取材協力/ヤマハ発動機  文/櫻井伸樹  写真/関野 温、高柳 健  構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
掲載日/2017年2月28日

トレッキング・バイクのロングセラー
セローで実現する自分流オフスタイル

ヤマハのセローシリーズは、1985年の発売からモデルチェンジを繰り返しながら、現在も販売されている超ロングセラーモデルである。発売から30年以上経過した今でも、初心者からベテランまで、じつに多くのライダーから支持されている。このベーシックなオフロードバイクの何がそんなに魅力的なのか? 改めてセローの人気を紐解いてみる。

2輪2足のマウンテントレール

皆さんはヤマハのセローというバイクをご存知だろうか。バイクに多少興味のある人なら、セローという名は、一度ぐらいは聞いたことがあるかもしれない。

セローは、1985年にヤマハから発売されたいわゆるオフロードバイクである。1980年代といえば、まさにバイクブームで、時代は常に最先端のレースモデルから、あらゆる技術を市販車にフィードバックするのが常だった。最高速や馬力、パワーウエイトレシオといったスペックが注目され、デカいほうがエラい、馬力があるほうがエラい。速いほうがエラい、といった尖った時代だ。それだけにレーシー過ぎるモデルが多く、扱いきれない性能を持て余すということが多かったのも事実だ。

そんな時代に逆行するように、山を散歩する感覚「マウンテントレール」というコンセプトで発売されたのが1985年の初期型セロー225だ。

XT200をベースに開発されたスリムでコンパクトな車体、103kgという軽量さ、810mmの低いシート高、Uターンも楽にできるハンドル切れ角、そして低速で粘るエンジンと、低いギア設定など親しみやすいキャラクターで登場したのだった。

事実その走破性は高く、林道ではもちろん、林道からさらに山へと続く獣道なども両足をバタバタさせながら進む「2輪2足走行」で楽しめた。それまでのオフロードバイクには薄かった、この人馬一体感によりセローは一躍人気者に。

当然、スリム、軽量、コンパクト、扱いやすいエンジンといった要素は女性や初心者からも支持された。初心者には親しみやすく、経験者には新しい楽しみを与えたセローは、こうして確固たる地位を得た。

その後、ブレーキはドラムからディスクへ、キックからセルへといったマイナーチェンジが幾度となく繰り返されるも排気ガス規制の影響により、225は2004年に終了。そして2005年からは排気量を上げたセロー250として生まれ変わるのだった。

しかし排気量が250になり、デザインがフルモデルチェンジされたにもかかわらず、セローの「マウンテントレール」というコンセプトがブレることはなかった。わずかなサイズの違いや重量増などはあるものの、サイズ感や使い勝手は向上し、むしろそれまでウィークポイントとされてきた高速道路走行が、排気量のアップによって大幅に改善された。

PICKUP CUSTOM SEROW

魅力は十人十色の汎用性の高さ

1985年の誕生からすでに31年、そして250にフルモデルチェンジされてから約11年。その間、セローは多くのライダーに親しみやすさや、人馬一体の高揚感を与え続け、今なお数少ないオフロードバイクのラインナップの中でも一際、人気者である。なぜ、ここまでの人気を維持できるのか、と思考を巡らせてみれば、それは「十人十色」のスタイルにマッチし、その汎用性の高さが魅力だからに他ならない。

例えば、通勤通学に使い、街中でキビキビ走る。それまでロードバイクに乗っていた女性が、林道に憧れ入手する。ビッグバイクを持つベテランがセカンドバイクとして気軽に乗る。林道からさら獣道にアタックする。休日にエンデューロレースを楽しむ。スクリーンやキャリヤを装着してロングツーリング&キャンプ仕様にする、などなど。とにかくあらゆるスタイルにセローは高く順応する。そして歴史が長いことからアフターパーツが豊富なのも魅力だ。それぞれがその使い方によって自在にカスタマイズし、快適性を上げ、楽しんでいるライダーが非常に多いのだ。

