皆さんはヤマハのセローというバイクをご存知だろうか。バイクに多少興味のある人なら、セローという名は、一度ぐらいは聞いたことがあるかもしれない。
セローは、1985年にヤマハから発売されたいわゆるオフロードバイクである。1980年代といえば、まさにバイクブームで、時代は常に最先端のレースモデルから、あらゆる技術を市販車にフィードバックするのが常だった。最高速や馬力、パワーウエイトレシオといったスペックが注目され、デカいほうがエラい、馬力があるほうがエラい。速いほうがエラい、といった尖った時代だ。それだけにレーシー過ぎるモデルが多く、扱いきれない性能を持て余すということが多かったのも事実だ。
そんな時代に逆行するように、山を散歩する感覚「マウンテントレール」というコンセプトで発売されたのが1985年の初期型セロー225だ。
XT200をベースに開発されたスリムでコンパクトな車体、103kgという軽量さ、810mmの低いシート高、Uターンも楽にできるハンドル切れ角、そして低速で粘るエンジンと、低いギア設定など親しみやすいキャラクターで登場したのだった。
事実その走破性は高く、林道ではもちろん、林道からさらに山へと続く獣道なども両足をバタバタさせながら進む「2輪2足走行」で楽しめた。それまでのオフロードバイクには薄かった、この人馬一体感によりセローは一躍人気者に。
当然、スリム、軽量、コンパクト、扱いやすいエンジンといった要素は女性や初心者からも支持された。初心者には親しみやすく、経験者には新しい楽しみを与えたセローは、こうして確固たる地位を得た。
その後、ブレーキはドラムからディスクへ、キックからセルへといったマイナーチェンジが幾度となく繰り返されるも排気ガス規制の影響により、225は2004年に終了。そして2005年からは排気量を上げたセロー250として生まれ変わるのだった。
しかし排気量が250になり、デザインがフルモデルチェンジされたにもかかわらず、セローの「マウンテントレール」というコンセプトがブレることはなかった。わずかなサイズの違いや重量増などはあるものの、サイズ感や使い勝手は向上し、むしろそれまでウィークポイントとされてきた高速道路走行が、排気量のアップによって大幅に改善された。
1985年の誕生からすでに31年、そして250にフルモデルチェンジされてから約11年。その間、セローは多くのライダーに親しみやすさや、人馬一体の高揚感を与え続け、今なお数少ないオフロードバイクのラインナップの中でも一際、人気者である。なぜ、ここまでの人気を維持できるのか、と思考を巡らせてみれば、それは「十人十色」のスタイルにマッチし、その汎用性の高さが魅力だからに他ならない。
例えば、通勤通学に使い、街中でキビキビ走る。それまでロードバイクに乗っていた女性が、林道に憧れ入手する。ビッグバイクを持つベテランがセカンドバイクとして気軽に乗る。林道からさら獣道にアタックする。休日にエンデューロレースを楽しむ。スクリーンやキャリヤを装着してロングツーリング&キャンプ仕様にする、などなど。とにかくあらゆるスタイルにセローは高く順応する。そして歴史が長いことからアフターパーツが豊富なのも魅力だ。それぞれがその使い方によって自在にカスタマイズし、快適性を上げ、楽しんでいるライダーが非常に多いのだ。
250に生まれ変わってから10年も経つのに、大きな変更もなくベストセラーであるということは、すでにユーザー側が、自分なりの方法でカスタマイズすることによって、果てしない細分化が行なわれている、ということだ。セローには「道具的」なタフネスさに加え「機能美」がデザインの中に溢れているが、自分流にカスタマイズされた車両は、そこにさらに大きなオーラが加わる。
そんな柔軟で、親しみやすく、機能も充実し、カスタマイズすることで快適性と性能を飛躍させられることこそがセロー250の大きな魅力ではないだろうか。
なんともレーシーなルックスを持つこのセローは、元ヤマハのファクトリーライダーである鈴木健二氏の車両。鈴木氏が参戦しているエンデューロレースJNCCに出場するためにカスタムされたセローだ。前後サスペンション、吸排気系、各所の剛性アップなど、各部に手を加えられているものの、エンジンはほぼノーマルという。このマシンでFUNクラスにおいて見事優勝したのだから、ライダーの実力もさることながらセローのポテンシャルの高さを実証した1台だ。
スクリーンやナックルガード、キャリヤなどツーリング仕様にカスタマイズされたこのセローは、雑誌やウエブでモデルとして活躍中の山下晃和氏の車両。一見、ヤマハのアクセサリーモデルである「ツーリングセロー」に似ているが、身長180cmを超える山下氏に合わせた高めのハンドルセッティングや、夜の林道走行で威力を発揮するLEDフォグライト、サイドバッグサポートなど、林道ツーリングやキャンプでより快適な仕様になっている。
埼玉県三郷市のバイクショップ「T-SPACE」が、ユーザーからのオーダーで製作したスペシャルセローがコレ。そのコンセプトは「林道からケモノ道へ、そしてもっと奥へ」というアタック系ツーリングがコンセプトだ。熱ダレ対策のオイルクーラー、db'sの軽量サイレンサーから始まり、リヤショック、チェーン、レバー、ハンドルガード、前後トライアルタイヤなど、そのカスタムは多岐に渡る。セローの基本コンセプトをより追求した、機能美に溢れたモデルだ。
問:T-SPACE TEL/048-959-0091
ヤマハがよりツーリング向けのアクセサリーを装着してパッケージングしたモデル。林道で飛び出した枝から拳を守るハンドルガード、高速走行で大幅に疲労を軽減するスクリーン、大きな荷物もしっかり安定する大型リヤキャリヤ、そして飛び石や段差の岩からクランクケースを守るアルミアンダーガードの4アイテムを装備。ノーマルから個別に各パーツを追加するよりも2万7700円(税抜き)もお得になるので、キャンプや高速走行も多いなら絶対にこちらがおすすめ。