【スズキ 新型カタナ試乗記事】約20年の空白期間を経て、蘇ったKATANA

掲載日:2019年06月26日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/中村 友彦  写真/井上 演

【スズキ 新型カタナ試乗記事】約20年の空白期間を経て、蘇ったKATANAの画像

SUZUKI KATANA

既存のネオクラシックとは一線を画する
スズキならではのストリートスポーツ

2018年秋のインターモトで公開され、今年から世界各国で発売が始まった新世代のKATANAは、位置づけがなかなか難しいモデルだ。もちろんKATANAのモチーフになったのは、スズキの歴史を語るうえで欠かせない名車、1981~2000年に販売されたGSX1100Sカタナである。ただし新世代のKATANAは、古き良き時代のフィーリングを再現したネオクラシックモデルではない。と言うのも、外装を除くKATANAの主要部品は、現代的なスポーツバイクのGSX-S1000/Fと共通で、GSX-S1000/FのルーツはスーパースポーツのGSX-R1000なのだ。そのあたりを考えてみると、KATANAは既存のジャンルに当てはまらない特異な存在で、見方よっては新境地を切り開くモデル……と言えるのかもしれない。

スズキ カタナ 特徴

優れた資質をGSX-S1000/Fから継承しながら
ライディングポジション関連部品や補器類などを新規開発

【スズキ 新型カタナ試乗記事】約20年の空白期間を経て、蘇ったKATANAの画像の試乗インプレッション

1980年のケルンショーで衝撃的なデビューを飾った初代カタナ=GSX1100Sは、スズキ本社ではなく、ドイツのターゲットデザインがスタイリングを担当し、開発ベースは既存のGSX1100Eだった。そしてその生い立ちは、新世代KATANAもよく似ている。KATANAの原点は、イタリアのエンジンズ・エンジニアリングが2017年のEICMAに出展し、大反響を巻き起こしたコンセプトモデルで、そのコンセプトモデルも市販車も、開発ベースはGSX-S1000/Fなのだから。

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最重要部品となるアルミツインスパーフレーム+水冷並列4気筒エンジンだけではなく、スズキ独自のSDTVを採用した吸気系や、ショートタイプの4into1式マフラー、 3.50×17/6.00×17の前後ホイール、フロントのブレンボ製ラジアルマウント式キャリパーなど、KATANAとGSX-S1000/Fは数多くのパーツを共有している。スペックに注目すると、25度/110mmのキャスター/トレールや1460mmのホイールベース、148ps・107Nmの最高出力・最大トルクなども同じ。この事実を知ると、“KATANAはあまり手間がかかっていないのか……?”と不安になる人がいそうだが、GSX-S1000/Fの完成度に自信を持っていたからこそ、KATANAの開発陣は大がかりな仕様変更を行わなかったのだろう。

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GSX-S1000/FをベースにKATANAを開発するにあたって、スズキが外装以外に新作したパーツは、適度な絞り角が設けられたアルミ製テーパーハンドル、着座位置が15mm高くなると同時に約80mm前進するシート、スイングアームマウント式のナンバープレートホルダー、現行GSX-R1000をベースとする多機能液晶メーターなど。外観からは判別できない新作としては、真円→バリアブルタイプに変更されたスロットルプーリー、テールカウルに合わせて構造を見直したシートレール、セッティングの最適化を図った前後ショックなどが挙げられる。なおカラーリングについては、初代を彷彿とさせるシルバーに加えて、過去のカタナシリーズには存在しなかったブラックが設定された。

スズキ カタナ 試乗インプレッション

“低くて長い”かつてのカタナとは異なり
新世代のKATANAは“高くて短い”

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新世代KATANAは、かつてのカタナシリーズのDNAを継承しているのか? このモデルには、多くのライダーがそういった関心を抱いていると思う。そして僕自身としては、乗り味にかつてのカタナとの共通点は感じなかった。あえて言うなら、重厚なエンジンフィーリングと車体の安定性に、かつてを思わせる雰囲気が少しはあるけれど、そのあたりはGSX-S1000/Fも同様なのである。ちなみに、僕が意外だったのはライディングポジションと乗車感で、かつてのカタナが低くて長いと思える構成だったのに対して、新世代KATANAは高くて短い。この事実は新世代KATANAの開発陣が、かつてのカタナの再現を意図していないことの証明と言えるだろう。

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もちろん、かつてのカタナのDNAを継承していないからと言って、KATANAの乗り味がいまひとつ……なわけではまったくない。何と言ってもこのモデルの基本構成は、2015年の発売以来、世界中で好セールスを記録し、僕自身もかなりの好感を抱いている、GSX-S1000/Fと同様なのである。そもそもGSX-S1000/Fは、サーキットユースを前提としたGSX-R1000の魅力を、ストリートに照準を合わせて見事な再構築を図ったモデルで、その資質をほぼそのまま引き継いだKATANAも、日常域でスポーツライディングが存分に楽しめる特性を備えているのだ。

