掲載日:2019年09月03日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/中村 友彦 写真/井上 演
GPX Gentleman 200 Racer
2007年の創業当初はATVを主軸としていたGPXが、2輪事業への参入を開始したのは2009年。その年数を知ると、新参者というイメージを抱く人がいるかもしれないが、近年になって急成長を遂げたGPXは、母国のタイではホンダとヤマハに次ぐ第3のモーターサイクルメーカーとして、多くのライダーから支持を集めている。
現在の同社のラインアップには14台が並んでおり、2018年秋から始動したGPXジャパンは、日本導入第一弾として、フルカウル+前後14インチのデーモン150GR、トラッカースタイルのレジェンド150S、ネオクラシックネイキッドのジェントルマン200を選択。その3台に続く形で今春から日本での発売が始まったのが、ハーフカウルやセパハンの採用で往年のカフェレーサーを思わせる雰囲気を構築した、ジェントルマン200レーサーだ。
バイクに対する価値観は人それぞれ。とはいえ、ジェントルマン200レーサーと対面したら、販売価格が40万円を切る車両とは思えない、充実した装備と各部の上質さに、誰もが感心するんじゃないだろうか。実際に車両を前にして、最初に目を引かれるのは、倒立式フォークとダブルディスク、ラジアルマウント式キャリパーを採用したフロントまわりの豪華さだが、往年の手法と現代の技術を巧みに融合したカフェレーサースタイルも、さまざまな角度からじっくり観察したくなるほどに秀逸。いずれにしてもこのバイクからは、一昔前の東南アジア製バイクでよく見られた安っぽさや、小排気量車にありがちな妥協の気配が、まったく感じられないのである。
もっともそういった印象はジェントルマン200レーサーの兄弟車、スチール製ダイヤモンドフレーム+SOHC2バルブ空冷単気筒エンジンを筆頭とする、主要部品の多くを共有しているジェントルマン200にも通じる話だ。逆に言うならレーサー用の専用設計部品は、ハーフカウル、セパレートハンドル、トップブリッジ、バーエンドミラーくらいなのだが、ネオクラシックのスタンダードと言うべきジェントルマン200と、カフェレーサースタイルのジェントルマン200レーサーでは、マシン全体の雰囲気は完全な別物。このあたりの作り分けは、カワサキのW800ストリート/カフェ、スズキのSV650/Xなどより、GPXのほうが巧みと言っていいのかもしれない。
スタイルと価格設定に感心する一方で、走りに関してはあまり期待できそうもない。誠に失礼な話だが、試乗前の僕はそう思っていた。何と言っても雰囲気と構成に共通点を感じる日本車と、最高出力/装備重量を比較してみると、カワサキ・エストレヤの18ps/161kg、スズキ・バンバン200の16ps/128kgに対して、ジェントルマン200レーサーは11.5ps/160kgである。これはなかなか、厳しいことになるだろうと思いきや……。
そんなことはなかった。驚くほど速いとか軽快というわけではないけれど、市街地では交通の流れを普通にリードできるし、他車と競うような走りでもしない限り、高速道路や峠道でも遅いと感じる機会はほとんどない。もっともアップダウンが激しくてタイトなワインディングロードでは、低開度での応答性がいまひとつのキャブレターと、ダンパーの存在感が希薄なフロントフォークに、ちょっとした不満は感じるけれど、そのあたりは特性を理解していれば許容範囲に収まるレベルで、僕自身としては、そういった問題を乗り手が創意工夫で解決していくことも、バイクの楽しみのひとつだと思っている。
さて、何となくマイナス要素的な話から始めてしまったが、今回の試乗で最も印象的だったのは、このバイクがどんな状況でも乗り手をソノ気にさせてくれることだった。僕がそう感じた最大の要因は、日常域で苦痛を感じない範囲で、戦闘的な気分を味わわせてくれるライディングポジションだが、抑揚が明確で生き物のような感触のパワーユニット、操作に対する反応が素直で柔軟なシャシーも、ジェントルマン200レーサーの魅力を語るうえでは欠かせない要素。数値に特筆すべき要素はなくても、GPXは走りのツボをちゃんと抑えているのだ。そしてそういった特性を認識した僕は改めて、スポーツライディングの楽しさに、排気量や馬力の大小は関係ないのだなあ……と感じたのだった。