【カワサキ Z1000 試乗記】独自の道を歩み続けるスポーツネイキッド

掲載日:2019年10月28日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/中村 友彦  写真/伊勢 悟

【カワサキ Z1000 試乗記】独自の道を歩み続けるスポーツネイキッドの画像

KAWASAKI Z1000

好き嫌いがハッキリ分かれるルックスと
軽快感や爽快感を重視した乗り味

【カワサキ Z1000 試乗記】独自の道を歩み続けるスポーツネイキッドの画像の試乗インプレッション

異端にして過激。日本ではそういう見方をされることが多いものの、2003年の発売以来、ヨーロッパ市場で絶大な支持を集めて来たZ1000は、近年の日本製ネイキッドの進化に多大な影響を及ぼしたモデルだ。と言うのも、2000年代初頭までの日本製ネイキッドは、基本的にはどのモデルも万人が楽しめる、フレンドリーなキャラクターだったのである。そんな中でZ1000は、好き嫌いがハッキリ分かれるアグレッシブなルックスを採用すると同時に、万能性や安定性よりも、軽快感や爽快感を重視した乗り味を構築。そういった資質がヨーロッパで高く評価されたからこそ、他の国産3メーカーは、Z1000を意識したスポーツネイキッドを開発することになったのだ。現行車で具体的な車名を挙げるなら、ホンダCB1000R、ヤマハMT-10/SP、スズキGSX-S1000などは、いずれもZ1000の影響を受けた車両と言えるだろう。

【カワサキ Z1000 試乗記】独自の道を歩み続けるスポーツネイキッドの画像の試乗インプレッション

今年で17年目を迎えるZ1000は、これまでに3度の大幅刷新を受けており、日本での正式販売が始まった2017年型以降は、厳密に言うと5代目になる。ただし、2014~2016年に販売された4代目と5代目の相違点は、ウインカーやシートカウルのデザイン、メーターの表示内容、燃料噴射マップ、前後ショックのセッティングくらいで、アルミツインスパーフレームや並列4気筒エンジンを筆頭とする、主要部品に変更はない。また、2017年から海外市場への投入が始まった、オーリンズリアショックとブレンボ製フロントブレーキを装備するR仕様は、日本では逆輸入車という形で販売されている。

カワサキ Z1000 特徴

時代の流行に左右されない
カワサキならではのスタンス

【カワサキ Z1000 試乗記】独自の道を歩み続けるスポーツネイキッドの画像の試乗インプレッション

2003年に登場した初代の時点で、既存の日本製ネイキッドとはまったく異なる、かなり斬新なルックスを採用していたZ1000。その方法論がひとつの頂点に達した……と思えるのが、SUGOMIをテーマにして生まれた4/5代目だ。獲物に襲いかかる獣を連想させるフロントマスクや、有機的なフォルムのガソリンタンク、極限までショート化されたテール、既存の造形を継承しながら流麗さを増したマフラーを採用した最新のZ1000は、他社のライバルを置き去りにするかのような、独創的で先鋭的なスタイルを実現。しかもそのスタイルが、誕生から5年以上経過した現在でも古さを感じないという事実は、冷静に考えてみると、驚くべきことかもしれない。

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メカニズムに注目した場合、Z1000で最も興味深いのは、リッターSSのZX-10R/RRとの共通部品が存在しないことだろう。現代のリッタースポーツネイキッドは、ほとんどがリッターSSからエンジンを転用し、シャシーもリッターSSがベースというケースが少なくないのだが、3代目以降のZ1000はエンジンもシャシーも専用開発。そして’10年以降はZ1000の派生機種として、フルカウルスポーツツアラーのニンジャ1000とアドベンチャーツアラーのヴェルシス1000が登場している。この手法をどう感じるかは人それぞれで、世の中にはZX-10R/RRの部品を転用しないことを、コストの抑制と見る人もいるようだけれど、おそらくカワサキは、サーキット重視のリッターSSとストリート指向のスポーツネイキッドでは、求められる資質が異なると考えたのではないだろうか。ちなみに現代の日本製リッタースポーツネイキッドで、フルカウル仕様が存在するのはGSX-S1000のみで、CB1000RとMT-10/SPに派生機種や兄弟車は存在しない。