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とはいえ、KATANAの乗り味はGSX-S1000/Fと同じではなかった。条件さえ整えば、すぐに飛ばしたくなってしまうGSX-S1000/Fに対して、上半身の前傾度が穏やかになったKATANAは、一定速度を維持してのまったり巡航が楽しめるし、その一方で着座位置が前方かつ上方に移動したためか、常用域で前輪の接地感が把握しやすいうえに、場面によってはスーパーモタード的な走りが満喫できる。こういった乗り味の変化には、銘柄をダンロップD214→同ロードスポーツ2に変更した前後タイヤも利いているはずだが、GSX-S1000/Fにロードスポーツ2を履いても、同じ感触は得られないだろう。なおGSX-S1000/Fとは一線を画するKATANAの美点としては、スロットルプーリーのバリアブル化によって、開け始めの唐突さが解消されたことも好感触で、GSX-R1000のK5~8をルーツとするエンジンの官能性に、僕は改めて感銘を受けることとなった。

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昨今では世界中の多くの2輪メーカーが、過去の名車をモチーフとするネオクラシックモデルを販売している。そしてそれらに乗ると、僕の場合はライディングポジションや足まわり、細部の仕上げなどに、何らかの違和感を抱くことが少なくないのだが、KATANAにはそういった雰囲気がほとんどなかった。もちろん、KATANAは既存のネオクラシックというジャンルに当てはまるモデルではないものの、それでもあえて、ライバルになりそうな機種と脳内比較をしてみると……。KATANAはすべてのタッチと反応が実直で、スポーツライディングを阻害する要素が見当たらないのだ。そのあたりを考えると、乗り味に共通点がなくても、KATANAは伝統の車名にふさわしい資質を獲得しているのだと思う。

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スズキ カタナ 詳細写真

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4本のボルトで固定されるスモークタイプのスクリーンは、かつてのカタナよりコンパクトな印象。灯火類はすべてLEDで、角型ヘッドランプは、ロー:上のみ、ハイ:上下が点灯する。フロントマスクの下部にはポジションランプを設置。

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アッパーカウル+タンクカバーは、かつてのカタナの意匠を継承。インナー式燃料タンクの容量は、かなり控えめな12L。アルミ製テーパーハンドルは専用設計で、GSX-S1000/Fと比較すると、グリップ位置がやや上方に移動している。

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多機能液晶メーターは現行GSX-R1000用がベース。イグニッションをオンにすると“刃”のロゴが表れる。ギアポジション左にはトラクションコントロールの設定を表示。燃料計は結構アバウトだが、航続可能距離が表示できるので心配は無用?

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GSX-S1000/Fと共通の水冷並列4気筒は、マニアの間で名機と呼ばれているGSX-R1000K5~8用の発展型。低中速トルクが充実しているのがこのエンジンの特徴で、73.4×59mmという数値は、K9以降と比較するとロングストローク指向。

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カラーリングは異なるものの、排気系もGSX-S1000/Fと同様の4into1式で、リアショック下部に膨張室、異形断面のサイレンサー手前に電子制御式バタフライバルブを設置。音量はかなり大きいので、早朝の住宅街では気遣いが必要だった。

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形状はまったく異なるけれど、表皮がツートーンで後端に3本のリブが刻まれた専用設計のダブルシートには、かつてのカタナに対する敬意が感じられる。公称シート高はGSX-S1000/Fより15mm高い825mmで、この数値は海外仕様も共通。

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シート下はギュウギュウという印象で、収納スペースはまったくナシ。ETCユニットを装着するとしたら、左右の小さなシートカウル内かアッパーカウル内のいずれかになりそうだ。車載工具はかなり寂しく、スパナと六角棒レンチが1本ずつ。

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フロントまわり+シートとは異なり、テール周辺にかつてのカタナを再現しようという意識は感じられない。荷物積載用として、シート裏面には格納式ループ、タンデムステップ部にはフックが備わっているものの、使い勝手はあまりよくなさそうだ。

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ステップはラバーを装備しないスポーティなデザイン。なおKATANAでは各部のブラックアウトが徹底して行われており、GSX-S1000/Fではゴールドだったフォークアウター、金属地のままだったマフラーも、ブラック仕上げに変更されている。

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GSX-1000/Fから譲り受けたカヤバ製φ43mm倒立フォークは、KATANAの特性に合わせて油面を変更している。フロントブレーキはφ310mmディスク+ラジアルマウント式ブレンボ4ピストン。大容量ラジエターはラウンドタイプ。

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左右非対称スイングアームはGSX-R1000L6から転用。リアブレーキはφ250mmディスク+ニッシン片押し式1ピストン。GSX-S1000/FのタイヤがダンロップD214だったのに対して、カタナは専用チューニングが行われたロードスポーツ2を採用。

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ナンバープレート/リアウインカー用のホルダーは、スズキ初のスイングアームマウント式。リアショックはバネレートを見直すと同時に、スプリングのカラーを黒→赤に変更している。シートレールとタンデムステップブラケットは専用設計。

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