【KTM 890 DUKE 試乗記】とびきりのスポーツ性能と扱いやすさが共存

掲載日:2021年08月27日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文・写真/小松 男

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KTM 890 DUKE

890DUKE Rの登場から約一年、ついにスタンダードグレードとなる890DUKEのデリバリーが始まった。エクストリームモーターサイクルブランドKTMが誇るホットなスポーツネイキッド、その真価を探求する。

元をたどればロードスポーツの
可能性をゆだねたモデルだった

今でこそKTMはMotoGPで活躍するなどしており、ロードスポーツモデルの存在も認知されているが、古くからのバイク乗りの中には”KTM=オフロードバイクブランド”というイメージを持っている方もいるかもしれない。それと言うのも、DUKEシリーズが登場するまでは、ラインナップのほぼすべてがオフロードモデルであったことにある(過去にはロードモデルも存在していた)。初代モデルにあたる620DUKEが登場したのは1995年のこと。前述したようにオフロードモデルを得意としていたKTMだったが、ラリーやエンデューロレースで勝つために開発したLC4というビッグシングルエンジンを搭載したストリートバイクとして620DUKEを生み出した。前後のサスペンションストロークは長く、どちらかというとスーパーモタード的なキャラクターでもあったが、とにかく軽量でパンチ力も備えたモデルであり、エキサイティングなバイクを求めていたライダーたちに支持された。

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1999年にはビッグマイナーチェンジ、2008年にはフルモデルチェンジと進化を続け、最終的に2016年の690DUKEまでシングルエンジンを搭載してきた。その後2018年に登場した後継モデル790DUKEは、新開発の並列2気筒エンジンを搭載、新たなステージへと駒を進めた。そして2021年、ユーロ5規制に適合させつつ、さらに排気量を引き上げ、890DUKEとしてストリートを走り出した。

KTM 890デューク 特徴

KTMが追い求めてきたのは
とても楽しくて、とても速いこと

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620DUKEからスタートしたKTMロードスポーツモデル攻勢は、若者や新興国をターゲットとした125、200、390などのスモールDUKE系や、大排気量Vツインエンジンを搭載した1290SUPER DUKEと、ファミリーを拡充してきた。このビジネス戦略はホンダでいうところのCB系、ヤマハでのMT系と同類であり、今回取り上げる890DUKEは、現在のミドルクラス的ポジションとなっているMT-09やCB1000Rあたりが競合モデルと考えられる。興味深いのは、これらはすべてエンジン形式が異なり選ぶ際のポイントとなる。

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CB1000Rはスーパーバイク直系のスムーズ&パワフルな4気筒を、ヤマハは独自のクロスプレーン・コンセプトを採用したトリプルエンジンを、そして890DUKEは軽量で力があり瞬発力を備えたツインエンジンを搭載している。2000年代初頭までのミドルクラスツインは、スロットルワークに対するピックアップが、やや鈍いものが多かったのだが、エンジンそのものの性能やコンピュータ制御能力の向上などにより、俊敏な反応を得られるようになった。以前シングルエンジンを搭載していたミドルデュークも790DUKEからツインエンジンを採用したのは、KTM自身が納得のいくエンジンを開発できたことに他ならない。いつの時代もミドルデュークが背負ってきたのは、エキサイティングでファスト。そのキャラクターは890DUKEでも変わることはない。

KTM 890デューク 試乗インプレッション

動き出したとたんに笑みがこぼれる
自由自在に操れる気持ちよさが魅力

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上位モデルにあたる890DUKE Rは、2020年に登場していた。それを追う形で今期スタンダードモデルが追加された。Rの方が軽量であるがシート高が14mm高い、スタンダード890DUKEは最高出力は6馬力抑えられた115馬力、最大トルクは7Nm低い92Nmとなっているが、それでも少し前までは考えられなかったような数値となっている。エンジンを停止した状態で、車体の押し引きを行ったのだが、とにかく軽い。乾燥重量は169kg、これで115馬力を発生させるのだから、刺激的であることは容易に想像することができる。

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エンジンを始動し走り出す。テスト車両は、トラックパック、クイックシフター+、MSRというオプションが装着されているモデルだったのだが、クイックシフターとMSR(コンピュータ制御により、急激なシフトダウンやスロットルオフでのリアロックを防ぐ機構)の組み合わせにより、シフトワークが非常にイージーに行え、その分ライディングに集中することができる。交通量の多いストリートでも軽量で扱いやすいため、すいすいと泳ぎ回るように走らせることができる。バーハンドルのネイキッドバイクらしい軽快な走りを楽しめる上に、どこからでもパワーを引き出せるエンジン特性のおかげで、とにかく楽しい。

