取材協力/Technix(テクニクス) 取材・写真・文/淺倉 恵介  構成/バイクブロス・マガジンズ
※記事内の表示価格はすべて税別 
掲載日/2015年3月12日

高性能ショックユニット”ナイトロン”や、オリジナリティ溢れる足回りパーツ”TGR”を擁し、サスペンションのスペシャリストとして広く知られるテクニクス。そのテクニクスが、全く新しいフロントフォークチューニングメニューTASCをスタートさせた。高性能なオリジナルカートリッジダンパーを使用したTASCが、新たな走りの地平を切り開く。

WHAT IS TASC?

どんなフロントフォークにも
高性能なカートリッジ式ダンパーを装着

バイク乗りであれば、サスペンションの重要性は身に染みているハズ。自分にあったサスペンションを手に入れれば、走りの世界は激変する。リアショックユニットを、高性能な社外品にリプレイスするのはカスタマイズの定番だ。だが、フロントフォークのアップグレードはなかなか難しいのが現状。車種別専用品が多く用意されているリアショックと異なり、フロントフォークは社外品のラインナップ自体が少ない。また、専用品が用意されている車種は少数で、汎用品を使用する場合はセットアップに時間もコストもかかる。そして何より社外品のフロントフォークは非常に高価だ。

TASC for YAMAHA MT-09 9万円

MT-09のフロントフォークをリーズナブルにグレードアップ。ノーマルのダンパーと交換することで減衰力を高め、走行性能を大幅に引き上げる。写真に写っているのがフロントフォーク1本で使用する専用パーツ。ノーマルには存在しない、圧側ダンピングアジャスターも追加される。

グレードアップすれば効果が大きいことが解っていながら、手を出しにくいのがフロントフォーク。だが、そんなジレンマを解消する画期的なサービス「TASC」を、サスペンションのスペシャリストのテクニクスがスタートさせた。TASCとはTechnix Advanced Smart Cartridgeの頭文字をとったもの。そのネーミングに「Cartridge=カートリッジ」とあるように、高性能フロントフォークの多くに採用されている、カートリッジ式ダンパーの組み込みを中心としたフロントフォークチューニングメニューなのだ。

 

フロントフォーク内部の重要部品に、スプリングとダンパーがある。スプリングは荷重を受け止めショックを吸収、タイヤを路面に押しつけるのもスプリングの役割だ。では、ダンパーの仕事とは何か? 簡単にいえば、スプリングの動き方を制御するのがダンパー。ダンパーが無ければスプリングは無駄に伸び縮みを続け、走行中フロントフォークは不安定に動き続ける。また、ブレーキングで不要なノーズダイブを避けるのも、コーナリング中に車体を安定させるのもダンパーが大きな役割を果たしている。サスペンションに欠かせない重要パーツ、それがダンパーなのだ。

フロントフォークが伸び縮みする時、ダンパー内をフォークオイルが移動し、その時に発生する抵抗を利用して減衰力を発生させる。ダンパーロッド式は、オリフィスと呼ばれる穴にフォークオイルを通過させることで減衰力を発生させる。カートリッジ式は、カートリッジ内に設けられたバルブを設け、そのバルブをオイルが通過することで減衰力を発生させる。バルブは、蓮根のような穴が開いたピストンを中心に、上下にシムと呼ばれる板バネが積層された構造。ピストンの形状や、様々な強度のシムを組み合わせることで、精密な減衰力のコントロールが可能。

テクニクスのTASCは、ダンパーロッド式のダンパーをカートリッジ式にコンバート。また、カートリッジ式ダンパーを採用する車種でも、高性能なオリジナルカートリッジに交換することで、大きくパフォーマンスを向上させる。しかも、フロントフォーク本体は活かしたままなので、フロントフォーク自体を交換することに比べ、はるかに低価格を実現している。サービスの価格帯は8万円?10万円といったところ。性能アップを考えると大バーゲンプライスだ。

 

