掲載日:2020年01月10日 レトロバイク・グラフティ
イラスト・文/藤原かんいち
僕が通っていた工業高校で不良のたまり場のような場所だった。全員ほぼリーゼント、鞄はペッタンコ、放課後は当たり前のように原付を乗り回していた。そんな中で、僕ひとりサイクリング車に熱中、関東の峠の全制覇を目指して走り回っていた。
高校時代は全く縁がなかったが、20歳の時、普段の足用に友人からスクーターを安く譲ってもらった(車の免許は持っていた)。運転してみると、これが想像以上に面白い。すぐにスクーターでは物足りなくなり、ギア付きにステップアップすることにした。どんなバイクがあるのか? 書店で雑誌を手に取りパラパラと捲った、そこで目にとまったのがホンダラクーン。
当時、僕の中で旅するバイクと言えば「アメリカン」だった。どこまでも広い大草原に一直線に伸びる道をプルバックハンドルのアメリカンバイクが駆け抜けて行く。そんなシーンを想像すると胸が高鳴った。
さらにラクーンの『スーパー2サイクルの「ザ・原宿バイク」、ファッションボーイズ&ギャルズのため…』というキャッチコピーも僕を引き付けた。20歳と言えば何よりカッコつけたいお年頃。「ラクーン乗っていたら、女の子にモテちゃうかもなぁ、へへへ」秘かにほほ笑んだ。ところがしばらくしてヤマハRX50なるバイクがあることをわかった。RX50の方がサイズは大柄、出力パワーもある。揺れ動く浮気心、若者の決意はもろく砕け散り、結局RX50を購入することに……。
ラクーンに乗ることはなかったが、その名だけは心に焼き付いている。