掲載日:2019年11月26日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
KAWASAKI Z650
Z650は649ccのパラレルツインエンジンを積んだミドルクラスのネイキッドロードスポーツで、ER-6nの後継機種にあたる。エンジンは低・中回転域を扱いやすくアップデート、フレームは新設計の高張力鋼管トレリスフレームを採用。リアサスも右側にオフセットされたレイダウンサスペンションからホリゾンタルバックリンク式となり、車両重量もER-6nから実に19kgも軽量化。これはもはや全く別のマシンに生まれ変わったといえる。
Z650という名前を聞くと、ザッパーの愛称で知られた直列4気筒エンジンの名車を思い浮かべる人もいるだろう。しかし現代のZ650はツインエンジンを積んだ軽量コンパクトなマシン。まるで獲物を狙う野生の猛獣のように低く、流れるようなボディデザインは、Zシリーズ共通の「SUGOMI(凄み)」デザインを踏襲。ネイキッドというよりストリートファイターと呼んだほうがしっくりくる。
実車を目の前にすると、想像していたよりも車体はかなりコンパクトで、まるで400ccクラスのマシンを見ているかのよう。実際、400ccクラスの代表的なマシンであるホンダのCB400SFとホイールベースは全く同じ1,410mmで、全長に至ってはZ650のほうが25mmも短い2,055mmとなっている。このショートボディで車両重量は187kg、搭載されるエンジンは50kW(68PS)/8,000rpmをたたき出す……となると、これだけでこのマシンの運動性が高く、クイックな動きが得意なのは容易に想像できるだろう。
ヘッドライトはハロゲンでウインカーはバルブタイプ、テールランプのみLEDだ。ABSやアシスト&スリッパークラッチ、ETCを標準で装備し、クラッチ&ブレーキレバーは5段階の調整ダイヤル付きだ。装備に関しては非常に実用的でバランスの取れたコスト配分をしているのが興味深い。
跨ってみると、ボディは非常にスリムで軽い印象だ。タンクデザインはボリュームのあるものだが、ニーグリップ部分がそぎ落とされていて、脚になじむ形状となっている。シート高は790mmだが、角が落とされているため数値以上に低く感じ、足つきは良好だ。ハンドルは一見すると若干低いかな、と思ったが、手前に絞り込んである形状のため、肩や肘が突っ張ることなく自然なポジションをとることができる。身長170cmで手足短めという純昭和体形の筆者には、とても“ちょうどいい感”のあるボディバランスだ。
走り出してまず感じたのは、加速の鋭さだ。信号待ちから1速でラフにアクセルを開けると、弾かれたように車体が飛び出し、体が置いて行かれそうになってしまった。「650だからってナメるなよ!」と言われたようで、気を引き締める。
しばらく走って慣れるとシティランがとても楽しいことに気づいた。エンジンをシャカリキになってブン回さなくても、4~5,000回転をキープして走るだけで十分にトルクフルなため、気負わず気楽に機敏な走りができるのだ。追い越しのための車線変更など、必要なときにちょいとアクセルを開けるだけで、とてもスムーズに道路上を駆け抜けていくことができる。車体がスリムで軽いことはもちろん、サスペンション、特にリアサスの動きがしなやかでスムーズなこともあるのだろう、まるでスキーやスケートで遅めの人をシュッと抜いていくような爽快さがあるのだ。しかも、エンジンの鼓動は十分に感じられるのに、排気音はうるさくない。まさに、日本の道路事情に“ちょうどいい”扱いやすさを実感できた。
郊外のワインディングや高速道路でもその気持ちよさは変わらない。スーパースポーツのようなハイパワーさはないし、上級モデルのように電子デバイスが多く搭載されているわけでもないので、限界を極めるような走りではない。ところがこの“そこそこ感”がいたって気分がいいのだ。高性能なマシンに“乗せられている”のではなく、マシンと対話しながら自らの手で操る喜び……バイクのもっとも基本的な楽しみ方を無理なく堪能させてくれる、それがこのZ650というモデル最大の魅力だろう。大型バイク初心者や体格に不安があるライダーはもちろん、大きく重いマシンに気疲れを感じ始めたベテランにもおすすめしたいマシンだ。