TASCのサービスを利用するには、フロントフォークを車体から取り外しテクニクスに送ればいい。メニューの価格には、フロントフォーク1セット(2本)分のパーツ代金と加工賃が含まれている。もちろんテクニクスに車両を持ち込んでの作業も可能。その場合、脱着工賃が別途必要になるが、可能であれば車両持ち込みでの作業がオススメだ。実車両があれば、車体に合わせて、サスペンションセッティングのアジャストにも対応してもらえるからだ。

 

また、注文時にサーキットでの性能を上げたい、乗り心地をよくしたい等のオーダーを加えれば、特性のアジャストにも対応してもらえる。具体的な希望がなくても「なぜフロントフォークをアップグレードしたいのか?」「フロントフォークで気になる部分」などのコメントを加えれば、問題に対処してくれるという親切な対応も嬉しい。

奥はMT-09のノーマルダンパーで、手前がTASCのダンパー。TASCのダンパーは、完全オリジナルで製作されたものだ。

PHILOSOPHY

TASC誕生のストーリーと
驚きのパフォーマンス

テクニクス代表 井上浩伸

バイクショップに勤務していた時にレースメカニックの経験を積み、サスペンションへの知識を深めその重要性を知る。サスペンションの専門店テクニクスを設立し、サスペンションユニットのメンテナンンスやチューニング、オリジナルパーツの開発などを行う。日英合作の高性能ショックユニット、ナイトロンも井上さんが手がけるパーツのひとつ。バイクの足回りに関しては卓越したノウハウを持つ、サスペンションのマエストロ。

フロントフォークがセットされた機械はショックダイナモと呼ばれる計測装置。サスペンションに様々な負荷を与え、その特性を数値化する。

TASCで使用されているカートリッジは、テクニクスが独自開発を行ったもの。開発には膨大な時間とコストが注ぎ込まれている。そこまでして、なぜTASCをスタートしたのか? テクニクス代表の井上さんに、その理由を訊ねてみた。

 

井上「よりリーズナブルにフロントフォークのアップグレードを実現したい。何より、それが一番大きな理由です。当社はサスペンションのスペシャルショップですから、サスペンションに関する様々な相談が持ち込まれます。中でもフロントフォークに問題を感じられているユーザーさんは、とても多いんです。高性能な社外品のフロントフォークが存在する車種なら、交換するという手もある。ですが、対応する製品が無い車種もたくさんあります。その場合、加工したりチューニングパーツを組み込んだりして対応してきたのですが、やはり理想の性能を得るのは難しい。特にダンパーロッド式の場合は、チューニングしても効果が小さい。ならば、自分達が理想と考えるカートリッジ式ダンパーを作ってしまえ!!ということです」

 

とは言うものの、コトは簡単ではなかったハズ。コストが高いのがカートリッジ式ダンパー。なぜ、低価格を実現できたのだろうか?

 

井上「コストパフォーマンスは重視しました。TASCのターゲットとして考えているのは、車両価格が比較的リーズナブルな車種です。例えばですが、新車価格が50万円のバイクに、30万円するフロントフォークを装着するのは躊躇しますよね? そもそも、車両価格が低めの車種には、社外品のフロントフォークの設定がほとんどありません。小中排気量車や、大型でも価格帯の低い車種はフロントフォークをグレードアップする楽しみを味わえなかったんです。その状態をなんとかしたかった。そのためには、価格は出来る限り抑えたかった。TASCのカートリッジのボディは基本的に1サイズなんです。長さを車種別に合わせ、内部のバルブの構成を変えて車種ごとのセッティングを出しています。汎用性を持たせることで、コストを下げています」

 

また、車種別メニューを開発する時にも、テクニクス独自の哲学が息づいている。

 

井上「開発時にはなるべくサーキットを使わないように心がけています。一般的なライダーは、ほとんどストリートをメインとして走りを楽しんでいますよね。その主なシチュエーションで、最大限に性能を発揮できなければ意味がありませんから。ですが、スポーツ性を重視していないというわけではありません。当社のスタッフには、プロのレーサーレベルから一般ライダーまで、様々な技量のライダーが居ます。皆で試乗を繰り返して、あらゆるライダーが納得できる性能とキャラクターのフロントフォークに仕上げています」

 

