【KTM 890 ADVENTURE/R試乗記】パンチが増して林道トレックもより快適に、アドベンチャーを超えたガチオフ性能だ!

掲載日:2021年08月06日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/佐川 健太郎 写真/渡辺 昌彦 

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KTM 890 ADVENTURE / R

KTM 890アドベンチャー/R 特徴

排気量拡大で10psアップ、信頼性も高められた

KTMではアドベンチャーモデルを「TRAVEL」のジャンルとして定義している。つまり旅をするバイクである。今回試乗した890 アドベンチャー/Rはまさに道を選ばずどこまでも行ける、冒険心を刺激するミドルツアラーだ。

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890 アドベンチャー には2つのタイプがある。スタンダードモデルの位置付けとしての890 アドベンチャーに対し、「R」はサスペンショントラベル量を増やしてブロックタイヤを装備するなど、オフロード性能をさらに高めたモデルだ。

従来の790アドベンチャーRから最も変わったのはエンジンだ。水冷並列2気筒の基本レイアウトはそのままに排気量を889ccに拡大。合わせて吸排気バルブの拡大やバランサーの改良、ピストンの軽量化とクランクマスの増加などにより最高出力も10psアップの105psへと向上。メンテナンスサイクルを伸ばすなど信頼性も高められている。

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車体面ではクロモリ製鋼管トレリスフレームにアルミ製スイングアーム、WP製前後サスペンションなどの基本構成は従来モデルを踏襲しつつ、ステムまわりの強化やサブフレームの軽量化、クイックシフター(アップ&ダウン)を採用。出力向上に合わせて車体をアップデートした正常進化版と言ってもいいだろう。

KTM 890アドベンチャーR 試乗インプレッション

Vツインとパラツインの“いいとこ取り”

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このマシンを読み解くカギは790アドベンチャーから採用された並列2気筒エンジン「LC8c」にある。小文字のcはコンパクトの意味で、従来のVツインより小さく軽いユニットだ。点火サイクルは435度に設定され並列2気筒でありながら頂上モデルの1290アドベンチャーが搭載するLC8(75度Vツイン)と似た鼓動感と回転フィールを持っている。

つまり、トラクションに優れるVツインとコンパクト設計のパラレルツインの“いいとこ取り”なのだ。LC8の75度Vバンクに対して、クランクを75度捻る(435度-360度=75度)ことでこれを実現している。そして、新型では排気量が約90cc上乗せされた。

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路面を蹴り出す鼓動感とスムーズな吹け上がりは従来の790同様だが、スロットルを開けた瞬間のレスポンスとパンチ力がより強烈に、クランクマスが20%高められたことで粘り強さが出て低速一定での走りが安定した。たとえば、林道などをトロトロとトレッキングするときも安心・快適で、ガレ場で半クラを当てながら通過するときでもエンストしづらく精神的にも楽である。これは欲しかった部分だ。

テストコースはフラットダートだが、雨でだいぶ緩んでいる。さっそくライドモードを「オフロード」にセットして走ってみたが、スロットルレスポンスは穏やか、かつパワーの出方も抑えられるので走りやすい。KTMというブランドが持つレーシーで過激なイメージは、乗ってみると決してそれが全てではないことが分かる。例えばコーナー立ち上りなどで不用意にアクセルを開けても安全圏内でスライドを収めてくれるので、滑りやすいダート路面でも安心して走ることができるのはメリットだ。

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ただし、もう少しアグレッシブに走りたいときはラリーモードがおすすめ。ディスプレイ上に表示されるトラコンレベルを9段階から選べるため、路面や走り方によってより細かい設定ができる。今回のように表土がヌルヌルの路面では、トラコンレベルを2~3程度まで下げると保険をかけながら適度なスライドが楽しめて丁度良い感じだった。ちなみに以前、790アドベンチャーRの海外試乗会でパウダーのように細かい砂が舞うモロッコの砂丘にトライしたときは、トラコンをOFFにしないと前に進めなかった。というように、モード設定によって瞬時に走りを最適化できるので、ライダーにとっては精神的ストレスが減り、実際のところスキル的な敷居も大幅に下げてくれる。まさに文明の利器だ。

エンデューロ的に走れてアドベンチャー的に快適

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車体面での進化は正直分からなかった。というよりも、そこまで走り込む時間がなかった。ステム周りが強化されて、WP製前後サスも新型に合わせてセッティングが見直されているようだが、一見しただけでは見分けがつかないしスペック的にもストローク長や最低地上高も変わっていない。排気量拡大によるパワーアップに対応して各部を調整した感じだろうか。

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ひとつ言えるのは低重心がもたらす安定感。これは従来の790アドベンチャーから初採用された“ロワータンク”と呼ばれる車体左右に振り分けられた頑丈な樹脂製の燃料タンクによるところが大きい。1回の給油で400kmを走破する20Lタンクはそれだけでバイクの重心バランスに大きく影響を与える。これがエンジンを取り囲むように左右に振り分けられたことで重心が下がり、Uターンのような極低速でもフラつきが少ないし、後輪がスライドしたときでも挙動が安定していて復元しやすい。ヒザまわりがスリムでスタンディングしたときにホールドしやすいメリットもある。ダカールラリーを何度も制覇したラリーマシンで実証されたノウハウとのことだが、たしかに理にかなっていると思う。