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テスト中に降雨に見舞われた際、高速道路の料金所から、わざとスロットルを開け気味に発進すると、わずかに一瞬タイヤの空転を感じられたものの、しっかりと車体を前へと押し出した。トラクションコントロールなどが備わっていなければ、リアタイヤが滑り転倒してしまうような場面でも、安心してライディングを楽しめる。過信することは避けるべきだが、現代のスポーツバイクは高度な電子制御システムを駆使し、とても楽しく、とても速い。KTMの890DUKEは高い次元でそれを実現している。

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体温を超すような酷暑日や雨天、市街地、ワインディング、高速道路と様々なシチュエーションで、890DUKEを走らせてきた。以前だったら危ないような場面でも、車両が察知しサポートしてくれる。エキサイティングではあるものの扱いやすい。だから走りに没頭し楽しめる。ハンドル、シート、ステップの位置関係が絶妙であることも付け加えておく。スポーツライディング時はハンドルに覆いかぶさるような前傾姿勢を、クルージングのようにゆったりとしたライディングを楽しみたいときには、背を立てたリラックス姿勢をとることができる。さらにパッセンジャーシートも後端が持ち上げられていたり大きなグラブバーが備わっているので快適だろう。重箱の隅をつつくようなことを書くならば、アイドリング時のエンジン音が大きく、住宅地などでは気を使ったことくらいだろうか。

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KTMはフサベルやハスクバーナといった欧州ドロンコ組とグループ企業となったが、一方でDUKEのようなネイキッドモデルをしっかりと熟成させてきたり、MotoGPでセンターポディウムに立つなど、ロードモデルの世界でもブランドを根付かせることができた。そしてその根底にあるのは、”レディ・トゥ・レース”という精神なのである。エクストリームモーターサイクルブランド、KTM。その車両に一度触れれれば虜になってしまう。オールマイティに使いまわせる890DUKEはその中でも手を出しやすく、使い勝手の良いモデルだと思う。

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KTM 890デューク 詳細写真

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ボア×ストロークを90.7×68.8mmとする889cc並列2気筒エンジン。ショートストロークらしい軽い吹け上がりを楽しめる。セミドライサンプシステムや、各部の素材の選定などにより、軽量でコンパクトなエンジンに仕上がっている。

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φ43mmのWP製APEX倒立フロントフォークを採用。キャスター角は66度とされ、クイックなハンドリングを得られるうえ、ステアリングダンパーも装備しているため安定性も確保されている。フロントのサスペンションストロークは140mm。

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トラスデザインで軽さと高剛性を両立するダイキャストスイングアーム。リアサスペンションはリンクを持さない直付け式。スリッパ―クラッチとMSR(オプション)により、急な加減速やシフトダウンでも、リアタイヤに安定した動きを得られる。

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デュークファミリーは、THE BEASTというデザインコンセプトの下開発されており、そのヘッドライト形状は特に印象的なものとなっている。面発光LEDを使ったデイライトと、高輝度発光LEDライトが組み合わせられている。

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テーパータイプのハンドルバーは、細かい位置調整が可能となっている。左側のスイッチボックスに、ライディングモードなどを設定できるボタンを配置。オプションのトラックパック装備モデルだったので、スロットルレスポンスやローンチコントロールなど詳細も設定できた。

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オプションのクイックシフター+はタッチが良く、できれば装備したい機能。シフト操作レバーがもう少し下がっている方が好みだったが、ロッド長のセッティングで調整できる範囲だ。

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820mmのシート高は、低いとは言えない数値だが、そもそも車重が軽いことや、車体前方に向かって大胆にシェイプされている形状であり、足つき性は悪くない。パッセンジャーシートも形状が良く大型グラブバーも備わっているのでタンデムライドも楽しめる。

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テールランプ、ウインカー、共にLEDを採用している。クリアレンズとコンパクトなサイズで、テールセクションを引き締まったデザインとしており、スポーティな印象を受ける。

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マスの集中を狙うことも踏まえ、アップポジションにセットされたマフラーからは、軽快なエキゾーストサウンドが奏でられる。熱を防ぐ、ヒートプレートも同色とされている。

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TFT液晶ディスプレイはマルチファンクションタイプで、回転数やスピードといった一般的な計器の表示から、トラクションコントロールの介入度をはじめ車両のあらゆる情報を呼び出すことができる。

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燃料タンクの容量は約14L。パネルを用いて包み込むようにカバードされているデザインだ。ライディング中に、ズボンのベルトがあたる中央のパネルパーツがシボ加工されているのは面白い。

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パッセンジャーシート下に、多少のユーティリティスペースが設けられている。車載工具が充実しているのは日常整備や出先でのトラブル対処にも役立つので嬉しい。

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