掲載日:2021年04月27日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
SUZUKI SV650 ABS
SV650の歴史を遡ると、初代にあたるモデルが登場するのは1999年ということが分かる。それに先だってSV400が国内マーケットに投入されていたが、欧州のレギュレーションに照準をあてたグローバルモデルとしてSV650は生み出された。その後2003年に一度フルモデルチェンジが行われるものの、いったんその名はラインナップから外される(この後近しいセグメントモデルとしてグラディウスが登場するが名称の違いもあるのでここでは割愛する)。それから年月が流れ、2016年にSV650は復活を遂げることとなる。旧モデルも現行モデルもそうなのだが、SV650は一定のファンを持ち愛されてきた。地味な印象を持たれがちではあるが、実は噛むほどに味わい深く、バイクライフを豊かなものにしてくれる名車なのである。
現行モデルのSV650の登場が2016年なので、もう5年が経つということになる。今まで新しいモデルだと感じ触れてきたが、熟成が進んでいるはずだ。初めに記述しておくと、これまでにも何度もSV650に乗る機会に恵まれており、個人的には好印象を抱いている。樹脂素材の成型技術の向上や、素材そのものの耐久力が高くなったことから、カウルレスバイクであっても、デザイン性に富んだフロントマスクを持ったモデルが多数輩出される中で、SV650はオーソドックスな丸型ヘッドライトを採用しており、シャシーを確認してもトラス構造のフレームこそ個性を持っているが、正立フロントフォークに、ボックスタイプのスイングアームという纏め方であり、華々しいモデルというには少々不足を感じずにはいられないことは周知の事実である。
よってバイクを選ぶ際の選択肢に挙げられる機会もおのずと少ないのかもしれないというのは個人的な意見ではあるが、例えば知人から購入するバイクに悩んでいるといった相談を受けたら、1番か2番目にSV650を勧める。それは何よりも乗って楽しい一台に仕上がっているからだ。
テスト車両の引き上げに行き、久しぶりに目の前にしたSV650からは、光沢の強いホワイトカラーや深みのあるフレームやホイールのレッドカラーのせいか、いつもよりも高級感が感じられた。セルスターターを軽くワンプッシュしエンジンを始動。このスズキイージースタートシステムは、他のメーカーにも取り入れて欲しいと思える装備だ。クラッチの繋がりが割と早いセッティングだったが、クラッチレバーは軽く、半クラの位置を探らなくてもスルスルと車体を前に押し出すトルクを有しているので、ビギナーライダーにも優しい。
車体そのものがコンパクトなこと、さらにハンドルの切れ角が大きいことから、市街地、特に渋滞路や狭い路地での機動力は高い。さらにそれに過不足無いトルクがベストマッチしている。これ以上トルクが太ければ気を使って操作をしなければならないし、逆にトルクが細ければストレスを感じることだろう。このセッティングはワインディングに持ち込んでスポーツライディングをする際にも非常に有効だ。車重が軽量なためコーナー直前までブレーキングを遅らせて、フロントブレーキを使いフォークを縮める。リッターバイクでは味わえない程の小回りをし、スロットルをちょっと開けると低回転域からグッとリアタイヤにトラクションを与えつつ、コーナーをパスすることができる。やっていることは、どんなバイクでも一緒であるにも関わらず、その一連の動作を、まさしくイメージ通りにこなすことができる。これがSV650の気持ちよさだ。熟成されたエンジンは、高回転域の伸びも良好。レブリミットが作動する1万1000回転前後まで、きっちりと使い切って痛快な走りを楽しむことができる。
2019年にはフロントブレーキキャリパーに異形対向4ポッドが採用されて制動力を高め、それと同時にフルバンク時に接地しないようマフラー形状も変更されている。ただしそれらはサーキットレベルでのスポーツライディングをした際に恩恵を受けるものであり、ストリートレベルではそれ以前の装備でも十分にバイクを操るということの気持ちよさ、素晴らしさを楽しむことができる。
ソロライドはもちろん、タンデムで遠方までツーリングをすることも容易、荷物を満載にしたキャンプツーリングというのもSV650は許容してくれる。軽量コンパクトな車体は毎日乗ることを億劫にさせない。いつも、いつまでも乗っていたい、一緒にいたいと思わせてくれるキャラクターなのだ。
ほめてばかりなのも何なので、重箱の隅をつつくようなことを書かせてもらうならば、もう少し排気音の設定に注力してくれると、なお素晴らしい一台になると思う。セパレートハンドルやタックロールシート、ビキニカウルなどを装備し、ネオカフェレーサーライクなスタイリングに仕立てられた兄弟モデルSV650Xも存在するが、長くバイクライフを楽しめるのは、噛めば噛むほどに味が染み出てくるような性格を持つスタンダードモデルの方だと私は考えている。