掲載日:2019年07月02日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐賀山 敏行 写真/渡辺 昌彦
MUTT motorcycles SABBATH 250
今年に入ってから、日本国内でもSNSを中心に話題を集めているのが、MUTT motorcycles(以下、MUTT)だ。トライアンフやノートンなど、かつて世界のオートバイ市場を席巻したイギリスのオートバイメーカーを生んだ“バーミンガム”に拠点を置く、新進気鋭のバイクメーカーである。
もともとはハーレーなどの大型バイクを得意とするカスタムビルダーであった“ベニー・トーマス”が、友人の“ウィル”とともに2013年に設立したのがMUTTのはじまり。それまでヨーロッパではあまり見られなかった中小排気量モデルをベースにしたカスタムマシンは瞬く間に人気を獲得。今では量産体制を整え、「モーターサイクルカンパニー」としてヨーロッパをはじめ、北米やオーストラリアで好評だという。そしてこの春、満を持して日本に上陸したのである。
現在、MUTTがラインナップするのは10機種。ただし、排気量は125ccと250ccの2種類で、各クラスともにエンジンは同一。フレームは125ccも250ccも同じシングルクレードルフレームを採用している。つまり、空冷単気筒エンジンのシンプルなモデルが、MUTTのベースということ。各モデルは異なるハンドルバーやタイヤ、シートをはじめ、細かな仕様を変えることで、それぞれの個性を演出しているのである。
ここで注目したいのが、先述した「MUTTがカスタムビルダーによって作られたモーターサイクルカンパニーである」ということ。そう、MUTTのモデルは基本的には同一仕様のモデルに各カスタマイズを加えた「ファクトリーメイドのカスタムマシン」なのである。だから、オンロードタイヤもあれば、ブロックタイヤもあるし、ローハンドルにアップハンドル、タンクもフォルムこそ同じながら、各モデルによってさまざまなカラーリングやグラフィックが施される……シンプルなレトロスタイルのバイクに、各モデルごとの特徴が与えられているのだ。なかでも精悍なブラックを基調とした荒々しいスタイルで人気なのが、ここに紹介する「サバス250」である。
カスタムビルダーでもあるベニー・トーマスがMUTTを設立するにあたって、まず最初に作ったモデル(=プロトタイプ)は、工房にあったパーツを組み上げた“寄せ集め”だったという。当然、サバス250はもはや寄せ集めパーツの集合体なんかではなく、専用パーツによって秀逸なバランスが取られたものである。しかし、やはりそのルーツが示すとおり、完成品であるサバス250はストリートの匂いがプンプンと漂うもの。国内で90年代終わりから00年代にかけて、大きなブームとなったストリートバイクブーム全盛期を思い出させるスタイルとなっている。
さて、跨ってみる。やや低めのハンドルにフラットなシートは、自然なライディングポジション。窮屈でもなく、スポーティーな走りも無理なく楽しめそうだ。シートの角の出っ張りによって、足つきが少し気になったが、スタイリング重視と考えれば十分に許容の範囲内。なにより、もともとの車体がコンパクトで軽いので、気になるレベルではない。
いざ、走り出す。空冷単気筒エンジンはトルクフルで、街中を軽快に流すことができる。元気なエキゾーストノートも相まって、シングル特有の鼓動感がなんとも心地よい。いまでは空冷単気筒エンジンを搭載した250ccモデルは、新車では皆無といっていい状況なので、この乗り心地は若いライダーにとってはかえって新鮮に写るのではないだろうか。もちろん、ベテランライダーにとっては懐かしいものになるだろう。
シンプルなエンジンとフレーム構成から成っているので、はっきり言ってしまえば、特段不満もなければ、大きな特徴があるわけでもない。あらゆるシーンで難なく、楽しく走ることができる。ただ、難をいうとすれば、リアサスペンションの硬さが気になった。ブロックタイヤのゴツゴツ感がダイレクトに伝わるし、道路のギャップをもろに拾い、長距離移動ではそれが疲れの原因にもなった。シートもやや硬いので、余計に疲れを感じたようだ。ただし、それらも含めて「これがMUTTなんだよ」なんて思えるのが、MUTT最大の特徴であり、魅力なのかもしれない。
MUTTのバイクが追求するのは性能やスピードではなく、それに乗って何をするか……つまり、ライフスタイルが重要なポイント。決してバイク単体が主役ではなく、ライダーの生活にバイクが溶け込んでいく。だからこそ、飛び抜けた性能も奇抜なフォルムも不要なのだ。昨今のニューモデルラインナップからすっぽり抜け落ちていた穴を、MUTTはみごとに埋めてくれている。