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同時に1290アドベンチャーRとも乗り比べたので印象をお伝えすると、1290はとにかく巨大でパワフル。どんな道でも持ち前のパワーと電子制御の威力で突進する。走りもヘビー級だが安定感も抜群だ。対する890アドベンチャーRはこれに比べると明らかにフットワークも軽やかで、登りや下りのセクションもトライしやすく全般的にオフロードでの走破性は高い。エンデューロとアドベンチャーの中間的なモデルといった感じだ。ただ、身軽なぶん車体の動きも速いので、攻めていくとライダーにも相応のスキルが求められると思った。1290のほうがおっとりしているので、マシン任せでどーんと走りたい人には向いているかも。タイヤの違いも感じられた。890が標準でメッツラーのKAROO3を装着しているのに対し1290はBSのAX41を履くのだが、ヌタヌタ路面ではAX41のほうがスライドしたときのグリップが安定していると感じた。

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KTM 890アドベンチャー 試乗インプレッション

日本に最適サイズのエンデューロツアラーだ

一方、スタンダードモデルの890アドベンチャーはというと、ロングスクリーンや前後セパレートタイプのダブルシート、オン&オフタイヤなどの装備からも分かるように、よりオンロード向けに最適化されている。

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エンジンと電子制御系は基本的に「R」と共通だが、車体面では主に前後サスペンションが異なっていて、同じWP製でもよりオンロードでの走りを重視したセッティングになっている。スペック的にもストローク量はRの前後240mmに対してこちらは200mmと短く、それにともなって最低地上高も30mm削られているが、その分シート高も30mm低い850mmに抑えられている。当然オフロードでの走破性は「R」に一歩譲るが、逆にオンロードでのハンドリングや快適性は優れていると言える。

実際のところ、200kgを切る車重に100ps強の十分なパワーとトラクションに有利な不等間隔爆発のエンジンフィールを持つ890アドベンチャーは、日本の道を旅するには最適解とも言えるバランスが整った一台だ。デュアルバランサーを装備することで鼓動感はあるが振動が少なくスムーズなのは従来どおりだが、特に新型ではクランクマスが増えて高速道路を一定速度でクルーズするような走りがより快適になった。

今回ダートは試す時間がなかったが、前後21/18インチのワイヤースポークホイールと標準装着タイヤのAVON・トレールライダーの組み合わせにより、見た目以上にオフも走れることはアフリカ・サハラ砂漠のガレ場でも従来型790で実証済み。「R」がつかない890でも普通の林道レベルならまず問題なく走破できるはずだ。

もし自分が九州や北海道までバイクで旅をするなら、890アドベンチャーにフルパニアを装備して走りたいと思う。

KTM 890アドベンチャー/R 詳細写真

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790デュークで初採用された水冷並列2気筒エンジン、通称LC8cはKTMのミドルレンジを担う最新ユニット。890アドベンチャー/Rではボア・ストロークを共に拡大しつつ動弁系やピストン、クランクなど全面的に改良され最高出力は10psアップの105psを発揮。最大トルクも1割以上向上させた。

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中央のヒートシンクを挟んで左右縦3段に並んだLEDヘッドライトの周囲をLEDポジションランプが囲むKTM独特のデザイン。調整式スクリーンはSTDモデルのハイスクリーンに交換することも可能。フレームマウントによりハンドリングへの影響を最小限にしている。

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1回の給油で400km以上の走行を可能とする20Lタンク。通称“ロワータンク”と呼ばれる左右に振り分けられた構造はラリーマシン由来の設計。容量を稼ぎつつ低重心化により安定性とコントロール性を高めている。

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オフ走行を前提としたシートは前後左右への動きやすさを重視したワンピースタイプを採用。快適性を優先したい場合はSTDモデルのダブルシートにも交換可能だ。グラブバーを兼ねた本格的なリアキャリアを標準装備。

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フロントブレーキはφ320mmダブルディスク&ラジアルモノブロック4Pキャリパー、リア側はφ260mmディスク&2Pキャリバーを採用し盤石な制動パワーを発揮。傾斜角センサー付きのコーナリングABSを採用。フロントフォークはWP製XPLORφ48mm倒立タイプで左右別個に圧側、伸側のダンパー調整機構を備える。

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アルミ鋳造製スイングアームは補強用のリブが外側に剥き出しになったKTM独特のオープンラティス構造。軽量化とともにメンテナンス性にも優れる。リアショックは軽量シンプルなリンクレス構造のWP製XPLORを採用。もちろんフルアジャスタブルだ。

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シフトアップ&ダウンの両方向に対応するクイックシフターを装備。操作フィールはスムーズ、全域でほぼクラッチは使わずにギヤチェンジできるため非常に便利だ。ステップバーにはゴム製ラバーが付くがオフ走行時には簡単に取り外し可能。

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KTM独特の十字キータイプのコントローラーでディスプレイ画面やモード切り換えが可能。シンプルなレイアウトで直観的に操作できる。上側のスイッチはクルーズコントロール用。

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スロットル制御はBosch製 EMS ライドバイワイヤーを採用。ライダーのスロットル操作や走行状況に合わせてスロットルバルブの位置を最適化する。

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5インチフルカラーTFTディスプレイを採用。画面はラリーモードでタコメーター下に表示された数値(写真では5)はトラコンのスリップ調整レベルを表している。シフトポジション、シフトタイミングも表示。画面は周囲の明るさに合わせて自動的に白黒反転する。

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