サスペンションの開発にはトライ&エラーが付き物。テクニクスでは、サスペンションの特性を数値化できるショックダイナモを活用しているが、ショックダイナモで理想的な特性が計測できたとしても、必ずしも実走で良いフィーリングを得られるとは限らない。作っては走り、作っては走りを繰り返して、一歩一歩TASCの開発は進められるのだ。

 

現在、メニューが完成しているのはヤマハ MT-09(9万円)、カワサキ ZRX1200DAEG(9.5万円)、ホンダ グロム(8万円)の3車種(いずれもパーツ代、工賃込み)。それぞれの車種の乗り味が、どう変わるかについても語ってもらった。

 

井上「MT-09は、フロントフォークのストローク量が大きいことを気にされるユーザーさんが多いのですが、ストローク量が大きいこと自体は問題ではないんです。ですが、減衰力が足りないのでストロークするスピードが速過ぎると考えています。MT-09のフロントフォークは、ダンピングを強めるだけでスポーツ性を大きく高められます」

 

MT-09のフロントフォークは、元からカートリッジ式ダンパーを採用しているが、モディファイに向かない構造のため、カートリッジごと交換するTASCの開発を決めたという。

 

井上「社外品のフロントフォークに適当なものも見当たりませんし、あったとしてもフォークごと交換するとコストも高い。その点、TASCは良い選択肢だと思います。減衰の効いた落ち着きのある味付けに仕上げてありますから、MT-09でスポーティに走りたいのなら、是非試していただきたいですね。ノーマルフォークのダンピング調整は伸び側しかできませんが、TASCでは圧側の調整機構も追加したので、セッティングの幅も広がります」

 

なお、MT-09はリアショックも減衰力不足の傾向があるとのことで、テクニクスではTASCと同時に社外品のリアショックに交換することを推奨している。前後のサスペンションをグレードアップすることで、MT-09の走りは飛躍的に向上するのだそうだ。

 

井上「ダエグのフロントフォークは、初期の動きは良いのですが中間から奥に入った部分で急激に減衰力が立ち上がる傾向があります。その領域ではフロントフォークの動きが悪くなり、前輪が跳ねるような挙動を示す場合もあります。ブレーキングでストロークが止まると、フロントが切れ込むこともありますし、ここは全域でスムーズに動かしたいところです。ダエグもカートリッジ式ダンパーを採用しているのですが、カートリッジが非分解式でモディファイ出来ません。なのでTASCを開発しました。フロントフォークのストロークを使い切れるので、しなやかな乗り味になりますね。街中でもツーリングでも快適に走れるハズです。ワインディングも、より楽しめると思います」

圧側減衰力の計測データ伸び側減衰力の計測データ

ふたつのグラフはMT-09用フロントフォークの減衰力を計測したもの。縦軸が発生した減衰力の強さ、横軸はサスペンションが動くスピードを表している。左が圧側の減衰力で、赤、青、明るい緑はノーマルダンパーの標準、最強、最弱の計測データ。紫、黒、濃い緑はTASCの標準、最強、最弱の計測データだ。ノーマルは減衰力が低い上に、調整してもほとんど変化がないことが解る。対してTASCは、減衰力がしっかりと高められており、アジャストした場合も大きな変化が得られることがグラフに表れている。右は伸び側減衰力の計測データで、赤、青、明るい緑がノーマルダンパー。紫、若草色、浅葱色はTASCだ。TASCの調整範囲の広さは歴然。減衰力自体も強いが、力の立ち上がり方も大きく変えられている。

人気のファンバイク、グロムではノーマルではダンパーロッド式のダンパーをカートリッジ化。さらに、伸び側/圧側のダンピング調整機能も追加されている。

 

井上「グロムのフロントフォークは、絶対的に減衰力が足りません。カスタマイズが楽しいバイクですから、リアショックを社外品に交換しているユーザーさんは多いのですが、リアの性能が上がるとフロントフォークの弱さが余計目立ってしまうんです。ですが、社外品のフロントフォークや流用品に適当なものが無くて、フロントフォークのアップグレードが難しい状態だったんです。エンジンがパワフルですから、それではもったいないですよね。TASC化すれば、フロントタイヤを使ってコーナリング出来るようになります。ファンバイクがスポーツバイクに生まれ変わる感じですね、スポーツライディングが楽しくなりますよ。街乗りでも、フロントタイヤの接地感が上がって、落ち着いた上質な乗り味になります」

