モトクロスIA2ライダーTEAM SUZUKI所属 山本鯨の闘い

掲載日:2012年11月08日 エクストリームモトクロス    

取材・写真・文/ダートライド編集部 取材協力/スズキ株式会社

モトクロスIA2ライダーTEAM SUZUKI所属 山本鯨の闘い

ファクトリー3年目にして見えてきた
タイトル獲得についてレース前夜聞いた

2009年にIB(国際B級)クラスでWタイトルを獲得し、そのままの勢いでスズキファクトリーチーム入りした山本鯨(けい)選手。しかし、そこからは周囲の期待を背負いながらも今までの勢い通りとはいかず、ケガによりシリーズを戦い抜けないなど一気に苦境に立たされた。そんな山本選手が、今シーズン(2012年)、とうとうシリーズを通して戦い抜き、最終戦MFJ-GPモトクロス大会を前にして、ポイントランキング・トップ。本来の力をようやく発揮、とも言えるが、2位とはたったの5ポイント差というまったく気の抜けない状況で、念願のシリーズチャンピオンはまだ遠い。そんな山本選手の元を、決勝レース前日土曜の夕方、ファクトリーテントまで訪ね、短い時間だがその胸中を聞いてみた。

 

3シーズン目にしてようやくここまで来ました。今のお気持ちは?

山本鯨選手(以下、山本)  1年を通して三つ巴の戦いが続いて、1戦も気が抜けない状況がここまで続きました。もちろん「苦しい」という思いもありましたが、「楽しい」という気持ちもあります。接戦もあってのレースですからね。今までの2シーズンをケガで棒に振りましたが、これについては「今の自分の力がこれだ」という事を実感しました。このケガは、実はシーズン中に負ったものではなくIB時代のもので、それが再発したんです。3シーズン前はとにかくケガが酷かったですね。その中で特に酷いのが左肩の脱臼グセで、スズキはファクトリー入り1年目に「手術しなさい」って言ってきたんです。ファクトリー加入1年目ですよ!? 正直、スズキの懐の深さに感激しました。厳しいコンディションでタイトルを争わせて短期間で選手を潰すよりも、時間がかかっても「強いライダーを育てる」という気持ちがあるんですね。それで、シーズン途中でしたが手術を受けました。手術は成功してここで完治、と思ったのですが、2シーズン目(2011年)に同じ症状が再発してしまったんです。肩の脱臼がクセになってしまうのは、路面からの突き上げが激しいモトクロスではある意味致命的。やむなく、再び手術を受けました。2回目の手術は病院を変えたりリハビリをみっちりやりまして、その甲斐あってか、おかげさまで今年はここまで黙ってくれています(笑)。それもあって、ようやくシーズンを通して戦えています。

最終戦2ヒートを残し、たったの5ポイント差。これについては?

山本  そうですね。走る上では、あってないようなものですね。「リードしている」という気持ちはまったくないですし、少しでもリラックスして走ろう、と考えています。「最善を尽くす」のみですね。「プレッシャーが」、とよく言われますが、自分の場合、これはあまりありません。こういう状況でもしっかり寝られるぐらいですからね。とにかく、明日の2レースは、すべてを出し切りベストを、です。もちろん、タイトルを獲る気でいます。

IAクラスでタイトルを獲得、となると海外への気持ちについて気になりますが?

山本  自分、今20才なんですね。海外に出る(海外のレースで走る)というには、ギリギリっていう声もあります。もちろん、海外のレースで走りたい、という思いはあります。実際、海外ライダーのような走りをしないと、世界中で通じるライダーにはなれませんし。しかし、海外に行く、と行っても周りの環境もライダー自身も、下準備をしないと勿体無いし、ただ行っても形にならない、とも考えています。そういう意味では、海外で走る、という環境は国内(日本)でも作れるんですね。具体的には、彼らの走りとの実際のひらきや、イメージとのひらきがあり、それを詰めていく、という練習であったり意識改革ですね。もちろん、直接体感して彼らとの差を詰める、というのが近道ではありますが、ファクトリー入りしてからはオフシーズンにアメリカに行かせてもらっていますから、その時のイメージと自分の走りの差を詰める。

1周目で出遅れたヒート1。決死の思いで最終戦スポーツランドSUGOのコースを駆け抜ける。

1周目で出遅れたヒート1。決死の思いで最終戦スポーツランドSUGOのコースを駆け抜ける。

自分に対するイメージよりも実際の自分が遅い、という状態でもありますし、年間を通して海外に行き続けなくとも、まだまだ国内で克服する課題はたくさんあります。他に、『海外』と言った時にアメリカか、ヨーロッパか、という選択肢がありますが、個人的には英語圏が助かりますね。以前イタリアへ行った事があるのですが、英語がまったく通じないんです。英語ですら今勉強中なので、『海外』に行くなら、そっちですね。オフシーズンにアメリカなどに行って、海外との差を掴んできて、それを日本に返ってきて一歩ずつ詰めていく。これが出来れば理想ですね。

今日は、タイトルがかかった大事なレース前日にお時間いただき、ありがとうございました。

 

翌日、山本選手は午前のヒート1でまさかの1周目転倒。ほぼ最後尾からの追い上げとなり、ライバルに大きく水をあけられる。最終的には5位まで追い上げてのフィニッシュとなったが、ランキング2位の星野優位選手が3位フィニッシュとなり、お互いの差は1ポイントと詰まる。

 

午後のヒート2、山本選手はオープニングラップを2番手でクリアするもその後ペースが上がらず、最終的に8位まで後退。しかしライバルの星野選手が10位に終わったため、山本選手の念願のシリーズタイトルが決まった。両ヒートを1位で揃えての完勝にはならなかったが、ゴール直後に嬉しさで出迎えた渡辺監督との抱擁が印象的だった。山本選手はIA2クラスで2006年の小島庸平選手以来のタイトルをスズキにもたらした結果にもなった。

 

ゼッケン『1』を付けて走る、彼の来シーズンが今から楽しみでならない。

 

 

ランキング2位とのポイント差を僅か『1』にまで詰められてしまったヒート2スタート前。

ランキング2位とのポイント差を僅か『1』にまで詰められてしまったヒート2スタート前。

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