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そういった基本的な素性に加えて、現代ならではのハイテク電子制御を採用していないことも、Z1000の特徴だ。ドゥカティやKTMといったヨーロッパ製も含めて考えると、近年のリッタースポーツネイキッドでは、電子制御式スロットルやエンジンモード切り替え機構、加速度センサーのIMU、トラクションコントロール、コーナリングABS、クイックシフターなどの普及が急速に進んでいるのだが、Z1000は最新型でも昔ながらのオーソドックスな構造を維持。その一方で兄弟車のニンジャ1000とヴェルシス1000が、ハイテク電子制御に積極的な姿勢を示していることを考えると、Z1000はあえて現代の流行には乗らない、という選択をしたのだろう。

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他社のリッタースポーツネイキッドと比較すると、Z1000の着座位置はやや前方で、ハンドルグリップ位置は、低く、近い印象。シート高はライバル勢より低めの815mmだから、足着き性は悪い部類ではないものの、安楽さや気軽さを感じるライディングポジションではない。

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カワサキ Z1000 試乗インプレッション

ハイテク電子制御のサポートがないからこそ
マシンとの濃密な会話が楽しめる?

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これは気を引き締めて乗らなくては。久々にZ1000と対面した僕は、市街地を走っている段階でそう思った。何と言ってもこのバイクは無造作な操作すると、予想以上に急激な姿勢変化を見せるのである。スロットルをガバッと開ければ、即座に前輪が浮き上がろうとするし、フロントブレーキレバーを思いっ切り握り込むと、今度は後輪が路面から離れようとする。おそらく大型初心者だったら、この乗り味には恐怖を感じるに違いない。いや、ある程度以上の経験があるライダーでも、Z1000の挙動には手強さを感じるんじゃないだろうか。事実、撮影のために向かったワインディングロードで、頭のスイッチをスポーツライディングモードに切り替えた僕は、ちょっとしたきっかけを与えただけでイッキに向きを変えようとする車体、そしてフルバンク状態からアクセルを開けた際に感じた、後輪がズズッと横方向に流れる気配に、そこはかとない戸惑いを覚えることとなった。

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だがしかし、試乗開始から数時間が経過する頃には、すべてのタッチがソリッド&ダイレクトで、乗り手の技量を問うZ1000の特性が、僕はすっかり好きになっていた。至れり尽くせりのハイテク電子制御によるサポートが当たり前になった、現代の他社製リッタースポーツネイキッドやリッターSSなどと比較すると、このバイクは融通が利かないぶん、ベタな表現をするならスロットルのバカ開けやブレーキのバカ握りができないぶん、マシンと濃密な会話が楽しめるのである。もちろん単純な速さを求めるなら、ハイテク電子制御があるに越したことはないだろう。でもZ1000を走らせていると、例えばコーナリングがバッチリ決まったときは抜群の達成感と爽快感、逆にいまひとつのコーナリングを終えた後は、それ相応のガッカリ感が味わえて、もしかしたらハイテク電子制御は、オートバイ本来の楽しさの何割かを奪っているんじゃないか……?という気がして来るのだ。

【カワサキ Z1000 試乗記】独自の道を歩み続けるスポーツネイキッドの画像の試乗インプレッション

ちなみに、今回の試乗でどしゃぶりの雨を体験した僕は、当初はあらゆる操作に細心の注意を払い、恐る恐ると言う感じでZ1000を走らせていたものの、適正より1つ上のギアを使えば、車体の姿勢変化と後輪の滑りが抑えられ、なかなかの安心感が得られることが判明。こんな初歩的な要素に判明という言葉を使っている時点で、僕の技量はたかが知れているわけだが、ライディングのコツが習得できるという意味では、このバイクには乗り手を育てる資質が備わっているように思う。

【カワサキ Z1000 試乗記】独自の道を歩み続けるスポーツネイキッドの画像の試乗インプレッション

もっともだからと言って、僕はZ1000を万人にオススメするつもりはない。一般的なライダーの場合は、守備範囲が広い兄弟車のニンジャ1000を選んだほうが、充実したバイクライフが送れそうな気がするし、とにかく速く走りたないならZX-10R/RR、あるいは、H2やZX-14Rを購入したほうがいいだろう。でもワインディングロードを含めたストリートで、スポーツライディングを存分に満喫できる並列4気筒車が欲しいなら、1度はZ1000に乗ってみるべきだ。誰もが好意を持つとは思わないけれど、刺さる人にはグサッと刺さると言いたくなる魅力が、このバイクには備わっているのだから。

