掲載日:2021年09月06日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
YAMAHA MT-07
ヤマハMTシリーズのMTとは、マスターオブトルク=人とバイクの一体感を表すワード。そのMTシリーズの中でCP2(クロスプレーン2気筒)のエンジンを搭載しているのがMT-07だ。ヤマハの唱えるクロスプレーンコンセプトとは、ピストンやクランクシャフトの動きから生じる慣性力を除き、燃焼トルクだけを効率良く引き出す設計思想のこと。CP2エンジンを搭載するMT-07は、エンジン内の爆発するトルクを感じられる気持ちのいい走りと、コントロール性の高さのバランスがちょうどいいモデルとして人気を得続けてきた。
2021年のマイナーチェンジでどこが変わったのかを順番に見ていこう。まず手が加えられたのがエンジンだ。270°クランク688ccのエンジンは基本的に前モデルと同じだが、ECUの仕様変更やフューエルインジェクションセッティングの最適化、排気系の仕様変更(2into1エキパイ・マフラー一体型を採用)などで、平成32年排出ガス規制(欧州ユーロ5相当)に適合。あわせて低速域でのレスポンス特性の向上や、2速、3速での再加速時のダイレクト感向上などを成し遂げている。また、最新の音響解析技術により排気系を最適化し、特に低速、アクセル低開度時の音色を創り込んで、パルス感のあるサウンドを実現したという。
フロントマスクをはじめ、デザイン面にも大きな変化があった。ヘッドランプには、ハイ/ロービームを一体化したバイファンクションLEDヘッドランプを採用。その左右に独立して配置されたLEDポジションランプは「Y」字をモチーフとしたもので、MTシリーズ共通のアイコンとしながら、小型化と先進性をアピールしている。また、フューエルタンク周りのデザインも一新され、フレームカバーをアルミから樹脂製に変更、ニーグリップ部の形状も見直したほか、全体のスタイリングもエアフローの動きを取り込んだダイナミックなものとなっている。
ハンドルバーには新たにアルミ製のテーパーバーを採用。左右の幅を32mm広げ、高さも12mmアップされている。これは大柄なライダーにもフィットするための変更だが、高めのポジションとなったことでよりゆったりとした乗車姿勢が取れるようになった。このほかにもネガティブ表示のLCDマルチファンクションメーターの採用やフロントブレーキディスク径の拡大、MT-09と同型のリアブレーキディスクの採用、標準装着タイヤの変更など、全体にわたってリファインが図られている。
MT-07に実際にまたがってみると、車体は前モデルと同様にスリムかつコンパクトだ。184kgと軽めの車重であり、シート高も805mmと高くはないので、乗る前から身構えるようなこともない。実際に走り出しても、車体の軽さもあってか、それほどエンジン回転を上げなくてもググッと前に加速していく。シティランでは、特に2~4速ギアを使った中速域までの走りが小気味いい。何がそんなに気持ちがいいのかというと、エンジンの爆発の力がしっかりと路面を蹴るのがわかる……というと大げさだが、アクセルワークに応じてストレートにエンジンがパワーを増し、それがリアタイヤにしっかり伝わるのが、とても素直に伝わってくるのだ。その際、決して強烈ではないが確かな鼓動感とともにハーモニーを奏でるのが排気音だ。こちらも決して大きく迫力のある音ではなく、どちらかといえばマイルドなほうだと思うが、耳からとともに体で感じるとでも表現すればいいのか、とにかく走りの気分を高めてくれるチューニングとなっている。
続いて少し郊外の、ちょっとしたワインディングコースへとハンドルを向けた。街中での走りよりも少し速度のアベレージは上がったが、やはり軽い車体をヒラヒラとさせながら走るのが楽しく、気持ちがいい。前モデルに比べてニーグリップ部分のパーツ構成が改良され、よりマシンとライダーが一体化しやすいのに加え、幅が広げられ、高さもアップしたハンドルバーは倒し込みの際に制御がしやすくなった印象だ。それでいてライディングポジションは適度に状態がリラックスできる自然なもの。
これらのトータルコンディションから生み出されるライディングフィールは、しゃかりきになって飛ばさなくても、マシンとの一体感や鼓動感、そして爽快感を感じられるものとなっている。実際に乗ると車両重量から想像するイメージよりも、体感的にははるかに軽く感じるのが不思議だ。
ABSのほかは、トラクションコントロールやモード切り替えなどライディングをサポートする電子デバイスは搭載されておらず、走りは「素」の状態に近いもの。だが、きっとそれがいいのだ。派手なスペックではないが、レギュラーガソリンで走れて、コストパフォーマンスも高い。スピードを出さなくても乗って楽しく、バイクを操る気持ちよさを味わわせてくれる……まるで履きなれたジーンズのようにカジュアルでプリミティブなバイクに徹していることこそが、MT-07の個性であり、最大の魅力だと感じた。