70W) TL
(継続)

(2012年12月現在)