【ヤマハ テネレ700 試乗記】新世代のテネレは、本気のオフロード車‼

掲載日:2020年07月29日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/中村 友彦 写真/伊勢 悟

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YAMAHA TENERE 700

パリダカレーサーをルーツとする
ヤマハ伝統のテネレシリーズ

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サハラ砂漠中南部の呼称として使われることもあるけれど、テネレはサハラ砂漠を活動範囲とするトゥアレグ族の言葉で、“何も無いところ”という意味である。ヤマハがこの呼称を量産車で初めて使ったのは、1983年に登場した空冷単気筒のXT600で、1985~1989年のパリダカールラリーに参戦した多種多様なファクトリーレーサー、1991年から発売が始まった水冷単気筒のXZT660シリーズでも、テネレという呼称を使用。その一方で同社は、1989年型XZT750を筆頭とする並列2気筒車に、スーパーテネレというペットネームを与え、1990~1992年のパリダカ用ファクトリーレーサーYZF750T/850Tや、2014年以降のXTZ1200でも、その姿勢を維持して来た。

ただし、2020年から発売が始まる並列2気筒ミドルアドベンチャーツアラーは、兄貴分との差別化を図ると同時にシンプルさを意識したのか、XTZもスーパーもナシのテネレ700という車名を採用。ちなみに、昨今では優勝から遠ざかっているけれど、ヤマハはかつてのパリダカの主要メーカーで、1979/1980年の第1/2回大会で劇的な優勝を実現し、以後の10年間はBMWやホンダ、カジバに苦戦を強いられたものの、1991~1993年には3連覇、1995~1998年には4連覇を達成している。

ヤマハ テネレ700 特徴

ライバル勢とは異なる思想で生まれた
アドベンチャーツアラー界の異端児

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前述したように、現代の2輪の分野に当てはめるなら、テネレ700はミドルアドベンチャーツアラーで、ライバルになりそうな機種は、スズキVストローム650/XT、BMW F750/850GS、KTM 790アドベンチャー、トライアンフ・タイガー900シリーズ各車、モトグッツィV85TTなどである。もっともそれらの中では、126万5000円という価格はかなり安いほうで、テネレ700を下回るのは90万円台のVストローム650/XTのみ、同価格帯と呼べるのは130万円台のF750GSのみだ。

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また、オフロードに特化したテネレ700のキャラクター、前輪が21インチで、ホイールトラベルがF:210/R:200mmという素性を考えると、動力性能で競合車になり得るのは、790アベンチャー:156万3000円~、F850GS:156万1000円~、タイガー900ラリー:166万円~の3機種くらい。そのあたりを考えると、テネレ700は直接的なライバルが存在しない、孤高のモデルなのかもしれない。

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さて、ライバル勢との差異を語るうえで価格の安さから話を始めてしまったが、それ以上にテネレ700で驚くべきことは、新規開発部品の多さである。現代のミドルアドベンチャーツアラーの大半が、オンロードバイクと基本設計を共有するのに対して、テネレ700が既存のモデルから転用したのは、MT-07をルーツとする並列2気筒エンジンだけ。それ以外は何から何まで、足まわりや外装は言うに及ばず、フレーム+スイングアームや吸排気系も新規開発。となると、どうして価格が126万5000円?という疑問が湧いてくるわけだが、キモになるのは電子制御だ。テネレの電子制御はオン/オフ切り替え式ABSのみで、近年のミドルクラスで流行の兆しを見せている、ライディングモードやライドバイワイヤ、トラクションコントロール、電子調整式サスなどは、一切採用していない。その事実をどう感じるかは人それぞれだが、ヤマハの姿勢に共感するライダーは少なくないだろう。

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ミドルクラスに限った話ではないものの、アドベンチャーツアラーオーナーの多くは、オン9:オフ1という割合で愛車を使っている。頻繁に林道に出かける人でも8:2前後で、7:3というケースはめったにないと思う。そういった実情を把握していたにも関わらず、テネレ700の開発陣は、オン1:オフ9という姿勢で開発をスタート。その背景には、“オフロード性能がしっかり作り込まれたモデルは、市街地を含めた日常域=オンロードも楽しめる”という意識があったそうだ。

