YAMAHA FACTORY RACING TEAMのアレックス・ロウズ(Alex Lowes)は、SBK(世界スーパーバイク選手権)のサマーブレイクを利用して8耐に参戦。今季SBKでは参戦後初勝利を記録しその後も上位に食い込むなど、調子のいい状態で鈴鹿へやってきた。ロウズの後ろはTeam Greenのレオン・ハスラム(Leon Haslam)。
マイケル・ファンデルマーク。SBKでもPATA YAMAHAでロウズとチームメイトのオランダ人ライダー。彼もまた今年SBKで初勝利を挙げて、好調をキープしたまま鈴鹿8耐に参戦。ファンデルマークの走行中は何度もセーフティーカーが入るなど、なかなか自分のペースで走れない中、確実に周回を重ねて最終スティントのロウズへバトンを渡した。
前日のフリー走行でハイサイドを喫し、決勝で走ることができなかった中須賀克行選手。今年もコツコツとマシンを仕上げてきて鈴鹿に臨んだ中須賀選手だけに誰よりも無念だったはず。
レース終盤、3位との差をキープしながら勝利への周回を続けたロウズ。
19:30のチェッカー後、ピットエリアに戻ってくるロウズを多くの観客たちが出迎えた。ホームストレート周辺は大歓声に包まれた。
前人未到の鈴鹿8耐4連覇を成し遂げたYAMAHA FACTORY RACING TEAMの3人。
「(転倒の影響で)100%のパフォーマンスが出せないと決勝の朝に判断した」と語った中須賀選手。くやしさをにじませながらもロウズとファンデルマーク、そしてチームスタッフの労をねぎらい、2019年の鈴鹿8耐に向けて「歴史を作りたい」と力強く語った。
「中須賀選手は本当に素晴らしいバイクを作ってくれた。パワーもあるし、乗り心地も良いし、良いマシンだった」と中須賀選手への謝辞を述べたロウズ選手。来年への意気込みもチラリ。
記者団から「中須賀選手が走れないと聞いた時どう思ったか」と聞かれて、ひとこと「●hit!」と言って会場を沸かせたファンデルマーク選手。スタートライダーの役目は相当な緊張を強いられたそうだが、無事に役目を果たせたことに満足していたようだった。
スタート直前の雨でフルウェットとなった中で好スタートを決めたRed Bull Honda with 日本郵便の高橋巧選手。最初の周回をトップで戻ってきて鈴鹿の大歓声を沸かせた。
HRCは2018年に10年ぶりに8耐へ復帰。MotoGPライダーの中上貴晶選手を招聘したのも大きな話題となった。その中上選手は日本のレースファンを目の前に熱い走りを見せたが、優勝には届かず。
Red Bull Honda with 日本郵便では高橋巧選手、中上貴晶選手のチームメイトにSBKからレオン・キャミア選手を招聘していたが、7月上旬の合同テストでキャミア選手が負傷。代役として走ったのがパトリック・ジェイコブセン(Patrick Jacobsen)選手。
レース後の会見で「来年はもっとしっかり準備をして臨みたい」と話した高橋選手。「完成状態ではないバイクをしっかり走らせてくれた2人にも感謝している」とチームメイトにも感謝を述べていた。
「来年チャンスがあるのなら、『打倒ヤマハ』でまた戦いたい」と言葉少なに語った中上選手。悔しさをにじませるその表情は硬かった。
開口一番「難しい1日だった」と話したジェイコブセン選手。「雨のテストもしていなかったし、HRC復帰という重圧、知らない環境という緊張もあった。もっとベストを尽くせたとも思う。悔しい」と語った。
前日の予選で2分5秒台をたたき出して1995年以来のポールスタートをもぎとったKawasaki Team Green。オープニングライダーを務めたのはBSB(ブリティッシュ・スーパーバイク)から招聘されたレオン・ハスラム(Leon Haslam)選手。昨年も鈴鹿8耐に出場したハスラムは今年も安定した速さを見せた。
フリー走行で鈴鹿コースレコードとなる2分5秒168をたたき出し、8耐ファンの度肝を抜いたジョナサン・レイ(Jonathan Rea)選手。どのスティントでも異次元の速さを見せたが、ピットイン時のガス欠、セーフティーカー投入中の転倒もあり、カワサキ悲願の優勝にはあと一歩届かず。
ピットイン中のハスラム選手。来年はSBKでジョナサン・レイとチームメイトになることが決定している。来年の鈴鹿でも彼らの姿が見れるかも!?