カワサキ Z1000 詳細写真

【カワサキ Z1000 試乗記】独自の道を歩み続けるスポーツネイキッドの画像の試乗インプレッション

フロントマスクは獲物に襲いかかる猛獣をイメージ。4灯式ヘッドライトはリフレクターレスのLEDならではと思えるコンパクトなデザインで、ローで内側×2、ハイで外側×2が点灯する。メーターバイザー前部にはポジションランプを設置。

【カワサキ Z1000 試乗記】独自の道を歩み続けるスポーツネイキッドの画像の試乗インプレッション

後方から見たガソリンタンクは、なかなかグラマラス。乗り手の下半身とのフット感は非常に良好で、ライディング中は操作系部品として使える。アルミ製ハンドルは、現代のリッタースポーツネイキッドで定番になっているテーパータイプ。

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Z1000のデザインに対するこだわりはバックミラーにまで及んでいる。ただし、ステー下部にボルト留めされた樹脂製カバーを外さないと、位置調整ができないので、その点はちょっと面倒。フロントブレーキマスターはニッシンラジアル。

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ハンドルポストの上に備わるLED/LCDメーターは、超が付くほどコンパクト。回転計は、4000rpm以下の下段と、それ以上を表示する上段に分かれている。ギアポジション&シフトアップインジケーター機能が追加されたのは’17年型から。

【カワサキ Z1000 試乗記】独自の道を歩み続けるスポーツネイキッドの画像の試乗インプレッション
【カワサキ Z1000 試乗記】独自の道を歩み続けるスポーツネイキッドの画像の試乗インプレッション

メインシートとリアパッドにはZパターンが刻まれている。テールカウル/ランプより後方に飛び出したタンデムシートは、他に類を見ない独創的なデザイン。シート下のスペースはごくわずかしかないが、ETCユニットを収納することは可能。

【カワサキ Z1000 試乗記】独自の道を歩み続けるスポーツネイキッドの画像の試乗インプレッション

初代と2代目はZX-9Rからの転用だったものの、3代目以降のZ1000が搭載する並列4気筒は、ストリート用として専用開発。ただしこのエンジンは後に2台の兄弟車、さらには各部を刷新してZ900やZ900RSなどにも転用されることとなった。

【カワサキ Z1000 試乗記】独自の道を歩み続けるスポーツネイキッドの画像の試乗インプレッション

兄弟車のニンジャ1000とヴェルシス1000が、快適性を重視したラバー付きであるのに対して、スポーツライディング中の踏み応えが優先事項となるZ1000は、ZX-10R/RRやH2と同様のステップバーを採用。ペダルは左右とも別軸式。

【カワサキ Z1000 試乗記】独自の道を歩み続けるスポーツネイキッドの画像の試乗インプレッション

φ41mm倒立フォークはショーワのSFF-BP:セパレートファンクションフォーク・ビッグピストン。トップキャップ上に備わるアジャスターは左右独立式で、左:プリロード、右:伸/圧ダンパー。最新のZX-6Rも同様のフロントサスを採用。

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プリロードと伸び側ダンパーが調整できるリアショックは、近年のカワサキ製スポーツバイクで定番になっている、ホリゾンタルバックリンク式。この構造はマスの集中化に加えて、排気系をレイアウトする際の自由度の高さにも貢献すると言う。

【カワサキ Z1000 試乗記】独自の道を歩み続けるスポーツネイキッドの画像の試乗インプレッション

F:φ310mm/R:φ250mmのブレーキディスクはペータルタイプ。前後ブレーキキャリパーはトキコ製で、フロントのラジアルマウント式4ピストンキャリパーには、カワサキのロゴが刻まれている。’17年以降はABSが標準装備となった。

【カワサキ Z1000 試乗記】独自の道を歩み続けるスポーツネイキッドの画像の試乗インプレッション

スイングアームエンドに備わるチェーンアジャスターは、’84年型GPZ900R以来、カワサキが数多くのモデルに採用してきたエキセントリック式。4本出しマフラーは歴代Z1000の特徴のひとつだが、現行モデルは初代とはまったく異なる造形。

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