【カワサキ Z H2 試乗記】量産車初にして唯一となる、スーパーチャージドネイキッド

掲載日:2020年06月29日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/中村 友彦  写真/伊勢 悟

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KAWASAKI Z H2

H2シリーズの第3弾にして
現行Zシリーズの頂点

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現行車の中で、最もカワサキらしさを感じるカワサキ車は?という問いに対する答えは人それぞれ。往年のZ1の姿を再現したZ900RSを推す人がいれば、ワールドスーパーバイクで前代未聞の5連覇を達成したZX-10R/RRを筆頭に挙げる人、モトクロッサーのKXシリーズが頭に浮かぶ人もいるだろう。とはいえ個人的には、2015年から展開が始まったH2シリーズを抜きにして、近年のカワサキらしさは語れないと思う。何と言っても、現代の2輪業界で過給器装着車を手がけているのは、世界で唯一、カワサキだけなのだから。

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スチール製トリレスフレームに、自社開発のスーパーチャージャーで武装した並列4気筒を搭載するH2シリーズは、当初はハーフカウルを装備する2種のスポーツモデル、ストリート仕様のH2:200ps(2017~2018年型は205ps)と、クローズドコース用のH2R:310psでスタート。そして第3のH2として、2018年にフルカウルスポーツツアラーのH2SX:200psを追加したカワサキは、2019年になると、標準モデルと言うべきH2の最高出力をイッキに231psに増強。こうした経緯を経て、スポーツバイクとスポーツツアラーの世界で最速の称号を獲得した同社が、ネイキッド最速を目指して生み出したのが、今年度から発売が始まるZ H2:200psである。

カワサキ Z H2 特徴

既存のH2/SXのカウルレス仕様ではなく
フレームを筆頭とする数多くの部品を専用設計

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パッと見ではH2、あるいはH2SXのカウルレス仕様と思えるものの、スポーツネイキッドとしての魅力を追求したZ H2は、数多くの部品を新規開発している。特徴的なトリレスフレームはH2用ともSX用とも異なる構成で、片持ち式→両支持式に変更されたスイングアームや軽快なイメージの外装、親しみやすさに配慮した前後ショックやブレーキなども、Z H2のための専用設計品だ。なお操安性に多大な影響を及ぼす車体寸法、キャスター角/トレール/軸間距離/装備重量/シート高は、H2の24.5度/103mm/1455mm/238kg/825mm、SXの24.7度/103mm/1480mm/260kg/820mm に対して、Z H2は24.9度/104mm/1455mm/240kg/830m。この数値から察するに、Z H2はSXよりH2に近い特性を備えているようだが、わずかに増えたキャスター角とトレールからは安定性の向上、わずかに高くなったシートからは軽快感の向上という、相反する意図が伺える。

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バランス型スーパーチャージドエンジンは、SX用がベースで、200ps/11000rpmの最高出力はSXとまったく同じ。とはいえ、バルブタイミングの刷新や吸排気系の見直しによって、Z H2は低中速域のトルクを増強。さらには2次減速比のローギアード化で(18/44→18/46)、過給器ならではの加速感を、H2やSXより身近なものとしている。ただし身近と言えば、このバイクで最もそう感じるのは価格かもしれない。2020年の日本市場で販売される、H2カーボンが363万円、H2SX SEが244万2000円であるのに対して、Z H2は189万2000円。言ってみればZ H2は、ネイキッド最速だけではなく、スーパーチャージャーの普及を目指すバイクでもあるのだ。

カワサキ Z H2 試乗インプレッション

市街地やチマチマした峠道でも
過給器の魅力が気軽に堪能できる

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残念ながら2019年型以降のH2は体験していないのだが、初期のH2に神経質……という印象を抱き、H2SXでは車体の重さが過給器の魅力を微妙に損なっているかも……と感じた僕にとって、Z H2は我が意を得たり!と言いたくなるエンジン特性を備えていた。何と言ったらいいのか、Z H2はスーパーチャージャーの醍醐味が味わいやすいうえに、本領を発揮させるかどうかは乗り手次第、という印象なのである。

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例えば市街地走行では、過給圧がほとんどかからないように高めのギアを使えば、一般的なビッグネイキッドと大差ない感覚で淡々と走れるのだけれど、前方にスペースを見つけた際にスロットルをグイッと捻ると、その瞬間からスーパーチャージャーならではの怒涛の加速が、H2/SXよりイージーに満喫できる。そしてワインディングロードに舞台を移すと、H2/SXの場合は、スロットルを本格的に空けるのは車体が適度に起きてから、という意識を持つ必要があったのだが、低中回転域のエンジン特性が滑らかで力強く、トラクションコントロールが効果的な仕事をしてくれるZ H2は、今どきのリッターSSと同様の感覚で、フルバンク中の右手に力を込め、短いストレートでも過給器の醍醐味が堪能できるのだ。

