【TRACER900】ハードな環境でのキャンプ・ツーリングにも対応(アウトライダー菅生)
掲載日/2018年11月29日
取材協力/ヤマハ発動機販売株式会社
撮影/柴田雅人  レポート/菅生雅文  構成/アウトライダー、バイクブロス・マガジンズ

雨と寒さと重装備。TRACERはどうこなす?

バイクに乗る理由は人それぞれだろうが、バイクを手に入れて何がしたいかと問われたら、誰もが「ツーリング」と答えるのではないだろうか。遠く見知らぬ土地を目指すロング・ツーリングにはロマンがあるし、パートナーとふたりで週末の郊外を軽く流すタンデム・ツーリングも楽しいものだ。

スポーツ性能とツーリング性能の両面を巧みに融合させたヤマハTRACER900には、そのどちらも快適にこなす実力がある。では、ツーリングのさらなる魅力のひとつ、キャンプ・ツーリングの実力はどうだろう。

11月初旬、僕はTRACER900に野営道具を満載させ、錦秋の富士山麓をめざした。秋冬のキャンプは寒さ対策のためにシュラフが厚くなるし、防寒着も必要で、装備が重くかさばるもの。しかも朝からあいにくの雨と、条件としてはかなりハード。逆に言うと、TRACER900のキャンプ・ツーリング性能を確認するには最高の条件となるだろう。

雨に濡れる「ふじあざみライン」。富士山中腹の5合目を目指して駆け上がっていく、全長約11kmの長いワインディング・ロードだ。もともとスリッピーな道だが、雨でさらに滑りやすく、こんな時にトルクフルなバイクでスロットルをラフに扱うのは危険。TRACER900には制御の強さを「1(弱)」「2(強)」「OFF」から選択できる2モード選択式TCS(トラクション・コントロール・システム)が備わっているので、迷わず「2(強)」へ。もちろん過信せず、慎重なスロットル・ワークでコーナーを抜けていく。

降雨時、あるいは寒風の吹く季節にあるとありがたいのがフロントスクリーン。冷たい雨に直接打たれずに済むから、ずいぶんとラクになる。TRACER900のフロントスクリーンは、片手で簡単に高さを調整(5mm 単位で10段階)できるため、状況に応じて微調整でき、快適だ。大きめのナックルガードも、雨や風から両手を守ってくれた。

D-MODE(走行モード切替システム)が役立つ

ふじあざみラインは自動車専用道路ではないが、いつ来ても歩行者を見かけることがない。そのためか、踏み歩かれることのない路肩には雨や汚れによるヌメリがあり、バイクを路肩に寄せて停車する際、接地した靴の底が滑って、怖い思いをしたことが何度もある。勾配のある路面では、雨水がアスファルトに筋を作っており、その雨水の流れに路肩のヌメリ成分が溶け出しているようで、スロットル操作は慎重にせざるを得ない。

TRACER900は、出力特性を3段階に切り替えられるD-MODE(走行モード切替システム)を搭載している。標準モードの「STDモード」と、よりシャープでダイレクトなレスポンスを発揮する「Aモード」、穏やかで扱いやすい出力特性を楽しめるモード「Bモード」と3段階ある中から、雨によるスリップを考慮して「Bモード」へ。スロットル開閉に対するレスポンスが滑らかになり、より安心して走行できるようになる。2モード選択式TCSと合わせ、有効に活用したい機能といえる。

「ハンドリングのヤマハ」と呼ばれるだけあって、リアシートに重たいキャンプ装備を満載しているにもかかわらず、ワインディングでの軽快感は良好。TRACER900の対向ピストン4ポットラジアルマウントキャリパー・フロントブレーキも、操作性に優れ、繊細さが要求される濡れたアスファルトでのブレーキングも不安なく行えた。

午後になると雨が小降りに。豪雨の中でテントを張るのは憂鬱なものだが、これなら大丈夫そうだ。食料などの買い出しは、出がけに自宅近くのスーパーですべて済ませてある。ふじあざみラインからキャンプ場へ、TRACER900をのんびり走らせる。

キャンプ・ツーリングに適した特性

広葉樹に覆われたキャンプ場は、まさに錦秋の世界だった。管理棟からフリーサイトへと続く細道を、ローギアで走る。未舗装で砂利も浮いているが、TRACER900のアップライトな乗車姿勢のおかげで走りやすく、ABSやTCSも的確に機能してくれている。車両乗り入れが可能なキャンプ場では、未舗装路を少しばかり走らなくてはいけないケースが多々あるので、このTRACER900の対応力はありがたい。

赤いモミジの下にTRACER900を駐め、手早くテントを張る。イスとテーブルを広げ、焚き火台に火をおこす。今回のリアバッグは、キャンプ・ツーリングを想定して作られた容量70リットルの大型バッグだ。キャンプ用品はすべてコンパクトなもので揃えているが、冬用の装備となると、どうしても量が増える。容量70リットルでも、ほぼいっぱいとなった。けれどもオプションのサイドケース(片側22 リットル、税込価格7万4,520 円)のおかげで、積載量にはまだまだ余裕があった。サイドケースは防水性が高いので、シュラフなど濡らしたくない荷物を仕舞うのに向く。今回は逆に、濡れてしまったレインウエアを一時的に保管するのに使った。濡れたレインウエアをテントの中に入れずに済み、助かる。

ヤマハスポーツバイク取扱店では、2018 年12 月28 日までの期間中、TRACER900(※GTを除く)の新車を成約した方に16万2,000 円分(税込)のクーポンをプレゼントしている。ワイズギアカタログ掲載の用品購入費用として使えるので、サイドケースを買うなら絶好のタイミングだろう。

長距離走行でも疲れにくく、積載性が高く、つくづくツーリング向きのバイクだと思う。それでいてスポーツ性能も極めて高い次元にある。これ1台で何でもこなす、マルチパーパス性がTRACER900の魅力だ。

グラブバーが積載性の高さに貢献

大型のリアキャリアが備わっているわけでもないのに、なぜこれほどシートバッグが積みやすいのか。その答えはグラブバーにあった。TRACER900のグラブバーはタンデム時、パッセンジャーにとって実にいい位置にあるものだが、リアシート上面とほぼ同じ高さにあり、しかもワイドに広がっているため、横長の大型バッグを積んだ際にしっかり支えてくれるのだ。おかげでバッグの安定性が増し、コーナリング時に大きくぐらつくこともない。がっちりと確実に積めるということは、走る喜びを損なわないということでもある。TRACER900は、開発陣がそもそもツーリング好きなのではなかろうか。グラブバーひとつでさえ、よく考えられていると感心するばかりだ。

バッグはヘンリービギンズのキャンプシートバッグDH-713を使用。横幅は700mmもあるが、横に張り出したグラブバーのおかげでがっちりと支えられている。左右に振ってもぐらつかないので、コーナーでも安心だ。

荷物の安定性をさらに高めようと、リアシートとバッグの間に塩化ビニル製の滑り止めシートをはさんだ。今回使用したバッグは底面に滑り止め加工が施されていたが、そうではないバッグを積む際にはかなり効果が高まるはずだ。

TRACER900のサイドケースステーは肉抜きされていて、バッグの固定用ベルトを取り付けるのに好都合な形状だった。位置的にもちょうどよく、固定用ベルトが真下に引けて、着座時に尻と干渉しなかった。

リア側の固定用ベルトは、サイドケースの接合部に巻き付け、グラブバーをひと巻きさせて安定度を高めてからバッグに接続した。サイドケースが装着されていない場合は、固定用ベルトのループを接合部のホール部分に通せばいいだろう。