掲載日:2025年08月20日 プロが造るカスタム
取材協力/新井硬鉄製作所
取材・写真・文/ガスグラフィックス
一世風靡したベルのフロントフェイスは、“悪目”と言われる厳つい目つきで人気を集めたエアロだ。それに、同社のサイドアーマーを装着すれば見事なグリッタースタイルの基礎が完成するのが一般的だが、このマグザムにはその雰囲気が微塵のかけらも存在しない。それよりもむしろ、派手さとは対照的なシンプルな見た目が印象的。しかも、マフラーや足回り、シートの造り込みには、そこはかとなく職人気質が漂っている。純正デザインを活かした定番ロースタイルにも関わらず独特な雰囲気を纏うこのヤマハ・マグザムを製作したのは、大阪に工房を構える新井硬鉄製作所、通称コウテツだ。
同店の特徴は、代表の新井さんが4輪のトップカテゴリーで培った非常に高い技術力に集約されている。その内容は同店のインスタグラム(@cootetsu2)を参照してほしいが、「無い物は自ら作る」という精神と技術力に、当時のビッグスクーター乗りたちが惚れこんだことが、コウテツがビッグスクーター業界で名の知られる存在となったという歴史がある。
ビッグスクーターの世界では、フレーム加工という独特のカスタムが定番化していった。人気車種ではボルトオンキットなども存在したが、それでは周りと同じスタイルとなってしまう。それを嫌ったユーザー達は自分だけのスタイルの追求のために、ワンオフによる加工を望んだわけで、その要望に応えられる技術力を持ち、そして実際に信頼を得たお店がコウテツだったのだ。
このマグザムにもフレーム加工を始め様々なワンオフ加工が施されているが、切って、溶接して繋げるというだけではない、1台のバイクとしてしっかりと乗って楽しめるように、様々なアイデアを駆使していることが実感できる。フレーム、エアクリーナー、インナーフェンダー、マフラーといったパーツから、商品化したシート、サスペンションなど。どうしても見た目優先で作られがちなビッグスクーターの世界で、機能性と機能美を両立させ、かつ丁寧な仕上げでユーザーを魅了してくれたコウテツ。現在は、ハーレー・ダビッドソンを中心とした業務が中心となっているが、いつかまた、本気のユーザーの再来と共に、コウテツがこのビッグスクーターの世界へと戻ってくれることを期待したい。
フロントフェイスとサイドエアロは、当時の人気ブランド、ベルを使用。派手なスタイルを好むユーザーに支持されたデザインだったが、このマグザムは対照的な大人なシンプル系でまとめたのが特徴。
リア周りへのエアロ装着は無し。テールランプはデイトナ製ブリリアントテールを使用。ユーロ系が人気だった頃はクリアテールばかりだったが、この商品のテールランプ部は元々がレッドだったのがポイント。外装はハウスオブカラー製の塗料を使用している。
ホールド性を追求しバケット形状を採用したコウテツのオリジナルシート。機能性重視のため同店のカスタマイズは玄人好みのスタイルだった。
マスターシリンダーは削り出しで、ブレンボレーシングを使用。ハンドル、スイッチボックス、グリップなどは定番商品を使っても、パーツチョイスとホース類の絶妙な長さなど、その細かい仕上げにコウテツの技術とセンスが表れている。
かなり特徴的なエキパイ構造を持つオリジナルマフラー。管長が長いのは低速時のトルクを補うため。駆動系も変更しており、必要充分なパワーを稼いでくれる。ビジュアルだけではない、実際に走って楽しむことを前提に作られていることを証明しているパーツだ。
フロントホイールはメッキ加工済み。定番のブレンボ4ポットキャリパーを装着しているが、その機能をしっかりと使いきるためのセッティングと、美しい見た目の両立にこだわっていた。
シート下はご覧の通り。ロゴが入ったボックスはインナーフェンダー。エアクリーナーのパイプやホース類の取り回し、ロングホイールベース化のためのサブフレームなど、その造り込みの美しさと技術が、当時のスクーターユーザーを魅了した理由だ。
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