取材協力/アジアクロスカントリーラリー日本事務局(R1ジャパン) 取材・撮影・文/田中 善介(BikeBros.)
アジアクロスカントリーラリーは、毎年8月にタイを中心として開催される国際ラリーだ。2017年大会の開催概要も発表され、8月13日のスタートに向けて準備が進められている。ここでは2016年、タイ南部のビーチリゾート、パタヤをスタートし、国境を越えて世界遺産であるカンボジアのアンコールワットを目指した2016年大会を振り返りながら、その様子を紹介していこう。
スタート地点のパタヤへは、羽田空港からバンコクの空港まで約6時間。そこから車で2時間ほど移動して到着する。現地は埃っぽい空気に湿った海風が加わり、道路はスクーターやトゥクトゥク、タクシーやバス、それにヒトが激しく行き交う。半日程度の移動時間でそんな空気に身を包まれ、2日後には自走で国境を越えてカンボジアを走り、6日後には世界遺産のアンコールワットでゴールセレモニーとなる。
タイ南部のパタヤをスタートして2日目にはカンボジアへ。6日間で総距離約2,000kmを駆け抜ける設定。昨年の山岳ルートとは変わって沿岸部を南下し、アンコールワットでゴールだ。
2016年大会は、1日目のツルツル路面でテクニカルなルートを除き、全体的にハイスピードな展開だった。沿岸部に近い田園地帯、広大なプランテーション、一部林道といった具合で比較的平たんなシーンが多く、ナビもそれほど細かくない。それに雨季にも関わらず雨が少なかった。日に数回スコールがあるくらいで路面は乾き、場所によっては轍がそのままコンクリートのようにカチコチに固まっていた。
カンボジアの田園地帯を駆け抜けるライダーたち。グリッド状に敷かれた道はワイドオープン必至。突然直角コーナーがあるから気が抜けない。曲がり切れずに真っ直ぐ飛んでしまった選手も……。
天気も良くて路面はドライ。アジアの美しい風景の中を走るとなれば、自ずとライダーの気分は高揚し、ペースも上がる。それに比例してリスクも上がる。ラリーは無事完走してナンボ。前半戦はいかに自制心を取り戻すかがカギだったようだ。
SSにはこういった「見せ場」がある。ライダーは無事クリアすればそれでオッケーだが、撮影する側としてはどこに行けばどんなシーンが切り撮れるのか、行ってみなけりゃわからない。それはそれで面白い。
2016年も前年同様、クルマよりバイクの参戦者の方が多かった。2輪が45人で4輪の倍以上。しかも日本人ライダーが全体の半分以上を占め、そのうちの1人は大会史上初となる女性ライダーだ。彼らにとってアジアクロスカントリーラリーの魅力とは何なのか?
本大会史上初の女性ライダーにして無事完走を果たした「メグさん」こと前嶋恵さん。ライディングスキルもさることながら、的確な状況判断と自己コントロール、常に前向きな精神でクレバーな行動が光っていた。
自分のマシンで異国の地を走るワクワク感や、異文化に触れ非日常の世界に身を置くスリルなどもあるが、初めて参加しようと思ったら、まずどうやってバイクを運ぶのか? 現地で必要なお金は? 食事や燃料は? 事故の際は? ビザや保険は? など、走る以外に考えなければならないことがたくさんある。そういった疑問や不明点は、このラリーを20年以上継続する運営事務局の経験と実績により、すべて明確化されている。
宿泊ホテルの中庭や駐車場など、期間中はリゾートホテルがバイクやクルマで埋め尽くされる。ホテルだけでなく軍や警察、政府、つまり国の協力があって成り立っているラリーなのだ。
したがって「初めてでも参加しやすい国際ラリー」なのだ。必要経費も参加費や滞在費のほか、もろもろ含めてざっと50万円程度。輸送手配など面倒なことは事務局の指示に従い、現地での燃料確保や次の宿泊地への荷物の移送などは日本人のサポートチームが手伝ってくれる。そういった細かい面でのサポートが、海外ラリー参加への敷居を下げてくれる。
2日目の高速ピストンルート(SS3&4)では先が見通せないほどのアップダウンが続く。路面は深い穴や轍、コンクリートの水切りなどがあり、さらに突然視界を遮るスコールに襲われる。
それから、いったいどれくらいのライディングスキルが必要なのか? に関しては、まず完走を目標とするなら、日本で開催されているラリーやエンデューロレースを何度か経験し、タイヤやオイル交換くらいは自分でできて、転倒時のダメージにもある程度対処できるレベルであれば参戦可能だと思う。
ビジネスバイクでCRF250Lを牽引する2人組。聞けばマシントラブルでエンジンがかからず、現場にいた人からバイクを借りてきたとか。その後彼らは無事レースに復帰。バイクもきちんと返したそうな。
大前提として、異国の地を単独で走り抜けなければならないのだからコミュニケーション能力は必須。大会の共通言語は英語だが、現地人にはほとんど通じない。状況がどうであれ「自分のことは自分でなんとかする」という人間が本来持っているサバイバル本能をフルに発揮する必要がある。
ラリー最終日、警察の先導でゴールセレモニーが行われるアンコールワットへ向かう選手たち。安堵と達成感に満たされる時間だ。世界遺産の中を走ることができるのも、本大会ならでは。
敷居が低くて競技レベルは自分次第。ときにハードエンデューロの入門編かと思わせるシーンもありつつ、アジアならではの風景のなかを走り、宿泊はリゾートホテル……。そんなところがこの大会の魅力なのかもしれない。
「一度は海外を走ってみたい」なんて考えている人にはうってつけのラリーイベント。興味のあるライダーは、いますぐにでも準備を進めるべきだろう。