掲載日:2020年08月07日 試乗インプレ・レビュー
衣装協力/KUSHITANI 取材・文/佐川 健太郎 写真・動画/星野 耕作
KAWASAKI Ninja ZX-25R
「ウチがやらなきゃ誰がやる」、「新しいところに点を打つ」。開発者の口をついて出る言葉にもカワサキらしい漢な響きがある。
新開発の水冷直4エンジンは最高出力45ps/15,500rpm(ラム圧過給時46ps)と、もちろんクラス最強スペック。最大トルク2.1kgf-m/13,000rpmは同門のニンジャ250の2.3kgf-m/10,000rpmに比べると一見劣るようにも見えるが実は駆動系の設定の違い(つまりはギヤ比)によって、実質的な駆動力では同等以上となっている。そこが高回転パワーに余裕のある直4エンジンの強みだ。
マシンの骨格とも言えるフレームは新設計のスチール製トレリス構造を採用し、限界時の挙動をしなやかにライダーに伝えるメリットを狙っている。よく見ると、ニンジャ250とはまったく異なる構造で、材質はスチールではあるがその形状はむしろ6Rや10Rなどに採用されるアルミツインスパーフレームにそっくり。パワーに見合う安定性を得るために伸ばされたスイングアームもやはりスチール製だが形状はスーパースポーツルックだ。
これを支える足まわりにもSFF-BP倒立フォークとカワサキ独自のホリゾンタルバックリンク式リアショックに、ラジアルモノブロックキャリパーを組み合わせるなど盤石な作り。なお、開発者によるとブレーキは当初ダブルディスクを想定したが、専用開発されたシングルディスクが“極めて優秀”だったため、あえてシングルのままとしたそうだ。結果的にフロントの慣性力が減ってハンドリングにも軽快さが増すなどメリットを引き出している。
さらに電子制御も最新タイプが投入された。250ccクラスでは初となる3段階調整のトラクションコントロール(KTRC)に2段階のパワーモード、アップ&ダウン対応のクイックシフターなど、随所にZX-10Rのテクノロジーや知見が生かされているのが特徴だ。まさに現代の性能を持って生まれ変わった21世紀のスーパークォーターである。
車体サイズはほぼニンジャ250と同格だが、エンジンまわりに重厚感があるのは直4ならでは。リアタイヤサイズも150と堂々たるボリューム感で、250ccクラスとしては大柄で存在感がある。ハンドル位置は低すぎず、跨ってみると前傾度もそれほどきつくないし、シート高に至ってはニンジャ250より低いほど。この馴染みやすさはニーゴーならではだ。
エンジンはとにかくよく回る。低中速でのレスポンスは穏やかだが、10,000rpmを過ぎた辺りからタコメーターの針は急上昇。回すほどにパワーが盛り上がってくる典型的な高回転高出力型の4気筒らしいエンジンだ。さらに本領を発揮するのは12,000rpm以上で、そこからレッドゾーンに入る17,000rpmまでが美味しいところ。その回転域を外さず、いかにパワーバンドをキープできるかが、25Rをスポーティに楽しむキモだ。
透明感のある吸気音とカン高いエキゾーストノートが入り混じった絶叫サウンドに包まれる心地よさ。これは乗った者にしか分からない快感だろう。高速コーナーをスロットル全開のままフルバンクで駆け抜ける。そんな宣伝文句のようなことが本当にできてしまうところが、25Rの素晴らしさだ。同じことをリッタークラスでやろうとしても難しい。ほとんどのコーナーではスロットルを半分も開けらず、それがストレスになる。ところが25Rの場合、ここオートポリスではストレートはもちろんのこと、コース全体の7~8割は掛け値なしの全開でいけるイメージだ。乗せられているのではなく、操っている実感。それこそが本当のスポーツだと言える。
そして、サーキット全力走行でもビクともしない安定感で支えているのが高剛性な車体だ。スチール製ではあるがデザインはスーパースポーツの定番であるツインスパー形状そのもので、開発者曰く重心位置や車体各部のディメンション、電子制御を含めて10Rの設計思想があまねく投入されているそうだ。言われてみれば、滑らかで上昇感のあるエンジンやハンドルの垂れ角まで似ている。ちょうど5分の4スケールの“リトル10R”と言った感じだろうか。前後サスはグレード感があって高荷重でも腰砕けしないサーキット向きのセッティング。フロントブレーキもシングルディスクだが十分すぎるほどの制動力で、ABSも握り込んだ奥で効くレース仕様に近いタッチだった。
電制も良く出来ている。クイックシフターはアクセル全開のまま爪先でかき上げるだけで、場所を選ばずクラッチを切らずにシフトダウンもできる優れモノ。動作も極めてスムーズで、サーキットではタイムを縮めるための武器になることはもちろん、コーナリング中でも躊躇なく瞬間的にギヤチェンジできるので安全マージンも高い。街乗りやツーリングでも楽できて疲れないなどメリットの宝庫だ。また、KTRCも自然な作動感で、フルバンクでアクセル全開にできるのもトラクションコントロールのおかげだと実感。たとえば、中間の「モード2」に設定しておくと、ヘアピンの立ち上がりなどで黄色いランプが点滅してトラクションコントロールの介入を教えてくれるが、従来のように間引き感もなく自然に加速していける。最初はニーゴーでトラクションコントロールが必要かとも思ったが、実際に使って走れるし、トラクションコントロールに任せて全開にできる安心感がある。特にグリップ感が分かりづらいハーフウェット路面などは威力絶大だ。
ストリートでも阿蘇山周辺のワインディングを100km程度ツーリングしてみたが、これがけっこう楽しめた。6,000rpm~8,000rpm辺りの25Rにとっては中速トルク域を使って流すのが気持ち良く、自分の狙ったラインを通していくゲーム感覚の楽しさがある。さりとて、けっして自動操舵的ではなく、ステップを踏み込むなど自分の意思でしっかりきっかけを作ってやるとスパッと曲がっていく切れ味を見せてくれる。やはり味付けはスポーツ主体なのである。
気に入ったのがシートで、薄くても吸収性がよくホールド感にも優れていて快適。ワンデーツーリングでも尻が痛くなることはなかった。また、見た目以上にハンドル切れ角が大きく、極低速トルクも途切れることなくコントロールしやすいのでUターンも楽だった。等々、細部に至るまで隙なく作り込まれた完成度の高さが印象的だった。
結論としては、ツーリングもできるスーパースポーツ。ストリートも楽しいが、やはりサーキットが25Rのハレ舞台なのだと思う。その意味でZX-25Rは新たなスーパーマルチクォーター時代の幕開けを告げたと言えるのだ。