「CR-1を発売したのは2004年です。当時はまだ四輪用でガラスコーティングが普及しはじめた頃でしたし、バイクにコーティングをするという概念もありませんでした」
CR-1の生みの親である田代直征さん(山城・CR事業部スーパーバイザー)はそう話す。CR-1開発のきっかけは、田代さんが“無二のバイク好き”であることが第一の理由で、四輪用ケミカルに業務で関わったときに「愛車を大切にしたいと願う人はバイク愛好者にもいるはず」と考えたことが第二の理由だ。
「バイクの場合はエンジンやマフラーといった高熱部分がありますし、施工面の素材や加工状態がまちまちですから、四輪用ガラスコートをそのまま転用というわけにはいかなかったのです」
開発には1年余りを要した。目指したのは、「本物のガラスコートであること」「キズ付きを防ぐこと」「高熱に耐えること」「耐久性があること」。耐久性のテストではガソリンスタンドの洗車機に連続で20回以上も通したことがあるという。
「その甲斐あって、ナノインデンテーション試験で3.2GPa、鉛筆硬度試験は9H。耐熱温度はおよそ1,300℃という結果を出しています」
簡単に解説すると、ナノインデンテーション試験数値はスクリーンなどに使われるポリカーボネート樹脂が0.2GPa、シリコン系ハードコーティングが0.8GPaとされる。鉛筆硬度試験とは鉛筆で塗装面を引っ掻き、どのくらいの硬さの芯で傷がつくかを試すもので、ウレタン樹脂塗装がF以上、セラミックコートが3H以上とされる。エンジンで最も高熱になるプラグの温度が約800℃といわれるから、CR-1の被膜が破壊される高熱時にはエンジンも破壊しているといえば、CR-1がどれほど高性能かがわかるだろう。
株式会社 山城 CR事業部スーパーバイザー
田代 直征さん
ちなみにCR-1の被膜は0.1?m(マイクロメートル)だ。これは熱による膨張と収縮に対応でき、耐久性を維持できる薄さだという。参考までに食品用ラップフィルムが10?13?m、工業用クロームメッキの多くが10?30?m(用途により異なる)であることを考えると、CR-1の膜厚の薄さを想像しやすいかもしれない。
「施工したお客様からは『リセールバリューが上がる』とご好評をいただいています」
つまり、CR-1を施工した車両は、売却時の査定価格が高くなるというのだ。そうしてCR-1の確かな性能を肌身で知ったユーザーはリピーターとなり、新たにバイクを購入するとやはりCR-1を施工するからだ。
「本社には10年間雨風にさらしているCR-1施工済みの看板があるのですが、メンテナンスをしなくてもコーティングは剥がれず、今も艶と効果を持続しています。耐久性が10年以上と胸を張っていえるようになりました」
山城では、ユーザーがCR-1を施工できる商品も販売しているが、より確かな効果と持続性を発揮するためにはプロの手腕が必須だ。現在、CR-1認定ショップは車両販売店を中心に大手用品店など全国で150店舗が加盟しており、山城にて研修を受けたプロフェッショナルが在籍、施工している。
「以前は本社にある施設で研修していましたが、現在はCR-1専門の施設にて研修を行っています。新たに施工店に加わっていただくショップには必ず研修を受けていただいており、CR-1の特徴や特性、取り扱い方から施工の手順まで丁寧にトレーニングしています」
研修は座学からはじまる。パワーポイントを使ったスライドを用いて、シリカガラスであるCR-1の分子構造、液剤がガラス化するメカニズム、被膜特性の分析結果とその意味、耐久実験の結果によるCR-1の性能分析などを解説していく。分子構造解説では化学の講義並みの内容になるが、田代さんが噛み砕いて要点をわかりやすく解説していく。
「ただ施工するだけでは、お客様に心から満足していただくことはできないと考えています。お客様にはCR-1の特性を十分に納得していただいたうえで施工して、その良さを体感していただきたいのです。施工するCR-1の成分やその特性、他のコーティングとの違いや比較など、なぜCR-1が優れているのかを、まずは施工する本人が理解していないことには、お客様にCR-1の良さが伝わりません。やはりお客様の愛車がいつまでも輝いていることが、私たちにとって一番の喜びですからね」