ヤマハ テネレ700 試乗インプレッション

オフロードコースを走って感じた
濃密なトラクションと圧巻の悪路走破性

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あら。想像していたほど、小さくはないんだな……。それがテネレ700と公道で初めて対面した、第一印象である。オフロードに特化したキャラクターということで、個人的にはもっとコンパクトで軽快なイメージを抱いていたものの、テネレ700の車格感はライバル勢とほとんど同等。意外な気がしたのでスペックを確認してみると、1590mmの軸間距離は、現代のミドルアドベンチャーでは長めの部類だった。もっとも205kgの装備重量は、クラストップの軽さなのだが(この数値に太刀打ちできそうなのは、乾燥重量が189kgのKTM 790アドベンチャーくらいだろう)、少なくとも走り出すまでのハードルは、決して低くはない。でも丸一日に及んだ試乗で、僕の好感度メーターがマイナス方向を指したのはこのときだけで、以後はずっとプラス方向に振れっぱなしだった。

市街地を走っての印象は、アドベンチャーツアラーと言うよりオフロード車。単気筒を搭載する一般的なオフロード車と比較すれば、車格はかなり大きく、エンジンはパワフルだけれど、良好な視界とリラックスできるライディングポジション、4輪車の間を縫うようにシャキシャキ走れる感覚は、紛れもなくオフロード車。シート高は875mmもあるので、誰もが気軽にではないけれど、身長170cm以上のライダー、あるいは、オフロード車に慣れたライダーなら、日常の足として普通に使えるだろう。

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ただし高速道路では、テネレ700はアドベンチャーツアラーとしての資質を披露してくれた。なかなかの防風効果を発揮してくれるスクリーン+フェアリングのおかげで、一定速度での巡航は楽々。法律的に許されるなら、180km/h前後で走り続けることが可能な雰囲気である。と言っても、車高が高くて悪路を考慮したタイヤを履いているせいか、超高速域での安定感は盤石というレベルではないのだけれど、後述するオフロード性能を体感した後は、そのあたりは取るに足らないことだと思えた。

続いてはワインディングロードの話で、よく走り、よく止まり、よく曲がるというのが、さまざまな状況を走っての率直な印象である。いや、その表現だと何が何だかわからないが、テネレ700は基礎体力が抜群に高くて、どんな状況でもスポーツライディングが楽しめてしまうのだ。逆に言うならこのバイクを走らせていると、多種多様な電子制御って、本当に必要?という疑問が芽生えて来るほど。とはいえ、テネレ700の運動性を僕が本当の意味で理解したのは、イメージ写真の撮影と別媒体の取材のために向かった、オフロードコースだった。

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先にお断りしておくと、僕のオフロードの腕前はどう考えても中級以下なので、当初はテネレ700でコースを走るつもりはなかったのである。とはいえ、別媒体の取材で現場に来ていた全日本エンデューロチャンピオン、池田智泰さんの評価が、「かなりイケますよ。カテゴリーはアドベンチャーツアラーかもしれませんが、このバイクは本気でオフロードに取り組んでいる。KTMの790アドベンチャーには及ばない部分がありますけど、日常域での使い勝手を考えると、現状の乗り味は大正解でしょう」だったので、モノは試しとコースに出てみたところ……。

いやはや、本当にイケたのである。もちろん当初は恐る恐るだったものの、慣れが進んでくると、リアを流したりジャンプしたりといった行為が、意外にソツなくこなせてしまう。そしてそうやって走っているうちに、僕はこのバイクの2つの美点に気づいたのだ。

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1つ目は、足まわりがとてつもなくしっかりしていること。これまでにオフロードを走ったアドベンチャーツアラーでは、前輪が凹凸に弾かれてビビったり、ジャンプ後の着地でグシャッ!というイヤな感覚を味わったりすることが多かった僕だが、テネレ700にはそういった気配がない。たいていの凹凸は余裕で弾き返せるし、ジャンプ後はすぐに加速態勢に入れる。そして2つ目はトラクションの濃密さ。MT-07用として開発された270度クランクの並列2気筒は、もともと後輪が路面を蹴る感触がわかりやすかったものの、テネレ700はその資質に磨きがかかっているようで、コーナーの立ち上がりでアクセルを開ければ、適度に横方向に流れながらも、後輪が車体をグングン前に押し進めていく感触が味わえる。耐摩耗性やオンロード性能を考慮した純正タイヤでここまでの走りが出来るのだから、悪路に特化したタイヤを履けば、当然、さらにオフロードライディングが楽しめるだろう。