250に生まれ変わってから10年も経つのに、大きな変更もなくベストセラーであるということは、すでにユーザー側が、自分なりの方法でカスタマイズすることによって、果てしない細分化が行なわれている、ということだ。セローには「道具的」なタフネスさに加え「機能美」がデザインの中に溢れているが、自分流にカスタマイズされた車両は、そこにさらに大きなオーラが加わる。

そんな柔軟で、親しみやすく、機能も充実し、カスタマイズすることで快適性と性能を飛躍させられることこそがセロー250の大きな魅力ではないだろうか。

セロー 鈴木健二 スペシャル
エンデューロで勝つためのレーシングセロー

なんともレーシーなルックスを持つこのセローは、元ヤマハのファクトリーライダーである鈴木健二氏の車両。鈴木氏が参戦しているエンデューロレースJNCCに出場するためにカスタムされたセローだ。前後サスペンション、吸排気系、各所の剛性アップなど、各部に手を加えられているものの、エンジンはほぼノーマルという。このマシンでFUNクラスにおいて見事優勝したのだから、ライダーの実力もさることながらセローのポテンシャルの高さを実証した1台だ。

ノーマルはナチュラルな志向のセローも、サスペンションの延長とグラフィック、エンデューロタイヤの装着によって、かなりレーシーな雰囲気に。
ハンドルとハンドルガードはともにZETA製を採用。ハンドルガードは剛性を上げるため、トップブリッジに接続される。
シートはワイズギアのハイシートを採用。これにより、前後の移動がよりスムーズになる。

エキゾーストパイプとサイレンサーは、DELTAのバレル4。迫力のサウンドだが公道も対応。
マディ状態で、泥の排出性を飛躍的に向上させるZETAのドライブカラー。ルックスも抜群。

セロー98人アンケート Vol.1
Q. あなたのセローはどれですか?
※現在所有していない方は以前所有した車種にチェック(回答数:98)
ツーリングセローも合算すると現行モデルである「セロー250」が圧倒的に多いようだ。225ccのセローを乗り続けている人もまだまだ多く、時代を超えて「必要十分な性能」をセローが備えていることの証明といえる?
Q. セローを手にしたとき期待したことは?
(回答数:98 複数回答可)
やはり軽さ・コンパクトへの期待が多かった。オフロードといわず、どんな路面状況でも操作しやすい「軽さ・コンパクトさ」は、立派はマシンの性能のひとつと言えるだろう。つまりそれが入門車両としての性能にもリンクしているのだ。

セロー 山下晃和 スペシャル
コツコツと積み上げたツーリング仕様

スクリーンやナックルガード、キャリヤなどツーリング仕様にカスタマイズされたこのセローは、雑誌やウエブでモデルとして活躍中の山下晃和氏の車両。一見、ヤマハのアクセサリーモデルである「ツーリングセロー」に似ているが、身長180cmを超える山下氏に合わせた高めのハンドルセッティングや、夜の林道走行で威力を発揮するLEDフォグライト、サイドバッグサポートなど、林道ツーリングやキャンプでより快適な仕様になっている。

全体を覆う泥やホコリで使い込まれた雰囲気が濃厚な山下号。道具として酷使された美しさに溢れる。
エキゾーストパイプはSP忠男のパワーボックスを装着。6000回転から上が伸びるそうだ。
余分な振動を吸収し、走行中のフレームのヨレを防止することで疲労を軽減するワイズギアのパワービーム。

セロー225の細いマフラーを彷彿とさせるヤマハ純正プラナス製サイレンサー。静かながら音に歯切れがありトルクフル。
セレクションのワイドステップは前後幅が約52mmと超幅広設計。ボルトンで装着可能。

