掲載日:2020年03月06日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/稲垣 正倫 写真/伊井 覚
HONDA ADV150
世はミニバン時代から、SUV時代へ移ろうなかで、オートバイもアドベンチャーあるいはクロスオーバーバイクが、勢いをつけてきた。この活況に投入されたホンダのミドルスクーターが、ADV150だ。すでに売れ筋のPCX150をベースに、先行する大型DCTマシンのX-ADVをイメージソースとして開発。各部をブラッシュアップして、リアブレーキをディスクブレーキへ変更したりと、機能的にもアップデートされたカタチ。つまり、本質をともなった「SUV」的存在のスクーターと言えるだろう。
ロードバイクのベース車両をオフロードっぽくしたマシンは、「それっぽく見えるようにお化粧直しした」だけとも捉えられがち。だが、ADV150の場合はPCX150をベースとしているとはいうものの、相当部分をアップデートしており、カスタマイズで対応できるようなレベルではないと言っておこう。
それを象徴するのは、リア回り。スイングアームの形状は、スクーターの「見せたくない、ただのパーツ」から、「ワイルドかつ骨太な質感を演出する、本格オフロードの足まわり」と言えるそれに変更されている。「抑えきれない好奇心に応える、乗っているだけでアクティブになれる何処にでも行きたくなるクロスオーバースクーター」というコンセプト通りに、そのディメンションもPCXとは異なるものになっており、控えめながらアップライトなシート高は、795mmに設定。
サスペンションストロークはフロントが130mm、リアが120mmで、リアにはSHOWAのリザボアタンク付きのツインショックを採用し、クラス随一の路面追従性を誇る。加えて、エッジーなスタイリングから醸し出されるムードは、クロスオーバーというより、アドベンチャーセグメントを意識させるものだ。
2018年、PCXに搭載されたスマートキーと同様のシステムで起動するADV150のセルを回すと、とても静かにエンジンが目を覚ます。とても気温の低い朝だったが、暖気などまるで必要ないかのように、始動直後からレスポンスがいい。PCXも同じだが、この150ccユニットは好評もうなづける出来で、これ以上無いほどスロットルに対してリニアだ。どんな乗り方をするライダーでも、とまどうことは一切ないだろう。逆に、湧き上がるような立ちの強いパワーカーブを描くエンジンを好むライダーは、少し物足りなさを感じるかもしれない。
そんな素性のエンジンだから、スピードの乗り方はライダーが感じるものよりも、だいぶうわまわり、あっという間に市街地の速度制限付近に到達する。おそらくだが、一昔前の250オフロードバイクよりも、高速は快適にクルージングできるのではなかろうか。スロットルを操作していて、とても気持ちのいい伸びかたをする新世代ユニットだ。
SUV的側面は、エクステリアだけでないことを、乗ってすぐに思い知らされる。まず感じるのは、バーハンドル。通常のロードバイク然としたPCXのハンドルよりストレートで低く構えたスタイルは、リアを振り回すようなオフロード的な乗り味。いわば、これは自転車のシティサイクルから、MTBに乗り換えたようなフィーリングかもしれない。がっしりと押さえ込めるディメンションで、車体のホールド感は秀逸。リア130/70-13の少しファットなタイヤ、そしてPCXよりもロングなストロークを持つ前後サスペンションと相まって、タフなフィーリングである。
特筆すべきは、ディスクブレーキだろう。リアドラムブレーキのPCXとは違ってディスクにアップグレードされているのだが、こちらのタッチは秀逸。150ccの小柄な車体には、ドラムブレーキでも充分なのだが、やはり「グレードの高いモノ」に勝る装備は、ないと思わされた。オフロードの場合、特にリアブレーキはストップよりも姿勢制御に使うため、そのコントロール性が非常に重視される。少しこのADV150で林道にも入ってみたが、コントローラブルなリアブレーキがあるおかげか、フロントのABSも気にならなかったほどだ(※オフロードでは、ABSは効かない方が走りやすい)。
全体のパッケージとして、ADV150はPCX150のオフ版というよりは、「ハイエンド版」と表現するべきだと感じる。ユーティリティで劣る部分は少ないし、トルク感やパワー感もPCX比で上位互換の関係にある。単に通勤の足としてPCXを考えるライダーよりも、さらにいいものに触れたい、あるいは心地よくライディングを楽しみたい、そんな欲があるライダーには、価格差も気にならないはずだ。