日本で一番熱い草レースの最高峰「テイスト・オブ・ツクバ(T.O.T)」にマッハで参戦 /#01

掲載日:2019年12月10日 フォトTOPICS    

写真/磯部孝夫 取材・文/後藤 武

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マッハでテイスト・オブ・ツクバに参戦するということ

テイスト・オブ・ツクバは、今、大変な人気になっているレースだ。最近レースは出る人も観る人も減っているというが、テイストだけは別。パドックは人でいっぱい。決勝前、急いでバイクを押していく時などは「すいませーん」「通してくださーい」なんて叫ばなきゃ進む事ができないくらい。今、筑波サーキットで一番、いや日本で一番盛り上がっているレースと言って良いだろう。

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最も出場台数が多いモンスタークラス。Z,CB,カタナなどが熾烈なバトルを繰り広げる。前後ホイールは18インチで往年のスーパーバイクレースをイメージ。このカテゴリーは今、世界的にも人気になりつつある。

人気の秘密は70年代、80年代の名車がチューニングされて、激しい戦いを繰り広げること。「旧車は遅い」なんてイメージを持っている人が見たらひっくり返りそうになる。

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D.O.B.A.R 1クラス。GT750とXS650の戦い。このテイストで最も人気のあるモンスタークラスと出場車両は似ているのだけれど、モンスターは排気量も大きく、70年代スーパーバイクのイメージを大事にしている。それに対してドーバー1は、750までのバイクが対象(排気量は810ccまでボアアップ可)。70年代の名車、Z2やCB750,GS750,Z650、750SSなどが戦う。

このレースで僕、ライターのゴトーが出場しているのがD.O.B.A.R1(ドーバー1)というクラス。

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マッハが発売されていた頃は、有鉛ハイオクが当たり前だった。しかしイマは無縁ハイオクのみ。そのまま走らせると全開にした時、ガリガリとノッキング音が出て、すぐにピストンが溶けてしまう。

マシンはカワサキの750SS。マッハシリーズの長兄だ。発売当時は世界最速、最軽量なんていわれていたバイクだけれど、実際にサーキットを走るとこれが大変だった。適当な状態で走らせるとすぐに壊れる。いや、ちゃんとしても壊れる。

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燃焼室形状は井上ボーリングのCADを使用してリデザイン。モダンな形状として燃焼室容積を調整した。異なる形状のヘッドを4種類製作している。

マッハのエンジンはツッコミどころ満載。そのため、エンジンをチューニングしたりせず信頼性と耐久性を高くする対策をしてきた。

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燃焼室の形状を変えるためには、最初にノーマルのヘッドを溶接で肉盛りする必要がある。これが予想以上に大変。純正ヘッドには不純物が混ざっている為、溶接が上手くできず、三つのヘッドを肉盛りするのに半日以上かかってしまった。

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井上ボーリングのNC旋盤を使用して加工を終えたヘッド。切削加工による美しい仕上がりによって鋳肌そのままのノーマルより表面積が減って燃焼効率向上。3気筒とも容積を揃えることができる。ブロンズ色に輝いているのはデトネーションリング。デトネーションなど異常爆発で燃焼室がダメージを受ける事への対策として銅系の材質でできたリングを圧入する。

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シリンダーは井上ボーリングのICBM。スリーブをアルミにしてメッキを施している。放熱性が高く、ピストンクリアランスも適正にできる。磨耗も少ないなど効果は高い。ピストンはベスナーの鍛造。この組み合わせで焼き付きのトラブルからは完全に解放された。シリンダーとヘッドの合わせ面にはダウエルピン加工を行い正確な位置決めができるようにしている。シリンダー上部にもデトネーションリングが入っている。

マッハでサーキットを走り出して困ったのがミッション。とても弱くてトラブルが出やすく、しかも壊してしまうと部品がない。最初は程度の良さそうなミッションを使ったけれど、すぐに壊れて貴重なミッションをダメにしてしまった。修理のたびにエンジンを降ろしてクランクケース分解。レース前に壊し、徹夜作業でヘロヘロになりながら予選を走った事もある(しかも3回も)。

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750SSは500をベースにして排気量を上げている為、ミッションの強度が不足している。そのままレースで使用するとすぐに壊れてしまうので、テクニカルワークスにドックのテーパーカットを依頼。丸ドックを持つマッハのミッションはテーパーカットがむずかしく、高い技術を必要とする。

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テーパーカットの終了したミッションとシフトフォーク、ドラムはエヌイーにてWPC処理を施して摺動抵抗を低減。潤滑性能向上や表面硬度をアップさせるなどの効果がある。中古ミッションをそのまま使ってサーキットを走ったものは全て壊れてしまったが、テーパーカットとWPCを施したものは5年間使い続けてもトラブルが出ていない。

当時としては先進的なCDIだって、火花こそ強いけれど点火タイミングが固定で進角も遅角もしない。デトネも出やすいし、高回転での伸びも期待できないから、プログラム可能な点火に交換。これの設定でも散々苦労したけれど、おかげでエンジンの完成度と信頼性が大きく向上した。

ノーマルよりパワフルで、耐久性、信頼性も高いというエンジンを作り上げることができたのだけれど、仕様の異なる2台のマッハを走らせながら改善。現在の仕様に至るまで、5年もかかってしまった。ここに来るまでの労力たるや涙(笑い?)なしでは語れないほど。

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点火タイミングが固定という原始的なCDIはスロベニアのジールトロニックに変更。点火タイミングをプログラムできる為に、デトネーションなどのトラブルが激減。トルクも向上し高回転の伸びも良くなった。写真は予選後、パドックで点火タイミングの設定を行なっているところ。

車体も徹底的に手を入れた。マッハは乗りにくいという印象を持たれているようだが、750SSに関していえば同じ時期のZ同様、とても素直で乗りやすい。ただ、スイングアームが短すぎるとかリアショックが直立しているとか気になる点がいくつかある。そういう部分を対策することで劇的に改善される。

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川口のクラブ1.2でパワーチェックしながら各パーツの効果やセッティングを確認。最終仕様ではまだ測定していないが後輪で90馬力オーバーというところ。クラブ1.2では足廻りの加工など様々なことでお世話になりっぱなし。

車体作りの参考にしているのはモンスタークラスを走るZ。2ストはエンジンのヘッド周りが軽くて相対的に重心も低くなりがちだから、車高を上げる方向でセットアップした結果、自由度が高く、とても素直なハンドリングにすることができた。「マッハは乗りにくい」なんて言っている人達に乗せてみたいと思うくらいである。

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現在の仕様。フロントフォークはアドバンテージKYB。リアのスイングアームはレトロのワンオフ。ナイトロンのリアショックをレイダウンして取り付けている。車高はノーマルに比べてかなり高くなっている。前後ホイールはMAGTAN。

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前回、5月のレースではチャンバーが接地してフロントタイヤが浮き上がってしまい転倒リタイヤという結果に。車体、エンジン共に仕上がってはいるが、まだ満足な形で完走できたことがない。周囲からは「一生優勝できないオーラが出てますよ」と言われ始めている。

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