掲載日:2020年07月09日 試乗インプレ・レビュー
衣装協力/KUSHITANI 取材・文/佐川 健太郎 写真/星野 耕作
HUSQVARNA SVARTPILEN 250
スウェーデンの名門、ハスクバーナの創業は17世紀というから驚きだ。最初は王室御用達の銃器メーカーとしてスタートし、20世紀の初めにバイクを手掛けるようになった古豪ブランドである。オフロード界での活躍は特に有名で、かつてはモトクロスやエンデューロでタイトルを総ナメする勢いを誇っていた。現在はKTMの傘下に入り、オンロードも含めた個性的なモデルを次々と世に送り出している。
その中で、スウェーデン語で“黒い矢”の意味を持つ「スヴァルトピレン」シリーズは都会のスクランブラーとして登場。今回紹介する「SVARTPILEN 250」はそのエントリーモデルであり、701、401に続く小排気量モデルとして今年の4月に投入された。ちなみにオンロード寄りのライディングポジションや装備を付けた兄弟車として、「ビットピレン」(白い矢)シリーズもある。
SVARTPILEN 250のコンセプトは「BACKROAD EXPLORER」。直訳すると“裏道の冒険者”である。網の目のように広がった複雑な都会の路地を、コンパクトな車体と機動力を生かしてスイスイと駆け抜けるイメージだ。
ちょっとバックグラウンド的な話をすると、ハスクバーナではKTMとのプラットフォームの共有化を進めていて、SVARTPILENシリーズに関してもKTMのDUKEシリーズが開発ベースとなっている。つまり、すでに性能やクオリティで実績のある250DUKEと同じエンジンとフレームから作られたマシンということ。そこに独創的な北欧デザインが与えられている。クラシカルな中に洗練された新しさを感じる近未来的なデザインが特徴だ。
最高出力31psを発揮する水冷単気筒DOHC250ccエンジンをしなやかな剛性を持つクロモリ鋼管をヤグラ状に組んだトレリスフレームに搭載。足まわりにはWP製の倒立フォークと直押しタイプのモノショックに、Bosch製ABSシステムを標準装備したBYBRE製の前後ディスクブレーキを組み合わせるなど充実。基本的な車体構成は250DUKEと共有するが、ライディングポジションや外装はもちろんのこと、吸排気系やサスペンションの設定、ホイールやタイヤなど独自の仕様となっている。
またがった瞬間にしっくりとくる安心感のある車格と軽さは250ccならでは。ビッグバイクにはない気軽さがいい。上体が起きた自然なライディングポジションは街乗りからツーリングまで幅広くこなせそうだ。シートは極端に低くはないが、スリムな車体と沈み込む前後サスのおかげで足着きも良好である。
走りの良さは250DUKE譲りだ。エンジンは歯切れ良い鼓動感があって、それでいてスムーズなのが良い。バランサーのおかげで振動も少ない。極低速から粘りがあって力強く、一方で1万rpm以上まで吹け上がる伸び感も楽しめる。高めのギヤで小気味よいシングルサウンドを楽しみつつ流すのも気持ちいいし、アクセルを思い切り開けてレッドゾーン近くまで引っ張って積極的に走るのも楽しい。ある意味で、“使い切れる”性能と言える。そこが250ccクラスの醍醐味でもある。
がっちりとした車体剛性に対し、前後サスペンションは比較的柔らかめな印象で乗り心地も良く、この辺りが250DUKEよりソフトな乗り味に感じる所以か。前後ともストローク量は142mmとたっぷりめで、路面の凸凹に対してもしなやかに追従してくれるため、少々荒れた道でもあまり気を遣うことなく走破できてしまう。まさに「都会のスクランブラー」である。
ハンドリングは軽快だがしっとりしていて、中速から高速へと速度レンジを上げていっても落ち着きがある。ブレンボの小排気量向けブランドであるBYBRE製ブレーキもコントロールしやすく、とりわけフロントのラジアル4ピストンは強力で、軽量な車体を瞬時に減速させてくれる。ABSも握り込んだ奥で効くスポーティなタイプだ。
また、標準装備のMRF製のタイヤがなかなか秀逸。モータースポーツで実績のあるインド製ブランドということだが、セミブロックタイプのパターンが滑りやすい路面でもよくグリップしてくれ、乗り心地も良かった。ちなみに兄貴分のSVARTPILEN401はもっと厳ついブロックパターンで、かつワイヤースポークホイールであることを考え合わせると、250はよりオンロード寄りの仕様と思える。
国産車にはないアバンギャルドなデザインや、装備されているパーツ類のクオリティの高さなどは所有感を満たしてくれるに違いない。そして、普通二輪免許で乗れる250ccクラスであり、60万円を切る価格の輸入車としても注目される存在だ。