掲載日:2025年08月11日 フォトTOPICS
取材・写真・文/森下 光紹
Vol.18 石鍋 秀樹(いしなべ ひでき)
旅好きのライダーなら多くの人が最も行ってみたい土地。それが北海道ではないだろうか。筆者はもう、これまで何度足を運んだか数え切れないくらいだが、その広大な大地の魅力は失われるどころか増大し続けている不思議な場所でもある。
元々は先住民族だったアイヌの故郷で、明治時代以降に大和民族が大勢入植して開拓をし続けてきたという歴史がある。バイクで北海道を訪れると不思議な安堵感を覚えるものだが、その理由に「旅人を拒まない」ということがあるように感じることが多い。ゆえに旅人はその後リピーターになって、何度もこの土地を目指すことになっていくのだろう。今回から4回は、そんな北海道で生きる楽しいバイク乗りたちを取材してきた。このザンパラで順次紹介しようと思う。
石鍋さんは元々関東の出身で、16歳からのバイク乗りだ。原付きバイクのハスラー50からスタートしたバイク歴で、基本的にはオフロードバイクが好み。と同時に、片岡義男の小説を片っ端から読み込んでいた少年でもあったから、バイクツーリングやレースなど、バイクそのものの可能性に大きな魅力を感じていたに違いない。普通二輪免許を手に入れるとオフロードバイクはホンダのXLR250にステップアップ。そしてトラディショナルなモデルとしてヤマハSR400SPも手に入れた。
「エンデューロレースがとにかく盛んな時代だったこともあって、レースばかり出ていましたね。北海道に初めて来たのも日高のエンデューロに出るためでした」
1988年の2デイズの大会に意気込んで参加したが、結果はリタイヤ。それまで数多くのレースに出場して経験値も高いはずだったのに、思い切り出鼻をくじかれたと笑う。その後も日高のレースには出場を続けると同時に、北海道という特別な土地の魅力にも惹きつけられて、真冬にスパイクタイヤを履かせたオフロードバイクを持ち込んでツーリングしてみたりと、バイクでできそうなことをどんどん実践していった。
「95年の日高の大会でレースはやめました。でも北海道は自分にとって何だか特別な土地だったのでしょうね。その後、アメリカに2年住んだりして、自分の生き方を模索しなら、最後は北海道に移住を決めたのだから」
石鍋さんは大型バイクにも乗るようになり、オフ車はXR600を手に入れ、ツーリングにはハーレーのショベルモデルを乗るようになった。そのショベルは友人の手にわたり、現在のエボリューションモデルは長く所有している。アメリカにも持ち込んだハーレーは、現在でも最も長い相棒として彼のファーストバイクとなっているようだ。
「フェンダーとタンクに大きなキズがあるでしょ。転んだときに付いたダメージなんだけど、自分への戒めのためにそのまま直さないでおこうと思うんですよ。僕の人生って常にバイクと共にあるし、このハーレーは付き合いが長いですからね。綺麗に直したら、自分にとってはきっと良くないのかなぁって思うんですよね」
北海道に移住を決めて、最初に住んだのは稚内だった。石鍋さんは狩猟もやるので、条件の良い土地を模索しながら動いたという。その後は南富良野の牧場でも働く。アメリカ時代に乗馬をやっていたので、馬での観光ガイドも引き受けた。そして現在は、美瑛に彼の拠点はある。
農家でアルバイトをしながら、住む所を探していたら、今の場所を賃貸で確保できたのだ。仕事はそれまでの人生で様々なことを経験しているから、その土地で役にたつことがあれば何でもやる。最近は重機のオペレーターとしての仕事が多いとのことだった。
「ここに住める条件として、町内のイベントには必ず参加するということがありましてね。やっぱり先住の人々と仲良くやっていかないと、楽しくは暮らせませんよ。でも全然阻害されないのは、やっぱり北海道らしさだと思います。みんな希望を持ってこの土地に来て、根を張って生活しているからかな」
石鍋さんのバイク熱はここに来てもまったく冷めず、自宅のガレージには、様々なモデルが集まっている。最近はBMWのビッグオフローダーや、前オーナーの愛が切れてしまったオフロードバイク。シングルスポーツには、自家製のサイドカーを製作して独自の世界を楽しんでいる。少し古めのビジネスバイクにスパイクタイヤを装備して真冬の北海道も走り回るなど、楽しみ方は無限大だ。
せっかく美瑛での取材なので、どこか走りましょうと提案すると、「どれで走ろうかな」と少し迷ったがやはり付き合いの長いハーレーを引っ張り出してきた。前後16インチのボバースタイルだが、元々は前輪が細いスプリンガーソフテイルがベースであるという。その後はロングフォークのチョッパーになった時期もあり、現在はファットボーイの足回りに変更されたシンプルなシルエットとなっている。
自宅を出てほんの10分ほどで、美瑛の丘を駆け上がると、バックにはまだ山頂に雪を頂く十勝岳がそびえ立つ。取材時は6月の中旬だったが、この時期の北海道は天候も安定していて低い土地には花が咲き乱れ、高い山にはまだ雪が残るという最高の景色が堪能できる。
「やっぱり、そのままどこまでも走って行きたくなるから、北海道は最高ですよね」
バイクに乗る時には必ず身につけるお気に入りのマフラーを風になびかせながら、彼は満面笑顔になった。やはり根っからの旅人なのだろう。そんな気質がこの北海道にマッチするのだと思うのだった。
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