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改めて振り返ると、テネレ700のプロトタイプとなるT7が初公開されたのは2016年で、あまりにも待たされたため、正直言って最近の僕の気持ちは微妙に萎えていた。同時にこんなに開発に時間をかけてしまうと、コンセプトが古くなってしまうんじゃないかという心配もしていた。でも実際のテネレ700は、ライバル勢とは狙いが異なるモデルで、その魅力は今後どれだけ年月が経過しても古くならないんじゃないか、と思えるものだったのだ。とりあえず現在の僕は、何とか機会を作って、このバイクでもっと多くの距離を走ってみたいと思っている。

ヤマハ テネレ700 詳細写真

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独創的なフロントマスクは、近年のダカールラリーに参戦しているヤマハのエンデューロレーサー、WR450Fを思わせる雰囲気。4灯式LEDヘッドライトは、上2灯がローで、ハイビームでは4灯すべてが点灯。ナックルガードは標準装備。

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オフロード車然としたハンドルは、近年ではミドル以上のオンロード車でも定番になったアルミ製テーパータイプ。MT-07やXSR700とは異なるスイッチボックスは、ヤマハにとっては一世代前の製品。メーター左には12V電源ソケットを設置。

ラリーレーサーを彷彿とさせる縦型メーターは、最近の流行であるTFTではなく、モノクロ液晶。画面右上の枠内にはギアポジションインジケーターを設置。バーグラフ式タコメーターは、8000rpmを境にして表示が縦から横に変わる。

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16Lのガソリンタンク容量は、現代のミドルアドベンチャーの平均より少ないものの、左右のシュラウドと合わせて考えると、幅は決して狭くはない。ただし、ライディング中のフィット感はすこぶる良好だった。

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シート高は875mm。日本で販売されるオプションはSTD-20mmのローのみだが、海外では+41mmのラリーシートも併売。なおヤマハ自身が開発したロー仕様は、リアサスのリンクにも手を加えることで、837mmのシート高を実現。

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シート後部の左右に備わるボルトは、オプションのサイドケースステー装着用。もちろん、コードやネットを使って荷物を積載する際にはフックボルトとして使えるのだけれど、そういう用途だともう少し出っ張りが欲しいかも。

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テールランプはLED。ライバル勢と比べると、リアフェンダーはかなり後方まで伸びている。なおテネレ700は前後に長いバイクで、全長/軸間距離は2370/1590mm。ちなみに、XTZ1200スーパーテネレは2255/1540mmである。

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オフロードタイプでラバー脱着式のステップバーと、可倒式シフトペダルは、近年のアドベンチャーツアラーの必須アイテム。左側のステッププレートは、ドライブチェーンのガイドローラーステーという役割も兼務している。

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270度クランクの並列2気筒はMT-07から転用。吸排気系や2次減速比は専用設計で、内部の変更に関するアナウンスは行われていない。最高出力は73→72ps、最大トルクは6.9→6.8kgf・mに下がっているものの、パワーダウン感は皆無。

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エンジン下部にはアルミ製アンダーガードを装備。専用設計されたフレームの形式はダブルクレードルだが、ボルトオン式のダウンチューブは、剛性にはあまり貢献していない模様。シリンダー左側面にはラジエターのリザーバータンクを配置。

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MT-07やXSR700がショートタイプだったのに対して、テネレ700のマフラーはラリー車を思わせるサイレンサー別体式。リアブレーキはφ245mmウェーブディスク+ブレンボ片押し式1ピストンで、ABSは任意で解除することが可能だ。

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φ43mm倒立フォークは210mmのストロークを確保。アンダーブラケットはアルミ鍛造で、フロントフェンダーはタイヤの外径に応じて高さ調整が可能。フロントブレーキはφ282mmウェーブディスク+ブレンボ片押し式2ピストン。

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アルミ鋳造スイングアームも専用設計。オフロードを重視したタイヤサイズは21/18インチで、純正指定はピレリ・スコーピオンラリーSTR。左側タンデムステップブラケット基部には、日本仕様ならではのヘルメットホルダーが備わる。

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リザーブタンク付きのリアショックは、リモートタイプのプリロードアジャスターを装備。フロントと同様、伸圧ダンパーが任意で調整できる。なおリアのホイールトラベルは200mm。

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“かけがい”を感じるサインドスタンドは、メイン部にH型素材を用いた高品質なアルミ鍛造製。頻繁に使う部品だけに、こういう部分での気配りは嬉しい。センタースタンドはオプション扱い。

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