最終スティントを任されたTeam Green唯一の日本人ライダー、渡辺一馬選手。耐久経験も豊富な渡辺選手は安定した走りで3位表彰台を確実なものとした。
「色々なことがあった中で、3位を獲得できたことは良かったと思う」と語るハスラム選手。
「難しいコンディションの1日だった」と少し疲れた表情で語るレイ選手。セーフティーカー投入中の転倒について聞かれると「一瞬のことで何がなんだか分からなかったよ。フルウェットでスリックを履いていたから自分としてはピットに入りたかったが、そのままステイしろという指示だった。無視してでも入ればよかったかもね」とコメント。
「本当に悔しいです。今年は勝てる体制でした」と語った渡辺選手。「でも、2年続けて表彰台に乗れたことは素直にうれしいです」とも。すでにリベンジに燃えているだろう。
4位に入賞したS-PULSE DREAM RACING TEAM(井形秀之/トミー・ブライドウェル:Tommy Bridewell/渡辺一樹組)。写真はブライドウェル選手。
5位入賞を果たしたのはF.C.C. TSR Honda France(Freddy Foray:フレディ・フォーレイ/Josh Hook:ジョシュ・フック/Alan Techer:アラン・ティシェ組)。この入賞により、世界耐久選手権にフルエントリーする日本のチームとして初めてFIM世界耐久選手権の年間チャンピオンに輝いた。写真はジョシュ・フック選手。
【左上】フレディ・フォレイ選手【右上】アラン・ティシェ選手【左下】世界耐久最終戦の鈴鹿にランキングトップの状態で臨んだF.C.C. TSR Honda France。耐久巧者らしい安定した戦いぶりを見せた。【右下】記者会見でF.C.C. TSR Hondaの藤井監督は「この鈴鹿で勝つために今までやってきた。鈴鹿の表彰台は別格なんですよ。だからチャンピオンを獲れたことは本当にうれしい。我々のようなチームでも世界一になれるんだと証明できた。でも来年はレースでも優勝したいね」と早くも来年への抱負を語った。
8位に入賞したKYB MORIWAKI MOTUL RACING(清成龍一/高橋祐紀/Dan Linfoot:ダン・リンフット組)。写真は高橋選手の走り。
世界耐久選手権を戦うヤマハチームにも注目が集まった#7はYART YAMAHA(Broc Parkes:ブロック・パークス/Marvin Fritz:マーヴィン・フリッツ/藤田拓哉組)。YAMAHA FACTORY RACING TEAMと同じくYZF-R1・20周年カラーのマシンを走らせたが、65周でリタイアとなった。
こちらもスペシャルカラーのYZF-R1で参戦したGMT94 YAMAHA(Mike Di Meglio:マイク・デ・ミリオ/Niccolo Canepa:ニッコロ・カネパ/David Checa:デイビッド・チェカ組)。YART YAMAHA同様世界耐久選手権にフルエントリーしているチームで、今回は6位に入賞した。
8耐に欠かせないチームといえばやっぱりここ。YOSHIMURA SUZUKI MOTUL RACINGは、シルバン・ギュントーリ(Sylvain Guintoli)、ブラッドリー・レイ(Bradley Ray)を招聘。JSB1000でエースを務める津田拓也選手と3名の布陣で鈴鹿に挑んだ。
JSBでもチームを引っ張る津田選手。この日は序盤にギュントーリ選手が転倒してしまうが、その後は各ライダーの走りで挽回。最終的には総合10位にまで追い上げた。
2014年にはアプリリアワークスでSBKチャンピオンにも輝いたギュントーリ選手は現在スズキMotoGPのテストライダーも務めるライダー。今年の鈴鹿では開始1時間後にバックマーカーと絡んで転倒してしまった。
今年のBSBでは開幕戦からダブルウィンを飾り、超注目のルーキーとして期待されているブラッドリー・レイ選手。アフロヘアとメガネの強烈なキャラクターも一部ファンの間で話題となったようだ。初めての鈴鹿ながら、キラリと光る速さを見せつけたレイ選手はチームの猛烈な追い上げに貢献した。
名ライダー、ケビン・シュワンツ(Kevin Schwantz)氏を監督に迎えたTEAM KAGAYAMA U.S.A(加賀山就臣/Joe Roberts:ジョー・ロバーツ/浦本修充組)は11位入賞。写真はエースの加賀山選手。
8耐の常連、MuSASHi RT HARC-PRO.Honda(水野涼/Dominique Aegerter:ドミニク・エガーター/Randy De Puniet:ランディ・ドゥ・プニエ組)は、序盤にドゥ・プニエが転倒。修復後レースに復帰するが、123周目にリタイアとなった。写真はエガーター選手。
写真はドゥ・プニエ選手。かつてMotoGPでカワサキワークスライダーも務めたライダー。
日本車以外では一大勢力となっていたBMW勢。#39はBMW Motorradのオフィシャルチーム、BMW Motorrad39(酒井大作/Damian Cudlin:ダミアン・カドリン/Alexander Cudlin:アレクサンダー・カドリン組)。写真の酒井選手にとって昨年は自身の出走前に転倒があるなど悔いの残るレースだったが、今年は安定した走りを見せてBMW勢最上位の13位を獲得した。
レース終盤、トップを走るロウズ選手(#21)に食らいつくS1000RR(#80)は、TONE SYNCEDGE 4413の渥美心選手。改造範囲の狭いSSTクラスのマシンだが、序盤はトップ10位内をキープするなどその速さを見せつけた。
度重なるセーフティーカーの投入や目まぐるしく変わる天候など、例年以上に先の読めない8時間の戦いはヤマハの4連覇という劇的な幕切れとなった。昨年以上に観客の盛り上がりも大きかったように感じた。