掲載日:2020年02月27日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/中村 友彦 写真/伊井 覚
HONDA LEAD 125
日本独自の排気量区分である50ccクラスが、徐々に縮小していく一方で、近年の国産4メーカーは原付二種、中でも世界的な基準に適合する90cc超~125cc以下のピンクナンバー車に力を入ている。ちなみに、昨今のこのクラスを牽引しているのはホンダで、日本市場には10種類以上のモデルを投入しているのだが……。ズラリと並んだラインアップの中で、2輪メディアが取り上げる機会が多いのは、スーパーカブ/クロスカブシリーズやPCX、モンキー125、グロム、CB125Rなどで、リード125にスポットライトを浴びる機会はめったにない。その理由はおそらく、前述した他機種のような華、わかりやすい特徴がないことだろう。とはいえ、1982年の初期型登場以来、堅実な熟成を続けて来たリードは、日本製スクーターならではの利便性を真摯に追求したモデルとして、現在でも多くのライダーから支持を集めているのだ。
1976年型ロードパル50で、原付オートマチック車の可能性を認識したホンダは、1980年になると、同社初のフラットフロアを実現したモデルとして、以後のスクータブームの火付け役となるタクトを発売。そして1982年の同社は、イッキに約10台ものスクーターを市場に投入する。その中で最もスポーツ性を強調したモデルが、当時としてはクラストップの5/6.5psを発揮する、2スト単気筒のリード50/80だったのだ。ただし、1988年の2代目でシート下のメットインスペース、1998年の3代目で前後連動ブレーキを強調するなど、歴代リードは徐々に実用性重視の高級車路線にスイッチ。もっとも、年を経るごとに厳しくなる排出ガス規制に、2スト+キャブレターでは対応できなくなったため、2000年代前半でリードの歴史はいったん途絶えることとなった。
そんなリードが、4スト+インジェクション車として復活したのは、2008年のことである。ただし110ccのみとなった4代目のリードは、東南アジア市場用のSCR110を、日本向けにモディファイした車両だったのだが、生産を中国からベトナムに変更した2013年以降の5代目は、グローバルモデルとしての基礎体力を高めつつ、リードならではの魅力を徹底追及。LEDポジションランプ+ウインカー+クロームメッキのガーニッシュをV字型に配置したフロントカバーのデザインからは、既存のリードとの差別化を図ろうという意識が感じられたものの、車体構成は既存のリードに準じており、エンジンは他機種で実績を積んだ4スト125ccのESPを導入していた。
以後のリード125は2013年型の基本構成を踏襲しながら、2018年型ではLEDヘッドライトや12Vアクセサリー電源ソケットの導入、足着き性に配慮したフロア形状の変更といった仕様変更を行い、カラーリングについてはツートーンや限定車を設定。なお価格帯で見るなら、現在のホンダが日本市場に投入している10種類以上の原付二種の中で、リード125はそれらのちょうど中間となる、31万5700/31万9000円で販売されている。
スクーターにどんな性能を求めるかは人それぞれ。でもシート下の収納スペースを重視する人にとって、リード125に勝るモデルはないだろう。何と言ってもカタログに、フルフェイスヘルメットが2個収まった写真を掲載している原付2種は、日本車では唯一、リード125だけなのだから。もっとも、形状やサイズによっては収まらないことがあるようだし、数値上の容量はヤマハ・アクシスZのほうが0.5L多いのだけれど、近年になって登場したグローバル指向の125ccスクーターの多くが、シート下の収納スペースはヘルメット1個+αで十分という姿勢で開発されているのに対して、リード125は現行モデルでも、利便性に関する妥協は一切していないのだ。
では実際走りはどうだったかと言うと、懐かしくもあり新鮮でもあった。その背景には最近の僕が、同じホンダのPCXやADV150、ヤマハNMAXなど、グローバルモデルを数多く体験していたという事情があって、軸間距離が1300mm以上、車重が130kg前後で、大径ホイールを履くそれらと比較すると、軸間距離が1275mm、車重が114kg、ホイールが12/10インチのリード125の乗り味は、かなりキビキビしている。だから渋滞路での進路変更や狭路でのUターンが、至って簡単に行えるのだ。都市部での使用がメインになるライダーにとって、この特性は有利な材料になるに違いない。
改めて考えると、1990年代以前の原付二種スクーターは、ほとんどがそういった特性を備えていたのだけれど、現在の視点で考えるなら、リード125は貴重な存在と言っていいのではないだろうか。
などと書くと、リード125のライバルとなる、ヤマハ・アクシスZ:1275mm/100kg/前後10インチや、スズキ・スウィッシュ:1250mm/114kg/前後10インチのユーザーから苦情か来るかもしれない。確かにキビキビ感という面では、ヤマハとスズキのほうがやや優勢だろう。でも逆に言うなら、軸間距離を極端に短くせず、フロントに12インチを履くリード125は、前述したグローバルモデルほどではなくても、ライバル勢よりは安定性に秀でているのだ。さらに言うなら、アクシスZとスウィッシュが搭載する空冷単気筒と比較すると、リード125の水冷単気筒は滑らかで上質な印象である。こういった地道で絶妙な作り込みが評価を集めているからこそ、リード125は多くのライダーから支持を集めているのだ。