市販車をベースとするプロダクションレース。その頂点クラスは、いわゆるスーパーバイクカテゴリーで鈴鹿8耐、全日本JSB1000、SBK(世界選手権スーパーバイク)、AMAスーパーバイクなどがそうだ。多少レギュレーションは異なるものの、思いのほか厳しい音量規制がある。JSB1000の1,000cc 4気筒だと105dB (5,500rpmで計測。レース後は許容誤差3dB)。同じような近接排気騒音測定で、JMCAだと94dB(平成22年度規制)だから、かなり緩いと思うけもしれない。けれど、究極のパフォーマンスを求める世界でこれはかなり厳しく、ピットで聞いていてもレーシングマシンとしてはかなり静かだ(MotoGPは4気筒エンジンで130dB/5,500rpmなので、ほぼ直管でO.K.)。
そして社内のレース部門から「マシンのパフォーマンスアップもあって従来のR-11では音量規制ギリギリだ、という声が上がったんです。それで、より消音効果の高いサイレンサー開発に着手しました」と、開発を担当した米山雄介さん(マフラー事業部マフラー開発課)。
エンジンパフォーマンス、バンク角、重量、サイズ、強度など、満たさなければならない要件は多く、しかもそのレベルは高い。そこで生まれたのが、スクエア断面のR-11Sq(スクエア)だった。
全日本や鈴鹿8耐に投入された新型マフラーR-11Sq。ところが周囲の反応はというと…「スズキ系サテライトチームは気が付いたものの、ライバルチームやほとんどのプレス関係者は見ぬけなかったようです。」(米山さん)。これはヨシムラの狙いのひとつでもあった。デザインコンセプトはR-11のイメージを踏襲することだったからだ。
消音効果を上げるために容量アップを図りながら、デザインは大きく変えない。R-11のままスケールアップしただけではデザインが美しくない。かと言ってまるで違うのもダメ。スクエア断面のサイレンサーは、ほんの少し違う。それがいいのだ。
ボリュームアップは、レース用のR-11と比較して、容量と、ウール(吸音材)がプラスとなっている。「音量はマイナス2~3dBです。小さな数値に思えますが、音量的には大差ですよ」と、米山さんは言う。
また、新しいスクエア断面になったことで、強度面も入念に検討された。R-11が採用する三角形断面は、強度的に有利な構造だったが、スクエア断面ではまた違った検討が必要だったのだ。「スクエアの角のアールの取り方、面のアール・大きさ、溶接位置などいろいろです」(米山さん)
レース用は狙い通りの消音効果とパフォーマンスを得た。そして当然ストリート用市販品も同時開発だった。R-11は優れたデザインとパフォーマンスを持っているけれど「1,300~1,400ccクラスのメガスポーツバイクには少し小振りでは?」という意見もあった。1,000ccスーパースポーツまでだったら、その小振りさがスポーティ感や軽快感を増幅させてくれる。
「でも、もっと大きな車体では存在感が物足りない感じもありました。それがボリュームアップしたスクエア断面のサイレンサーは、それらビッグバイクの車格に合いますね」(米山さん)。
好都合だ。もちろん大き過ぎず、見た目にも程良い存在感とスポーティさを演出していなければいけない。消音効果は十分だ。大排気量車にも問題なし。音質は容量に余裕がある分、より重厚で耳に心地好いサウンドになった。
「全体はR-11より大きいのに、さほどサイズアップを感じさせないように工夫しました」と、米山さん。
確かに、R-11(写真下)とR-11Sq(写真上)を並べてみれば大きさの違いがわかるが、車体に装着してしまうと、あまりに車格にマッチしているので、大き過ぎるという感じはまるでない。
新たに登場したR-11Sqのファーストリリースは、GSX-R1000、GSX-S1000/F、YZF-R1/R1M、Ninja H2用のスリップオン。今後はビッグバイクを中心にラインアップが増えていきそうで、これらのモデルのオーナーからは熱い期待が寄せられるだろう。R-11の兄弟サイレンサーR-11Sqは、ヨシムラマフラーの新しい顔になっていくと言えるだろう。
R-11Sqの特徴は、斜め後ろからだとよく分かる。スクエア断面は台形状で、車体側の面が大きい。この絶妙な断面形状と、サイレンサーカバー金属部の形状・面積、エンドカバー(カーボン)の占める大きさなどから、単体では決して大き過ぎず、スポーティさを巧みに表現している。レーシングマシンで実証済なのでバンク角は充分。レース用とストリート用は構造が若干異なるものの、外側サイズはほぼ同じ。まさにレースシーンからのフィードバックだ。
美しいスクエアのエンドカバーはカーボン。本体サイレンサーカバーはステンレス、メタルマジック(ステンレス素材の表面をエッチング加工しブラック塗装)、チタン、チタンブルーの4種類。もちろん政府認証で車検対応だ。
サイドビューでR-11と大きく違うのが、この専用エンブレム(サイレンサーはメタルマジック仕様)。前方への方向性があって、シャープなスポーティさを上手く演出している。
肉抜きされたリベットバンドも新型だ。強度も充分検討され、デザイン的にも軽さと高級感をさりげなくアピールする。なお、R-11も2016年からエンブレムとリベットバンド(肉抜き仕様)をリニューアルしている。
ヨシムラマフラーにはすべてQRコードとシリアルナンバーがレーザー加工で入っている。JMCA対応サイクロンには品質2年保証だ。
肉抜きリベットバンドとともに、ヨシムラの拘りを見せるのがマフラースプリングだ。共振音防止用ゴムにまでロゴが入る。小さなパーツながら所有感を満たしてくれる。さすがだ。
ヨシムラレーサーのベースマシンなのだからR-11Sqが似合わないハズがない。レーシーでかつ程良い存在感もある。まさに“直系”のマフラー。抜けの良さはさすがヨシムラだ。
すでにR-11がラインアップするが、新型スクエアも登場。スタイルと音質の違いで、ちょっと迷ってしまう。贅沢な悩みだ。GSX-S系のスタイル向上には最適なマフラーのひとつだ。
YZF-R1/R1Mの車体と見事にマッチしたスクエア断面。クロスプレーンクランク独特の排気音が、より力強くなる。
STDマフラーよりずっとコンパクトなのだが、戦闘的なNinja H2のスタイリングと存在感に負けず、似合う。そして軽量化の効果はかなりのもの。サウンドは重厚だ。
1954年に活動を開始したヨシムラは、日本を代表するレーシングコンストラクターであると同時に、マフラーやカムシャフトといったチューニングパーツを数多く手がけるアフターマーケットメーカー。ホンダやカワサキに力を注いだ時代を経て、1970年代後半からはスズキ車を主軸にレース活動を行うようになったものの、パーツ開発はメーカーを問わずに行われており、4ストミニからメガスポーツまで、幅広いモデルに対応する製品を販売している。
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