掲載日:2021年03月01日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
YAMAHA SR400
ヤマハ・SR400。2021年現在、このバイクの説明をするにあたり、何から始めればよいのか悩んでしまうが、とにかく一つだけ言えることがある。それは1978年に登場してから40年超の時間が経ち、今正式に、生産終了がアナウンスされたことだ。これは日本のバイク業界を代表するモデルの歴史に終止符が打たれることを意味している。この類の話となると、スーパーカブや海外勢だとロイヤルエンフィールドなどの存在も議題に上がることが多いが、それらの中でもSR400というバイクは、ニッポンのバイクライフに最も近い存在にあると考えている。新車が作られなくなるというこのタイミングで、再びSR400の魅力を探ってみたいと思う。
私自身はSR400を所有したことが無いのだが、16歳で免許を取得してから43歳の現在まで、周囲に必ず一人以上はSR400に乗っている人が存在してきた。世の中には無数とも言えるほどの種類のバイクが存在しているにも関わらず、誰かしらSR400に乗っているのはある意味、とてもすごい確率である。そもそもSR400が登場した1978年は、すでに国産4気筒が世界中で人気を博している頃であり、日本においては空前のバイクブームを迎えていた時代であり、XT500をベースとしたロードスポーツモデルとしてSR400/500が開発されたのだが、先だって述べたように、多気筒化がブームを牽引していたこともあり、取り立てて秀でたスペックを持たないシングルエンジンのSR400は、あまり注目されなかった。というのが登場時の話。
しかし時が流れてゆくと、むしろSR400特有のクラシカルな佇まいや、シンプルな構成ならではのカスタムベースとしての素性の良さなどで、ジワジワと人気が出始め、いつしかロングセラーモデルとなってゆく。昭和、平成、令和と元号をまたぎ、基本的な設計を変更させずに作られ続けてきたものというのは、身の回りを見渡しても数少ない。SR400が人の心を惹きつけてきたのはどのような理由があるのだろうか。
久しぶりにSR400を目の前にして、まず感じたのは、変わらないことの有難さだ。職業柄、国内外の最新モデルを頻繁に乗るのだが、電子制御の装備が基本となった今時のバイクは、モード切替やトラクションコントロールの介入具合、中にはサスセッティングまでも左手のスイッチボックスにて操作するものがある。400ccクラスとなるとそういったものも少ないが、それにしてもシンプルイズベストを具現化したようなスタイリングや装備に見惚れてしまう。
SRはキックスタートのみとなっている。これまで何度友人の乗ってきたSRの始動をしたことかわからないが、どんなに慣れた人間がキックしても、かからない時にはまったくかからなくなってしまうという印象がある。ただそれもインジェクション化に伴い払拭されていた。はじめ数度はキックを下ろしてもエンジンに火が入らなかったが、それは私の方の問題で、キックペダルをしっかりと底まで踏み抜けば、いとも簡単にエンジンは始動する(その後借用中はすべて一発でかかった)。ビッグシングルならではの踏み込みの重みはあるものの、エンジンをかけるだけでもSRの世界観を垣間見ることができる。
アイドリング状態での空冷2バルブ単気筒エンジンならではの鼓動感を受けながら、軽くクラッチを繋ぐと力強く車体を前へと押し出してゆく。低回転域でのトルクが豊かであり、3000回転前後を使えば機敏にものんびりとでも走れてしまう。それでいながら7000回転以上まで引っ張れば十分に速い。
ハンドリングは軽く、ブレーキの効きやサスペンションの動き、スロットルレスポンスなど、総じて緩やかな味付けだが、車体が軽いのでちょっと走らせるだけでもとにかく楽しい。どちらかというとスポーツバイク的というよりも遊園地のアトラクションに乗っている爽快感と心地よさをもたらしてくれる感じだ。限界点云々の話ではなく、単純にバイクに乗ることの喜びをライダーの心に訴えかけてくるのである。
もはや一段落した節があるが、ネオクラシックモデルがもてはやされていた昨今にあって、SR400はリアルクラシックであり、現代に残された本物だった。しかもそれは恰好だけのものではなく、SRならではの懐の深さは他には真似のできないものでもある。通勤通学、メンテナンス、カスタム、ツーリング、その先にはキャンプやレース参戦などもある。大切な相棒は、バイクのある人生というものを教えてくれる先生にもなってくれる。そうそう、ファッション的な面から考えてもSRは秀でた存在だ。ラフなスタイルからライダースジャケットやスーツなど、何を着ていても似合ってしまうのである。
40年という時間は結構長い。その間にSR400は、キャストホイールを採用したりドラムブレーキになったりと時代に合わせた装備が持ち込まれたが、基本設計は変わらないままだった。むしろ外観上そのままでありながら、環境適応させるためにインジェクション化したことなどの方が、よほど大変だったことだろう。そうまでしてヤマハの顔の一つとして大切にされてきたSR400は、先日ファイナルエディションが発表されたが、即予約台数に達したそうだ。激動の時代にあって、いつ触れても変わらないものであり続けてきたSR400は、ライダーが追い求める一つの究極系なのかもしれない。