セロー98人アンケート Vol.2
Q. ツーリングで林道に行きますか?
(回答数:98)
驚くことに9割近くのオーナーが林道に行くとの回答。オフロードバイクとは言ってもこの数値は意外。やはりセローと自然の中に分け入りたいのだ。行かないと答えた人も13%超いたが、それは町中もキビキビ走るので舗装路だけでも満足できるということだ。
Q. オフロードコースを走行したことはありますか?
(回答数:98 複数回答可)
6割近くが「コースやレースフィールドを走行したことはない」という回答だった。それだけ自然を楽しむことをメインにしている人が多いのだろう。だが、走行したことがある回答も33%いるということは、セローで草エンデューロ出場も充分に可能だということ。

セロー T-SPACE スペシャル
より奥深くへ分け入るアタック仕様

埼玉県三郷市のバイクショップ「T-SPACE」が、ユーザーからのオーダーで製作したスペシャルセローがコレ。そのコンセプトは「林道からケモノ道へ、そしてもっと奥へ」というアタック系ツーリングがコンセプトだ。熱ダレ対策のオイルクーラー、db'sの軽量サイレンサーから始まり、リヤショック、チェーン、レバー、ハンドルガード、前後トライアルタイヤなど、そのカスタムは多岐に渡る。セローの基本コンセプトをより追求した、機能美に溢れたモデルだ。
問:T-SPACE TEL/048-959-0091

ノーマルに近いルックスだが、細部を見ていくと大幅に違う。T-SPACEオリジナルのグラフィックがナチュラルでいい感じ。
エンジンの左側で存在感を放つオイルクーラー。低速走行が続く山では必需品。
ステップはタンデム製のSPLワイドステップ。後方に約20mmワイドになり、踏み面はやや前下がりに。

スプロケは耐久性の高いISA。チェーンはフリクションロスが少ないEKチェーンを採用。
T-SPACEオリジナルのアルミサイドスタンド。ノーマルより軽く耐久性も高い。底面が広く安定度も向上。

セロー98人アンケート Vol.3
Q. セローを手にして、カスタムしたパーツはなんですか?
(回答数:98 複数回答可)
一番多かったのはハンドルガード。やはり林道での横枝や転倒対策と予想できる。続いてミラーは柔軟性と軽量化。他にハンドル、レバー、エンジンガードなどの操作系、プロテクション系が多かった。
Q. どんなタイヤに交換しましたか?
(回答数:37)
ブロックの高いオフロードタイヤよりもトライアルタイヤを選んだユーザーが多いことが判明。ということはより獣道アタック的なユーザーが多いということか。いずれにしてもやはり林道ツーリングがメインということだろう。

高速もキャンプも快適にこなす純正カスタム

ヤマハがよりツーリング向けのアクセサリーを装着してパッケージングしたモデル。林道で飛び出した枝から拳を守るハンドルガード、高速走行で大幅に疲労を軽減するスクリーン、大きな荷物もしっかり安定する大型リヤキャリヤ、そして飛び石や段差の岩からクランクケースを守るアルミアンダーガードの4アイテムを装備。ノーマルから個別に各パーツを追加するよりも2万7700円(税抜き)もお得になるので、キャンプや高速走行も多いなら絶対にこちらがおすすめ。

ワイドなハンドルガード、フロントキャリヤとスクリーン、大型リヤキャリアなど、旅で役立つパーツを満載。純正品だけあり、フィッティングも完璧だ。
高い防風性を生むアドベンチャースクリーン。スクリーンと車体を接続するフレームには一文字パイプを設置。ここにスマホのマウントが装着可能だ。
ハンドルガードは、ハンドルのセンターとグリップの先端を連結しているので剛性が高い。控えめなツーリングセロー専用のグラフィックがいい感じ。

広範囲でクランクケースを守るアルミアンダーガード。林道に行くなら、まずは着けたい装備だ。
ぶっとい角パイプをベースに作られた、ワイズギアのアドベンチャーリアキャリア。巨大なキャンプ道具も余裕で積載できる。