 

今後、開発が予定されているのはヤマハのYZF-R25、MT-07、ホンダのNCシリーズなど。なお、メニュー化されていない車種でもTASC化は不可能ではない。その場合、納期は最低でも1ヵ月は考えて欲しいとのこと。イチからTASCを開発するのには、それだけ時間がかかるのだ。また、ワンオフ製作の場合、車種によって価格は変動するので、まずは一度テクニクスに問い合わせてみよう。

 

最後に、井上さんはこう語ってくれた。

 

井上「サスペンションで悩みを抱えていたり、もっと性能を上げたいとお考えなら、是非一度テクニクスに相談してみてください。当社のスタッフは皆バイク乗りですから、同じライダーとしてユーザーさんの気持ちが理解できます。サスペンションのグレードアップは、TASCの他にも様々な方法がありますし、必ず良い御提案ができると思います。サスペンションに手を加えることで、お客様から『良くなったよ』と言っていただけることが、我々にとっては何より嬉しく感じることなんです」

 

サスペンションにかける情熱と、他の追従を許さない技術力。そして何より、バイクを愛する気持ちを忘れないテクニクス。サスペンションに関することなら任せて間違いない。

 

PICKUP PRODUCTS

TASCは完全車種別専用設計
マシンごとの違いを見てみよう

ノーマルのフロントフォークは、使用されている車種によって外観やサイズはもちろん、内部構造も様々だ。TASCはカートリッジ本体の基本パーツこそ共通品としているが、車種によって使用するパーツや加工の内容は大きく異なる。例えば、スタンダードでは調整機能を一切持たないグロムの場合、ダンパーの調整機能を実現するため、トップキャップにアジャスターが追加される。当然、見た目からして変わってくる、ここではTASC化されたマシンのディティールを見てみよう。

TASCを装着したMT-09。外観ではステッカーくらいしか変化がないが、その性能は大きく変えられている。

スプリングも変更するパーツに含まれる。手前がTASCのスプリングで、線径がやや細く、シングルレートを採用していることが分る。

フォークのトップキャップを加工しているところ。ノーマルでは装備していない、圧側ダンピングアジャスターを追加するためだ。

追加装備された、圧側ダンピングアジャスター。レッドアルマイトのアジャスターノブがスペシャル感を強調する。。

この車両はナイトロンのリアショックも装着。完全独立3系統のダンパーを持つ、フルアジャスタブルのトップモデルで価格は18万1000円。TASCとのマッチングは最高だ。

TASCが組み込まれたグロム。小さくても、本格的な足回りを手に入れている。

減衰力調整機構を追加装備。左右それぞれで、伸び側/圧側を調整する。

奥はノーマルのダンパーロッド式ダンパー、手前がTASCのカートリッジ式ダンパー。構造の違いは一目瞭然だ。

グロムのリアショックもナイトロンをチョイス。圧側ダンパーは高速側/低速側が独立して調整可能で、伸び側と合わせて3系統の減衰力調整が可能。小さくてもフルスペックで、価格は10万8000円(税抜き)

10これがカートリッジの心臓部ともいえるバルブ。緑色のベルト状の部品が巻かれている部分がピストン。ピストンの上下を挟むように、シムが積層されている。

11テクニクスのファクトリー、この場所でTASCは作り出されている。広大で、整理整頓が行き届いた空間は、精密な作業が要求されるサスペンションには最適の環境だ。

SHOP INFORMATION

有限会社テクニクス

サスペンションのメンテナンスとチューニングを手がける他、ナイトロン製ショックユニットやオリジナルブランドパーツTGRなど、バイクの足回りに関係する分野でのサービスを幅広く展開。サスペンションで悩んだら、一度相談してみよう。

住所/埼玉県春日部市備後東4-5-40
電話/048-733-9055
営業/9:00-19:00
定休/日曜、祭日
公式サイト/http://www.technix.jp

 

 

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