CR-1のリピーターが増え、口コミでユーザーが増えているのは、まずその性能の確かさにある。しかしその裏にある、認定ショップの存在と施工者への研修の役割は大きい。それを支えているのは開発者である田代さんの情熱であり、バイクへの思いなのだ。
CR-1を施工するには、新車であることが理想的。なぜならCR-1に限らず、すべてのコーティングは下地作りが重要であるため。コーティングが本来の性能を発揮し、いつまでも効果を発揮するためには、塗布面が均一で清潔であることが前提条件なのだ。
とはいえ、使用過程にあるバイク、中古車として購入したバイクへの施工も、洗車と磨きを丁寧に行うことで、その効果を存分に発揮できる。汚れはもちろんのこと、錆び、くすみ、キズを極力除去した後、CR-1を塗布していく。
また、CR-1は車両以外にも施工可能で、料金も安く施工時間も短いことから、ヘルメットへのコーティングも人気だ。特にCR-1の強みは、マット面(つや消し)にも有効で、その質感を損ねないこと。
では実際の施工過程を見てみよう。
今回は燃料タンクへの施工を行った。施工対象は使用過程にあるSR500で、購入から10年以上経過しており、いくつかのキズはあるものの塗装面の状態は良好。ホコリや汚れがひどいものはまず水と洗剤で洗い流すが、このタンクはきれいだったため、水洗い不要。
結果がわかりやすいよう、左半分にのみCR-1を施工することとした。まずはホコリなどをエアツールなどで吹き飛ばした後、塗装面を均一にするためにポリッシャーを使い、コンパウンドで磨いていく。施工面によってはクリーナーを使い、汚れやくすみ、錆びを徹底的に落とす。
ポリッシャーのバフは荒目と細目を使い分け、段階的に磨きをかけて塗装面を均していく。写真左のウールは荒目、右のスポンジが細目。ここでの下地作りが、CR-1の仕上がりを大きく左右する。使用過程車へのコーティングにおいては、こうした下地作りが工程のおよそ8割といっていい。
磨きが終わったら親水促進剤を使い、細かなホコリを洗い流す。こうすることでCR-1が塗布面に馴染みやすい状態にする。水洗い後は、エアツールで水気を完全に吹き飛ばす。エンジンやマフラーへの施工の場合は、特に念入りに油脂やホコリを徹底的に落とす。
こうして下地ができあがったら、いよいよCR-1を塗布する。プロが使用するCR-1は空気に触れると硬化がはじまるため、必要な分だけを小分けにして使う。空冷エンジンなど複雑な立体面に塗布する場合はエアーガンを使うが、タンクなど平滑な面へは超極細繊維クロスを使う。
CR-1が均一になるよう丁寧に塗り広げていく。乾燥する前に余剰成分を拭き取り、またCR-1を塗り広げる。この工程を3回繰り返す。塗布面には目に見えない小さな穴が無数にあり、塗り重ねることで穴を埋め、3回以上で十分な膜厚が出来あがるそうだ。
塗布と拭き取りの工程を3回繰り返したら施工終了。CR-1は塗布後、90分で表面が触れられるほどまで硬化し、車両は走行可能となる。この状態でも効果はあるが、施工後およそ2週間で完全にガラス化し、性能を十分に発揮するようになる。写真のように指の背で撫でると、塗布面が滑らかなのがわかる。
施工から90分後、表面が乾燥して硬化した状態。タンク左側、写真手前がCR-1を施工した部分だ。施工部分には艶があり、ブラックメタリックの色合いが濃くなっている。磨きの効果もあるが、CR-1を施工することで表面がより均一化されている証拠である。
樹脂やゴム類など変形する素材以外なら、どんな材質に対してもCR-1は有効だ。ヘルメットへの施工ももちろん有効で、防汚効果が抜群に働く。CR-1の特徴は表面に凹凸のあるマット面(つや消し)にも有効なことで、乾燥後も素材の質感に変化をもたらさない。
ヘルメットの帽体だけではなくシールドにもCR-1は効果的。特に夏場の虫対策に最適で、小さなものなら付着を防止してくれる。付着してしまったものでも、ウエスで拭き取るか水で洗い流すだけでサッと落ちる。
CR-1の防汚効果がどのくらいかはこれを見れば一目瞭然。微細なカーボンを付着させたもので、もちろん右側が無加工、左側がCR-1施工済みだ。無加工部分は表面硬度が低いため、カーボン粒子が表面に刺さってしまうことでこのような汚れとなるのだ。
CR-1を施工すると、このような『施工証明書』が発行される。施工済み車両が事故に遭った際に損害として請求するべく保険会社に提出できるものだが、CR-1の高品質に自信があるからこそ発行できるものでもある。いわば、品質の証だ。