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なお乗車姿勢がアップライトなZ H2は、H2/SXと比較すると、明らかにハンドリングが軽快である。だから市街地走行は気軽にこなせるし、日本によくあるチマチマした峠道もスイスイ走れる。もっとも、アップライトな乗車姿勢は前輪分布荷重の減少を招き、場合によっては高速域では不安定な挙動を示すことがあるのだが、少なくとも今回の試乗では、そういった気配は感じられなかった。その背景には、フレームマウント式カウルの安定した重量や、わずかに安定指向となったキャスターとトレールがあるような気がするものの、もしかしたらZ H2のために専用設計されたフレームは、H2用やSX用より高い剛性を備えているのかもしれない。

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いずれにしても、ルックスとスペックはインパクト抜群のZ H2だが、乗り味はスポーツネイキッドの王道なのである。だから、ヤンチャなキャラクターのZ1000や、各部の仕上げが大雑把なZ900RS/カフェのオーナーがこのバイクを体験したら、乗りやすさに驚くかもしれない。もっともZ H2だって、足まわりにH2/SXほどのコストはかかってないのだけれど、一般公道でその事実を認識する場面はほとんどないし(サーキットなら、前輪荷重が高くて足まわりが豪華なH2のほうが、速く走れると思う)、200万円を切るスーパーチャージドバイクという事実を考えれば、細かい部分に異論を述べるのは野暮というものだろう。

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前述したようにZ H2はネイキッド最速を目指したモデルだが、そういう発想はカワサキだけのものではない。今年から発売が始まるドゥカティ・ストリートファイターV4とMVアグスタ・ブルターレ1000RRは、208psという最高出力を公表し、装備重量はいずれも200kg前後。つまりデビューした時点で、200ps/240kgのZ H2は、ネイキッド最速とは言い難いモデルになったのだが……。Z H2の性能や面白さが2台のイタリアンに劣るかと言うと、そんなことはないだろう。何と言ってもこのバイクは、自然吸気では絶対に味わえない、怒涛の加速力が堪能できる、スーパーチャージャーという飛び道具を備えているのだから。

カワサキ Z H2 詳細写真

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デザインのテーマはSUGOMI&Minimalist。フロントマスク中央に備わる川崎重工のリバーマークは、H2シリーズ全車に共通。ヘッドライト左のインテークダクトから取り込まれた新気は、ストレートにスーパーチャージャーに向かう。

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アルミ製テーパーハンドルは、ツーリングにもスポーツライディングにも対応できる絶妙な形状。リザーバータンクがスモークタイプのブレーキ/クラッチマスターシリンダーはニッシンで、クラッチ用はH2シリーズ初の横置き式。

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アナログ式タコメーターを備えるH2/SXとは異なり、Z H2は4.3インチTFTモニターにすべての情報を表示。過給圧や前後分布荷重がリアルタイムで確認でき、スマホとの接続も可能。メーター左の12V電源ソケットはオプション設定。

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スイッチボックスはH2SXと共通。左側の3つのボタンで設定変更を行うインテグレーテッドライディングモードは、スポーツ/ロード/レインの3種で、パワー特性とトラクションコントロールの利き方は任意で変更することが可能。

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独創的なガソリンタンクとフロントマスクは、Z1000の延長線上と思えるデザイン。なお2019年以降のH2/SXは、自己修復機能を備えるハイリーデュラブルペイントを導入しているものの、Z H2は一般的なペイント。

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タンデム用はかなりコンパクトだが、メインシートはH2SXに匹敵するクッション性を確保している。Z1000より15mm、日本仕様のZ900RSより30mm高いものの、830mmのシート高は、近年のリッターネイキッドの平均と言うべき数値。

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タンデムシート下にはETC2.0ユニットを装備。ちなみに近年の日本車で、ETCの標準装備に最も積極的なのはカワサキ。

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ステップバーはラバー無しのスポーツタイプ。マウントプレートはかなり大きめで、スイングアームピボットプレート上部までを覆っている。2500rpm以上で作動するクイックシフターは、アップとダウンの両方に対応。

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並列4気筒エンジンの基本構成はH2シリーズ全車に共通。ただし、過給器の美点を最大限に引き出すため、圧縮比を8.5:1に設定しているH2に対して、扱いやすさに配慮して生まれたSXとZ H2のパワーユニットは11.2:1という数値を選択。

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1984/1985年の750ターボでは、IHIに過給器の生産を依頼したカワサキだが、H2シリーズのスーパーチャージャーは自社開発。インペラはアルミ鍛造材の削り出しで、ユニット本体の潤滑はエンジンオイルを転用する形で行われる。

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異形断面の巨大なサイレンサーを含めて、排気系はEURO5への適合を前提にする新作。既存のH2/SX用との相違点は、4本エキパイが長く、集合部が後方に設置されていることと、消音用のボックス=排気チャンバーを装備しないこと。

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F:3.50×17/R:6.00×17の6本スポークホイールは、ニンジャ1000SXやZ1000と共通のデザイン。ちなみにH2/SXは、専用設計の星型スポークホイールを採用していた。前後タイヤは日本車では珍しい、ピレリ・ディアブロロッソIII。

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スイングアームはH2シリーズ初の両支持式。前後ショックはショーワ製で、ブレーキキャリパーは、F:ブレンボ/R:ニッシン。タンデムステップブラケットの後方に備わるヘルメットホルダーは、日本仕様ならではの装備。

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